少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

1話

1話




 私はいま、【第1都市】の北門から出たところにある、【始まりの平原】に来ています。


 その理由は–––おわかりだと思いますが、レベリングです。【種族】と【職業】の。


 ソニアさんに「聖女になってこい」と言われましたが、どうやったら【聖女】になれるのか、言われてないんですよね。


 まあ、それも含めて試練だとは思うんですが。


 私の推察、というか経験則ですが【聖女】は【回復術師】系統の上級職だと思うんですよね。ウィスパーアナウンスが言うにはスペシャルジョブ……、つまり特殊職ですね。


 このゲームでは、モンスターとの戦闘で経験値を得ると【種族】のレベルが上がり、【戦闘職】なら戦闘で、【生産職】なら生産で、【回復術師】なら【回復魔法】の使用で、【職業】のレベルが上がる仕組みになっています。
見たらわかると思いますが、【戦闘職】だけは一石二鳥な【職業】なのです。


 …別に羨ましくなんかないんですけどね。


 とまあ、どうせなら効率よくいきたいな、と思いまして。
 そして、素晴らしいことを思いついたのです。


 このゲームは、モンスターを倒さなくても経験値が入る仕組みになっている。
 しかも、このゲームは「もう一つの世界を」という理念のもと作られています。


 ということはつまり…、敵対しているモンスターにも【回復魔法】が通じるかもしれないという事です。
 というか通じるらしいです。ソニアさんがそう仰ってましたし。


 ならば、〈敵対モンスターを限界まで痛めつけて回復させるを繰り返す〉をすればとてつもなく効率よく経験値を稼げるのではないかと考えたのです!


 ふっふっふ、素晴らしい考えでしょう?


 ––––では早速やっていきましょうか。


 門番さんから聞いた話では、整備された街道を離れすぎない限り、強いモンスターはでないそうです。
 街道の近くにいるのはたいてい弱い「兎」、稀に強い「兎」が出没するらしいです。


 余談ですが、ここからずっと南東、もしくは南西に進んでいくと、門番さん曰く「初心者狩りの森」とやらがあるそうです。
 名称からしてなにやら怖そうな場所ですね…。


 この国は、海に面していた森を開拓して作られたそうで、南門から国を出ると海を見られるそうです。
 しかし今、海に「嵐」が訪れているそうで、海へからの出入りが禁止されているそうです。


 閑話休題。


 では兎とやらを見つけて、狩って…、いえ。敵対モンスターを限界まで痛めつけて回復させるを繰り返す、をしましょうか。


 この世界には「動物愛護法」なんてありませんし、別に大丈夫でしょう。


 私は街道を真っ直ぐと歩き始めます。歩いている最中、ちらほらと兎と戦っているプレイヤーを見かけましたが、なぜか悪戦苦闘していましたが、そんなに兎って強いのでしょうか?


 街道の近くにいるの兎は、大半が他のプレイヤーと戦闘を行っていたので、私は少し街道を離れることにしました。


 五分ほど道無き道を進んでいると、私はようやく、他のプレイヤーと戦闘を行なっていない何匹かの兎を見つけることができました。
 …なぜか金色に輝いていますが


 私との距離はちょうど6メートルほど。幸い兎たちはこちらに気づいていません。


 私は腰に差してあった短剣【紅桜】を抜きました。




 【紅桜】…淡い桜色をした剣身を持ち、峰の部分は紅色をしている短剣。かつて【四季の巫女】と呼ばれたものが愛用していた短剣。
 INTに応じて鋭さ、与ダメージが上昇する。
 状態:【封印】…真の姿を封印している。条件を達成することで封印は解かれる。
 付与:【INT+3】【回帰】




 【回帰】…これが付与されたものは、投擲した、および紛失した際、【回帰】と念じることで、手元に戻ってくる。(【魔力】or【スタミナポイント】を1消費する)




 私は一匹の兎に狙いを定めて、【紅桜】を耳の後ろのあたりにまで持っていきます。
 脇を締めて、余計な力は込めずに、腕や肩に余計な力を入れないようにします。
 そして右足を踏み出し、【紅桜】を握った腕を、胸のあたりにまで振り下ろし、【紅桜】を投擲しました。


