少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

7話 チュートリアル-4

7話 チュートリアル-4






 まあ、今回は名前が出ていませんでしたし、大丈夫でしょう。


 私はそうあたりをつけて、それについて考えることを捨て置いた。




「んー、そうだね。ついでに【本契約】も済ましてしまおうか」




 …【本契約】、ですか?


 私が眉をひそめて彼女を見つめていると、




「ああ、【本契約】とはまあ、他の有象無象どもに、ワタシが君以外に弟子を取らない、と示すものだ。簡単に言えば」




 ……なるほど。なら問題はなさそうですね。




「わかりました。えっと、私はなにをすれば?」


「うん、それはね。–––ワタシに、キスをしてくれればいい」




 ………………。


 私は終始無表情になり、ソニアさんを見つめた。




「…ふざけているんですか?」


「いや、ワタシはいたって真面目だよ?だって、【師弟契約のくちづけ】とは、そういうものだしね」




 ソニアさんも無表情になり、こちらを見つめる。




「それに、別に唇にしろとは言っていない。ワタシの身体のどこにでもいいから、キスをしてくれればいいんだ」




 …………恥ずかしいですが、まあ、そういうことなら……。
 たしか外国では挨拶がわりにキスをすると聞きますし、問題ないでしょう。きっと。


「なら、手の甲を出してください」




 私がそう言うと、ソニアさんは右手の甲を前に出した。


 私は少し顔を下げて、そこにそっとキスをした。


 顔に熱が集まっていくのが、自分でもわかる。おそらく、耳まで真っ赤になっているだろう。




「……これで、いいんですよね…?」




 私がそう小声で言った次の瞬間、私の頰とソニアさんの右手の甲に、魔法陣のようなものがあらわれた。


 どうやら、ソニアさんが何かをしたようです。




「……あ、ああ。これで【本契約】も完了だ」




《称号:【大賢者の弟子(仮)】が、称号:【大賢者の弟子】に変化しました》




 【大賢者の弟子】…【大賢者ソフィー】の弟子であることを証明する称号。
INTに補正がかかる。(INT+5)




 【大賢者ソフィー】…【神の門バベル】を守護する【三大賢者】のうちの一人。




 なぜかソニアさんの顔も、ほんのりと赤く染まっていた。




「ご、ごほん。–––では、先ほどの続きを再開しましょうか」




 一度咳払いをしてから、ソニアさんはそう言った。




「……いちいち口調直す必要あります?」




 私がそう聞くと、ソニアさんは目をそらして




「…気分的な問題ですよ」




 と言った。そしてふぅ、と息を吐き、指をパチンと鳴らした。
 すると、ソニアさんの着ていた所謂ゴスロリと呼ばれる服が一瞬にして、はじめふに着ていた白色の祭服に変わった。




「–––さて、Ayaさん。とりあえずすてーたすを開いてみてください」




 私は言われた通りに、ステータスを開いた。


〈名前:Aya 性別:女 種族:天魔:羊人LV1/40
職業:回復術師Lv1
HP:1000/1000
MP:2720/2720
SP:500/500
STR:5
INT:34(86)
VIT:1
DEX:24(27)
AGI:1(4)
LUC:1
残りステータスポイント:0
《装備》
頭:【純白ベール】(【INT+3】【浄化】)
胴:【純白のローブ】(【HP+500】【浄化】)
手:【純白のグローブ】(【DEX+3】【浄化】)
脚:【純白のローブ】
靴:【純白のシューズ】(【AGI+3】【浄化】
武器:世界樹の杖:白桜(【INT+1】【MP+500】【不壊】)
アクセサリー1:なし
アクセサリー2:なし
アクセサリー3:なし
《スキル》
〈全種族共通語Lv-〉〈反転Lv1〉〈慈悲者ザドキエルLv1〉〈回復魔法Lv1〉〈詠唱破棄Lv1〉〈杖術Lv1〉〈魔陣術Lv1〉〈鑑定Lv5〉〈魔力操作Lv1〉
《控え》
〈短剣術Lv1〉
残りスキルポイント:0
《加護》
【大賢者の庇護】
《称号》
【春の精霊】【魔の探求者】【大賢者の弟子】(INT+5)〉




 【大賢者の庇護】…大賢者の庇護を受ける。




 ……あれ。いつのまに私は【魔力操作】を手に入れたんでしょう?
 …もしかして、あの文字化けしていた時ですかね?


 【魔力操作】を獲得することができた。その事実が、わたしの気分を高揚させる。
 自然と、私の頰が緩む。




「ふふ、嬉しそうな顔をしていますね。【魔力操作】を獲得できましたか?」




「はい!手に入れることができました!」




 嬉しそうにそう言った私に、ソニアさんは笑みをより深くして、




「ふふ。それはなによりです。–––ならば早速、【魔力操作】の練習に入りましょうか」




 なにより待ち望んだその言葉を、そう私に告げた。


 未知を、魔力をっ!これを使えば操作できるんですよっ!




