少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

21話

21話






結局のところ最後まで捕まらなかったのはステータスを初めからAGIに全部振りし、装備もAGI上昇効果を付けていたシルヴィアさんでした。
このゲームではAGIに振ることで槍の攻撃が上がるらしく、それが功を成したよう。


あ、シルヴィアさんに肩車してもらって逃げていたキドさんも逃げ切れたそうです。
まるで十二支物語のネズミみたいですね……と思ってしまったのは内緒です。


この"鬼ごっこ"はパーティに関係なく全プレイヤーで一人でもクリア出来れば全員クリア扱いになるそうで、無事私達は茨木童子を討伐(?)し、駿河城へとたどり着くことができました。
今ここにいるのは私、シルヴィアさん、キドさん、アルさん、くふさん、そしてウィングさんの6人です。


因みにですがあの鬼ごっこをクリアしても報酬はありませんでした。ミニゲーム的な扱いだったようです。


「で、どーする?とりあえずこのまま駿河城に突っ込む?それとも一旦解散する?」


やっぱりお城って大きいですね……なんてお城を見上げていると、シルヴィアさんがそう聞いてきました。
メニューを開いて時間を確認します。時刻は現在午前11時30分くらいで、お昼ご飯を食べるには微妙な時間でした。


うーん。しかしあと1時間ほどでこのお城を攻略できるかと言われれば、出来なさそうですし。


「因みにだけど私ときっちゃんは大丈夫だよ。いつも昼ご飯は2時くらいに食べてるし」


遅っ!と一瞬ツッコミを入れそうになってしまいましたが、昼ご飯を食べる時間なんて人それぞれだと思いなんとか踏みとどまりました。


「私も平気だ。昼飯は何時食べても夕飯は入るしな」
「私も平気ですよー。面倒くさいですけど」


アルさんも平気でくふさんも平気、と。それならば空気を読んで頷いたほうが良さそうですね。
1日くらいお昼ご飯の時間がズレたとしても恐らく問題ないでしょうし。


「私も大丈夫なので、行きましょうか。フォーメーションはいつも通りでいいですか?」


いつも通りのフォーメーションとはアルさんがタンクで、キドさんとシルヴィアさんが前衛、そしてくふさんと私が後衛の配置のことです。


私の問いに対しアルさん達はコクリと首を縦に振りました。
よし、それじゃあ出発しましょう!


「って、ちょっと待って!僕のこと忘れてない?!」


出発しようと意気込んだ私たちの後ろから聞こえてきた男性の慌てるような声。
不思議に思い振り返ると、そこにはウィングさんが居ました。


「あれ、居たんですか?」
「さっきからずっと居たよ!パーティにも入ってるよ!あやちゃん何か僕に対する当たりが酷くない?」
「気のせいですよ」
「いや気のせいじゃないよね?!」


別に先ほど追い回されたのを気にしているわけではありませんよ?
鬼ごっこですし、鬼が逃走者を執拗に追い回すのは当たり前なんですから。……本当に気にしてませんからね?


そんな醜い言い争いをしている私たちを見兼ねたのか、シルヴィアさんが苦笑いをして口を挟んできました。


「ウィーちゃんはやっぱりいつも通りの商人?」
「え、ええ。いつも通りの商人ですよ。ベータ版のときと同様〈特価交換〉スキルが使えます」


〈特価交換〉の効果はたしか、お金やエネミーからドロップする素材を消費し、自身やパーティメンバーにさまざまなバフを付与する……だった筈です。


貴重なアイテムや大量のお金がないと〈特価交換〉でまともなバフを付与できないため、商人をやっている人はウィングさんしか居ないと言われています。


「それじゃあウィングさんはとりあえず後衛ですかね?ゲームの序盤ですし、まだまともな素材やまとまったお金もないでしょうし」
「うん。申し訳ないけどそれでお願いするよ。〈鬼特攻付与〉程度のバフなら簡単に出来るから、多少は役に立てると思うよ」