「…ふっ!」


 【紅桜】は綺麗に標的に向かって飛んでいき、ドスッと鈍い音を立たせて、標的にぶっ刺さりました。
 兎は「キュッ………」と悲鳴をあげて絶命しました。


《種族レベルが1→3に上昇しました。HPが40上昇しました。MPが40上昇しました。ステータスポイント4を獲得しました》


《ラッキーラビットを討伐しました。これにより、スキルポイント1を獲得しました。奇襲ボーナスにより、スキルポイント1を獲得しました》


《奇襲に成功したことにより、スキル【奇襲攻撃】を獲得しました》


 【ラッキーラビット】…逃げ足だけは韋駄天のごとく早い兎。ラッキーラビットは討伐した際、スキルポイントを1獲得できる。


 【奇襲攻撃】…パッシブスキル。奇襲攻撃の成功率が上昇する。


 それに気づいた兎たちは、「キュウ〜〜!」と叫び声をあげながら脱兎のごとく––––本当に脱兎ですね––––逃げ出しました。


 あちゃー…、逃げられましたか…。…あ、逃げた兎の一匹が鷲みたいな鳥に攫われましたね。ご愁傷様です。


「【回帰】。…失敗ですね。まさかこうも簡単に死んでしまうとは」


 私は絶命した兎に近づいていきます。私は絶命した兎の横に座り込み、どうしようかと兎を眺めました。


 毛皮が綺麗ですね、そう思い私は兎に触れてみました。


 すると私が触れた瞬間、兎の死体はポリゴン化して、毛皮と赤色の宝石のようなもの、そして黄色っぽいゴツゴツした小さな石をを残して消え去りました。


 私は毛皮と赤色の宝石のようなもの、そして黄色いゴツゴツした小さな石を拾い上げます。


 【ラッキーラビットの毛皮】…ラッキーラビットの毛皮。一撃で仕留められたため、非常に品質が良い。


 【赤月の宝石ブラッドムーン・ジュエル】…ラッキーラビットの瞳。そう、それはまるで宝石のような…、いえ、宝石です。ラッキーラビットの瞳は、ラッキーラビットが死んだ後、宝石と化します。


 【Bランクの魔石】…Bランクの魔石。


 ……あの兎、実はすごい兎だったのでしょうか。
 素材も結構良いもの、なのかも知れませんし、なによりスキルポイントが手に入るというのがいいですね。


 私はキョロキョロと辺りを見回します。
 先ほどの兎のような、金色の兎は見当たりません。


 かわりに見つけたのは……


「…………oh。なんですか、あれ」


 頭に赤い鉢巻を巻き、柔道着を着た、マッチョでいかつい兎が、遠方からこちらをじっと見つめていました。


 シュッシュシュッと、なにやら拳を振っています。…それってボクシングじゃないですかね?


 【格闘家ウッサギマン】…詳細は不明。


 ………なんですかその名前。ネーミングセンスなさすぎでしょう運営さん!


 すると突然、ウッサギマンは歯をむき出しにして笑い、こちらに向かって走り出してきました。


 …シルヴィアさんがいたらきっと大爆笑していたでしょうね…。


 …とりあえず、どうしましょうか。


 ウッサギマンの足は結構速いようで、おそらくあと10秒ほどでこちらに着いてしまうでしょう。


「……ものは試しですね」


 私は【紅桜】を構えて、ウッサギマンに投擲しました。
 当然、避けられ––––避けられ?


 私の投擲した【紅桜】は、ウッサギマンの脳天にぶっ刺さり、ウッサギマンを一瞬で絶命させました。


《スキル【短剣術】のレベルが上昇しました》


「……………え?」


 えっとまさか、見掛け倒し、ですか?


 とりあえず私は「【回帰】」と呟いて、ウッサギマンに近づきます。




 【格闘家うっ詐欺マン】…運営がネタキャラとして作成したモンスター。見かけは強そうに見えるが、実は真っ直ぐにしか走れない。防御しようとしない。実は攻撃力以外のステータスは1である。一応攻撃力は高いので、【始まりの平原】の強キャラ(笑)として配備されている。経験値はレベルに関係なく1しか貰えない。




 まさかの運営が作ったネタキャラでした。


 …うん、忘れましょう。見なかったことにしましょうか。


 とりあえず脳天がかち割れたうっ詐欺マンに触れて、ポリゴン化させます。
 ウッサギマンは、赤いハチマキと、柔道着を残して消え去りました。


 …さて、気を取り直して、敵対モンスターを限界まで痛めつけて回復させるを繰り返す、ことのできるモンスターを探しましょうか。


 …できれば魔法も使って戦ってみたいですね。



















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