「はいっ!」


「まずは、私たちにとっては・・・・・・・・初歩的な技術である魔力の抽出。空気中に《魔力の塊》を作り、浮かべさせましょうか」




 【魔力】がどのようなものかは、さっきのアレで理解しました。
 ですのであとは、私自身の【魔力】を先ほどの要領で見つけて、操るだけですね。


 私は目を閉じて、全神経を、血液を血管に送りだしている心臓のあたりに集中させた。


 1秒、また1秒と、時間が経っていく。しかし今はその1秒が、まるで永久の時のように感じられた。


 …………ありました。


 私の【魔力】は、ソニアさんの【魔力】とは違い、荒々しい感じではなく、どこか、優しげな温かさを持っているように感じられた。


 そして私は、【魔力操作】を発動させる。
 ゆっくり、ゆっくりと。【魔力】を、手のひらのあたりまで、移動させていく。




《【魔力操作】のレベルが上昇しました》




 手のひらに、自分の魔力が集まっているのがわかった。
 そしてそのまま、それを空気中に出そうとして–––手が、一瞬淡く光ったかと思った次の瞬間、【魔力】は空気中に出ることなく、霧散してしまった。




《【魔力操作】のレベルが上昇しました》


「あっ……」




私は思わずそう呟いてしまった。




「……もう一度……!」


「はい、そこで一旦ストップ!」




 ソニアさんは一瞬だけ驚愕の表情を浮かべたが、すぐに真剣な表情になり、私に制止の声をかけてきた。




「…君、本当に【魔力】を動かすの初めてかい?」


「…?ええ。そうですが…」




 ソニアさんの問いに対して、私はそう答えた。するとソニアさんは、私に向かって先ほどのような、妖しい笑みを浮かべた。




「ふふっ、ここまでとは思わなかった。よし、少しだけペースを上げていこうか。–––Aya、魔力を空気中に出したいときは、圧力–––固め留める力を意識するんだ」




 そう言うと、ソニアさんは両手をお皿の形にして、そこからポポポンっと【魔力の塊】を大量に作り出した。


 ……なるほど。固め留める力、ですか。




「空気中には【魔素】と呼ばれる、一言で言うと【酸素】のようなものが存在するんだ。【魔素】は、非常に【魔力】との親和性が高くてね、すぐに【魔力】と結合してしまう。
【魔素】と結合してしまった【魔力】は、【魔素】に変質してしまう。なぜかね」




 つまり【魔素】+【魔力】=【魔素】というわけですね。
 ……それって【魔力】と【魔素】が大気中にあるか、生物の身体の中にあるかで呼び方が違うだけで、実は同じ物質だった。ってことじゃないんですかね?


 間違ってたら恥ずかしいので、口には出さないでおきましょう。




「【魔法】に、属性があるのはそれが原因だ。【属性系統魔法】は、【魔力】を火などの【現象】に変えることで【魔力】の変質を防いでいる。
ワタシぐらいの実力者なら、こうして【魔力の塊】を維持して居られるが、普通の魔法使いどもには出来ないんだよ」




 …………ん?




「ちょっと待ってください。【魔力の塊】の維持って、普通の魔法使いさんたちには出来ないものなんですか?」




 え、もしかしてこの人、初めて【魔力】に触れた人にそんな高度なことやらせようとしていたんですか?




「当たり前だろう?そもそも【魔法】を使うために、【魔力操作】は必要ない。例外はあるがな。自称【神】が、そのプロセス面倒臭いねとか抜かして、【魔力操作】を自動化させやがったからな。【魔力操作】を獲得してるのはワタシを含めた【三大賢者】くらいだろうさ」




 つまりこのゲームの【魔法】も、他のゲームと同じ自動モードクソ仕様というわけですね?




「……ならばなぜ、私は【魔力操作】の練習をしているんでしょうか?あ、いえ。別に嫌ってわけではないのですが。ただ単に、気になったので…」




「いや、だって君は【回復魔法】を習いに来たのだろう?【回復魔法】だけは例外的に、【魔力操作】がないと使えないんだよ。【回復魔法】は、【属性系統魔法】とは違い、純粋な【魔力】を使うんだ。【魔力】を固めて傷を塞いだり、魔力を腕や脚の形にして、部位欠損を治したりするからな」


「……なるほど。しかし、魔力を腕や脚の形にするって、難しいのでは……?」


「いや、大丈夫だ。【回復魔法】もワタシが階位を定めておいた」




 ほ……。それなら安心です。……あれ?【魔力操作】を使える人は【三大賢者】さんたちのみ、なんですよね…。え、ということは、




「…もしかして、【回復魔法】って使える人、全然居ないんですか?」


「そういうことになるね。【回復魔法】を使えるのは【三大賢者】であるワタシと【教皇】と【森の覇者】だけになるな。まああくまで、人間というカテゴリー内だけの話だがな」

















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