そう言うとウィングさんはニッコリと笑みを浮かべました。
それを見た私は相変わらず胡散臭い笑みだなぁと思いつつ、全員に〈ハイリジェネ〉を付与しました。


そうして私達はアルさんを先頭に前衛後衛と並び、不用心にも開け放たれている城門を潜り抜けました。


その先に待ち受けていたのは––––


「おお、ようやっと来いはったか。待っとったぞ?嬢しゃんたち」


 なかなか様になっている大阪弁を口にして、額に一本角を生やした袴を着た男の子––––酒呑童子がどーんと待ち構えていました。


初めて会ったときとは違い、彼の黒色の髪と瞳はまるで焔のように爛々と輝いていて、口元には好戦的な笑みを浮かべています。


「お?あの図太いにいしゃんに狂戦士の嬢しゃんは今日はおらへんのか?」
「ええ。今日はいませんよ」
「さよか、さよか。あの嬢しゃんとは一度やりあってみたかったんやが、おらんならしゃあないわな」


酒呑童子はスッと目を細めて、私たちを見据えました。
まるで獲物を見定めるかのような目。〈威圧〉かそれに似たスキルが込められているようで、ビリビリとした威圧感が伝わってきます。
もちろんそんなもの私に効くはずがありません。
これくらいの威圧感に耐えられなかったら嫉妬の念やや殺気溢れるモデルなんてやってられませんからね。


それに一切動じない私たちを見て、酒呑童子は嬉しそうに口元をゆがめました。


「ほお、これに一切動じへんか。ふふ、今回は大当たりのようやな。オノレさんら……わしを楽しませてくれよ?」


そう言うと酒呑童子は、腰に差してあった一本の刀をゆっくりと引き抜いた。


〈ワールドアナウンスです。ただいま、イベント特設エリア【駿河城】に、イベントボス【酒呑童子】が出現しました。最大で8人で挑むことが可能です。プレイヤーで協力して、ボスを討伐しましょう!〉


桜色に染まった刀身の刃先を私たちに向けて、酒呑童子は言い放ちました。


「––––来いや」


私たちは一斉に、各々の武器を構えました。




◇◆◇◆◇◆◇




先手を取ったのはアルフレッドだった。
彼女は手に持っていた盾を、全身の力を使って酒呑童子めがけて投げつけたのだ。
それと同時に地を蹴り、インベントリから新たな盾を取り出す。


「……ほぉ。スキルを使わんとここまで綺麗に盾を投げられるとはな」


しかしそれは酒呑童子の一太刀によって斬り伏せられ、真っ二つに分かれあらぬ方向へと飛んでいく。
そしてそのすぐ後に、アルフレッドによる【シールドバッシュ】が酒呑童子に直撃した。


「危ない危ない。この刀が鈍やったら折れとったやないか」
「チッ。やはり一筋縄ではいかないか」


アルフレッドの渾身の一撃を脆いはずの刃先で受け止めたのにもかかわらず、刀は折れることなく酒呑童子の手に収まっていた。


本当に刀なのか?と疑問に思ったアルフレッドだったが、すぐさま気持ちを切り替え今度は白銀に煌めく剣をインベントリから取り出した。
盾はアルフレッドを覆い隠すほどの大きさがあるため、酒呑童子は彼女が剣を取り出したことには気づかない。


アルフレッドはすぐさま盾をインベントリに仕舞い、拮抗していた力がなくなったことによってバランスを崩した酒呑童子に向かって剣を振りかぶる。
しかしそれも、突き出された柄頭によって受け止められてしまう。


「おもろい戦法を使うんやなあ。ワレさん」
「……どんな反射神経してるんだ、お前は」


わずか十数秒間の攻防。だがそれだけでも、アルフレッドたちは酒呑童子の実力を理解することができた。


「悪いが、四天王たちみたいに簡単には倒されへんぞ?」


それを聞いたアルフレッドは、うん。真面目にやろうと再びインベントリから盾を取り出した。



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