少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

14話運営側-1

14話






「ふう。ようやく正式版の配信だな」
「ですね、ゲームマスター」


 とあるオフィスビルの一室で、二人の男女が話をしていた。
 二人とも共通しているのは、目の下にクマがあるということだ。


「ベータ版のときは正直焦ったよ。まさかあんな化け物たちが勢揃いしているとは思っていなかった」
「…そうですね。まさか約一万回の戦闘をして、全て勝っているのにもかかわらず、一度もダメージを負っていない人がいるのには驚きました」
「…ああ。彼女はプロゲーマー界でも【ジャパニーズモンスター】と呼ばれるほどのやばいやつだ。––––私たちが創ったこの世界、《Everlasting・world》には、彼女の他にもかの高名なプロゲーマーが多数参戦するらしいぞ。」


 コンコンと、ドアをノックする音が男たちの耳に入った。


「どうぞ」
「お邪魔しますねー。とりあえずの第一陣、おおよそ千名全員のログインが確認されましたのでご報告にきました」


 扉をあけて入ってきたのは、この場にはそぐわないような、所謂ゴスロリと呼ばれる服を着た、少しばかり…身長の低い女性だった。


「…ご苦労様です。蓮さん、ゲームマスター…いえ、荒田社長のところへ来るときはスーツ姿でって、前に言いましたよね?」


 女性は、ゴスロリ服を着た女性––––蓮に対し睨みつけながらそう言った。
 しかし蓮はニヤリと笑い、


「もー、沙耶ちゃん、そうかっかかっか怒らないの。別に社長は気にしてないしいいじゃない?」


 と女性––––沙耶に言葉を返した。


「……はぁ。本当に常識がない人ですね…」
「常識は人によって違うんだよ?」
「屁理屈言わないでください」


 胃が痛い…、そう思いながら沙耶はこほんと咳払いをして


「…では、報告をどうぞ」


 と蓮に向かって言った。


「ふふー。そうそう、それでいいの。––––今回の正式版の参加者は、VRゲームの界隈で知らぬ者はいないと言われている人たちが沢山いるみたいだね」


 その言葉を聞いた男––––荒田は、思案げな顔をして、


「ふむ、たとえば?」


 と蓮に聞いた。


「そうだねー、【遊戯世界】でいろいろやらかした【聖女さま】《Aya》に、【殲滅槍士】《silvia》、【終末世界】の【殺戮姫】《kufurinn》に、《妖精姉弟》《as》と《kaban》、あとは…、【農家ファンタジー】の【農家】《ピーマン》に【場違い】《レン》とかかなー。他にもいたけど、忘れちゃいました!」
「ふむふむ、ありがとう。結構いるな…。まさかピーマンさんが参戦するとはな」
「このゲームでは農業でもなんでも出来ますしね。それが魅力的だったんでしょう」
「蓮、ちなみにだがその中であのシステムに気づいたのは何人だ?」
「ちょっとまってください……おっけー。ちょうど7人ですね」
「…そうか。もしも気づかれなかったらどうしようかと思っていたが…、杞憂だったようだな」
「とりあえずその7人には目をつけておけ。あとは、あいつらにもだ」
「ほいほーい。わかりましたー」


 ではまたー、蓮はそう言って、この部屋を退出した。


「さて、どうなるかな?」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 とあるオフィスビルのゲーム内監視部屋で、四人の男女が、それぞれ八つのパソコンの画面を注視していた。




「うおー!世界樹を【聖女さま】が目覚めさせやがった!」


 一人の男が、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。


「はやっ!」
「え?まじで?初期の魔力値だったら普通あの条件に届かないと思うんだけど」
「《限定スキル》の効果だナ。AIが【聖女さま】に与えたのは《慈悲者》だろう?」
「なるほどなー…、っておい、なんか眠りだしたぞ!」
「ゲーム内じゃ寝られないはずだったが…」
「おい、お前ら羊人系統種族の【特性】を忘れたのか?」
「…………もちろん覚えていたさ」
「その間はなんだよ…」


「お、【ジャパニーズモンスター】に姉弟の片割れにサナのやつがきたぞ」
「サナちゃーん…、【殲滅槍士】の監視はどうしたの…」
「あいつ監視というよりは完全に楽しんでるけどな」






