天空巫女と英雄譚

ノベルバユーザー356021

2話

  突然現れた男に驚き皆が口を噤んでいると、男がボリボリ頭を掻きながらカールズに近づいて来た。


「……どうも。今日からレニオゲス魔法学園講師になることになった、クライストス=レイザーです。右も左も分からない、なんなら前もわからないですけど、程々によろしくお願いします~」


  余りのいい加減な挨拶にカールズが言葉を失っていると、今まで黙り込んでたメルクが椅子から立ち上がりクライストスの目の前まで行き、ガンをくれるような感じで睨見始めた。


「…………」


「…………」


「……1時間以上の遅刻に対して謝罪なし……、その上あのいい加減な挨拶、……貴様塵になりたいのかっ」


「っ…………!」


  突如メルクから放っせられた殺気によって部屋が凍りついた。その殺気は、数々の実戦を経験し帝国トップクラスの魔法騎士、ネルトラですら、一瞬たじろぐ程の重くそして冷たい殺気だった。
  その殺気を浴びてる当の本人はただ静かにメルクの目を見据えていた。


「………………」


「………………」


「……私は…………貴様の事は認めん」


「………………」


  メルクは最後まで親の仇を見るように睨み続け、部屋をあとにした。後に残された三人はなんとも気まずい空気が流れていた。


「……まあ、……取り敢えず座りたまえ、クライストス君、ネルトラ君」


「あ、はい。失礼します」


「失礼しまーす」


  カールズは二人が座ったのを確認すると机から書類を取り出し二人の前に出した。


「…………取り敢えず、授業は明日からということでよろしいかのぉ?お二人方」


「はい。その通りです、どうぞよろしくお願い――」


「書類上じゃあそうなってんね~」


  先程メルクに本気の殺気を浴びせられ、注意されたクライストスは何処吹く風のように、また、いい加減な態度を取っている。それを見たネルトラは「ちゃんとしてください」と言った非難がましい視線を送るが、それすらも何処吹く風であった。それを見たカールズは笑顔で髭をいじりながらクライストスに言葉を投げかけた。


「……そういえば、すごいのぉ~、クライストス君。メルク君は元軍人で、軍人の時は「銀爪の虎」とも呼ばれた猛者だったのに、その殺気を浴びて眉一つ動かさないなんてのぉ~」


「…………」


「しかも帝国トップクラスの魔法騎士シャルル君をお目付け役に付けているとはのぉ~すごいのぉ」


「…………何が言いたいのかな、カールズ学園長?」


「いやはや、申し訳ないの。歳を取ってしまうと、変な言い回しになってしまうのじゃよ。別にこれと言った意味は無いのじゃがな、ふぉっふぉっふぉっ」


 学園長が朗らかに笑い。


「…………そうですか。てっきり僕が余りにも怪しさ丸出しなのでその事に関してカマをかけているのかと思ったんですけど、僕の勘違いだったんですねー。ハハハハハハ」


 クライストスも朗らかに笑う。


「そんな事するはずなかろうて、そんなに疑っていると大変じゃぞ。ふぉっふぉっふぉっ」


「そうですよねー。ハハハハハハ」


 二人とも朗らかに笑っているが、しかし、二人とも目は全く笑ってなく、二人の表情もよく見れば朗らかと言うよりも真っ黒黒の笑みだった。それに囲まれているネルトラは、うへぇー、て言う表情でお腹を抑えていた。


「それじゃあ、明日から講師として教鞭よろしく頼みますぞ。君に何があろうと、講師規定違反を犯さない限り我々はクライストス君を歓迎しますぞ」


「えぇ。……わかっていますよ。それじゃあ失礼します」


「失礼しました。」








 学園を出てネルトラとクライストスは帰り道の途中だった。まだ四月上旬の為、花は咲いてなかったが、青葉が茂っていて風が吹く度に太陽の光が反射してとても清々しい雰囲気だったが、隣を歩くネルトラがずっと睨んでたので清々しさも何も無かった。
 クライストスはそれを見て勘弁したように頭を振った。


「……わかってる。お前の言いたいことはよぉーくわかってる。しかしだな、なんか……こう……景色を楽しむとかあるだろ~」


「ふんっ!…………別にクライストスさんと景色を見たって楽しくありませんもん!!」


 ネルトラは臍を曲げた子供のようにそっぽを向いている。


「あー…………。やっぱり怒ってる?」


 確認する様にクライストスが顔を覗き込むと、ネルトラは、クワッと眼を見開き、般若の形相でクライストスへ詰め寄り胸ぐらを掴んで揺らしている。


「怒ってないはずないでしょうが!!!初日から遅刻の挙句、メルク講師との一触即発の雰囲気!学園長とのブラックなやり取り!!これで怒らないでいられますか!?」


「わかった、……わかったか……ら、胸…………ぐら、掴まな…………いで、苦……し……。」


 やっと離して貰えたクライストスは、涙目で女性の前で四つん這いになってる大男という、なんとも悲しい光景が出来上がっていた。
 ネルトラはまだ、怒りが収まらないのか、ふかぁー、ふかぁーと猫が威嚇するように睨んでいる。


「明日っ、……明日からちゃんとやってくださよ!お願いしますよ本当に!?」


「わ、わかってるよ。任せてみなさいよ」


 ドンッと胸を張り自信満々に息巻いてるクライストスを見て、ネルトラは「この前科持ちがっ」と非難がましい視線を送るが何処吹く風で鼻歌を歌っている、全く気にしないクライストスがいた。




 余談


 ちなみに、クライストスが遅れた原因はただの寝坊であった





















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