「おいおいおい、聖女さま大佐に道案内お願いしてるぞ」
「まじか、しかもあったばかりなのに信用度バリ高いじゃない」
「【春の精霊】の効果だな」
「このままあのAIだけどAIじゃない…特殊AIでいいか。特殊AIのところに案内されるのか」
「ソフィーだっけな」
「ああ。この世界の初期からいるやつだ」


「はーっ?!ちょっと待って!なんで【魔力操作】教えちゃってるの?!」
「おいおいおい。データの修正いれねえといけねえやつじゃねえか」
「あ、聖女さま寝ちゃった」
「今の内だ」


 一人の男が、キーボードでなにかを打ち込んでいる。


『あー…、【大賢者ソフィー】聞こえてるか?』
『………なにかよう?この自称神ども』
『なぜ【魔力操作】を教えた』
『え?もちろんこの子に才能があったからに決まっているじゃないか』
『…禁止したはずだが?』
『は?君たちの親玉には弟子にするものになら教えていいと聞いたけど?』


 ……あのクソ社長!男は心の中で悪態をついた。


『この子に手ェだしたらタダじゃおかないからね?』
『………わかった。それについては黙認しよう』
『あ、本人が【回復魔法】の獲得を望んでいるから教えるからね』
『え、ちょ–––––』


 プツッという音がして、パソコンの電源が落ちてしまった。


「………社長ェ」
「…仕方ねえ。あの人がやったことだ」


「…まじで弟子になりやがった」
「……まじか………」




「…おいおいおい、ラッキーラビットがやられてるぞ!」
「えっ、はっ、えっ?」
「ははは、ジョークは辞めてよ」
「いや、まじだから。しかもやったの聖女さま」
「……ネタキャラもやられてるし」
「ネタキャラは当たり前だな。あれ弱いし」




「おいおいおい、頼まれたからって普通殺すか?」
「しかもなんか笑ってるし」
「こわー……」


「ソフィーちゃんナイス!」
「そういえばいい忘れてたな」
「制限かけたのこっちなのにそれを言い忘れるとか……」
「うるせえ!」




「……その顔はダメだ」
「まわりに人が…一人いるけどいなくて良かったわ…」
「うわ…、【殺戮姫】性格わっる……」
「うーむ…、焼き鳥うまそうだな」
「あとで食いに行くか」
「さんせーい」




「おいおいおいおいおい!まじか…まじかよ…、システムが許可したとはいえ普通腕を短剣で跳ね飛ばして回復魔法の練習するか……?」
「…ガチもんの効率厨……ならするかも」
「怯えてる【殺戮姫】かわええ」
「うわー、引くわー」




「怯えてる聖女さまかわええ」
「それには同意……、というかなんでウロボロスが来てんだよ!」
「うーん、サブクエストの発生は専用AIが管理してるからねー。私たちそういうの手を加えてないからね」
「どうせなら監視も任せれば…ダメだな。俺たちの楽しみが減る」




「………………(呆然)」
「顔がアンコウみたいになってるぞ」
「うっせえ!というかなんでこいつらタイムスコア10秒出してんだよ!」
「……【瞬間蘇生】修正するの忘れてた………」
「……まじか」
「………ちょっと聖女さまにメール送ってくるわ」
「……ちょっと修正してくる」






「……………ん?」
「どうした」
「……俺が設定したフィールドボスがどこにも見当たらないんだが…」
「ああ、それ?つまらないから私が変えちゃった☆」
「はぁぁぁぁぁ?!おい待てお前!何やってんだよ!しかもキングスライムって、【魔の領域】のモブキャラじゃねえか!」
「……お詫びの品考えてくる」
「…いつ修正しよう」




「……………キングスライム倒されたんだけど」
「……………え?」
「……………え?」
「……………え?」
「……………え?」
「……レベルキャップが解放されてない状態であれに勝てると思えないのだが…」
「パテ面は【殲滅槍士】にサナちゃんに【ジャパニーズモンスター】に【聖女さま】に【殺戮姫】…いつものメンツだな」
「えーなになに?【破壊の槍トリシューラ】に【無駄なしの弓フェイルノート】に【敗北知らずの愚者】…、だれだよよりにもよってこいつらにこれ持たせたの!」
「仕方ねえだろ!ベータ版の戦闘などを参考にして与えられるんだから!」
「聖女ちゃん【魔法合成】覚えやがってる…」
「さてと…、ちょっくらゲームのなか行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませー」













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