異世界にいったったwwwww
外伝34
……暗い坑道の中はまさに地獄。仄かな洋燈の微光が道を照らしてはいるが、物を視認するには難しい明度である。この坑内には無数の人の呼吸と肌の触れ合う温度が群れる。
地脈が近くにある、とカイト達を導く兵士が説明する。
非常に危険性の高い気体(恐らく硫黄だろう)の匂いが鼻につく。しかし、そこでツルハシを振るう音だけが虚しく無数に木霊するのだ。
(カイト、ここ本当に危険な場所だね……)
少女の声が脳内に響く。
(ああ、そうみたいだ……どうやって逃げればいいかな?)
鮮やかな緑の瞳を動かす。隙があればいつでも脱走は可能だろう……が、問題は一つだけある。
『俺の各部位は意思を持っているから、易々と動かす事ができない』
この一点である。
とあるサイコパス野郎に体を切り刻まれた俺は、自由に体を操る事すらできないのだ。しかもその理由が「人の手で作られた神に等しい存在への挑戦」というふざけたものだ。
(カイト、とにかく体調には気をつけて)
少女の、ローアの声音は優しい。無言で頷きながらカイトは炭鉱労働者の列に紛れ、行進する。
ツルハシを握る手には汗が満ちており、それもすぐ蒸発するように思えた。
50度を超える気温の中、薄い光を頼りに男たちは黙々と作業を続ける。……思うに、この沈黙は強制されているというよりも、作業に熱中する方が頭を空っぽにすることができて楽にみえた。――だから、皆口を閉ざし黙々と仕事する。
俺はこの世界にきて自分の安心できる場所が見つからなかった……誰も俺を知らない。誰も俺を必要としない。だけど、俺はこのジメジメと湿度の高く暗闇の炭鉱が落ち着いた。
振るうツルハシの硬い音。柄に伝う心地よい衝撃。身体がこの「労働」の瞬間だけ、自分自身のモノになった気がした。
2
「薄い……」
具のほとんど入っていないスープを啜りながら、素直な感想を漏らす。塩気がない分、更に物足りない。体が塩を欲している。固い黴びたパンを齧る。……マズイ。
日本の食事が恋しくなった。
(ねぇ、カイト)
「ん?」
(ここから逃げいようか――逃走経路なら、この眼で見通せるハズだよ)
カイトは美しいエメラルドグリーンの眼を優しく撫でる。
「いいや、まだその必要はない。そうだろ」おでこを指で二三回小突いた。
(……。)
反応がない。恐らく、肯定の意だろう。
(やっぱり、全身の意思統一ができてないの?)
「ああ、まだ3%ほどだな」
ふぅーん、とローアは若干興味なさげに相槌をうつ。
(ああ、やっぱり安心するな……)
自然と笑がカイトの口端に浮かぶ。こんな体にされても、いいや、こんな体にされたからこそ俺はローアと更に親しくなれた。それこそ、体の一部みたいに……。
そう逡巡しながら寂光が遮られ、ふと眼を上げる。
「お前、禁忌を犯したのか?」
初老の貧素な影が洋燈の光を微かに浴びていた。
「……好き好んでこうなったワケじゃない」
へっ、と抜けた歯だらけの口を曲げ、カイトの隣りに腰掛けた。
「不思議なヤツだな。どんな理由でここに送られた?」
暫く老人を眺めたが、
「奴隷狩りだ」
ああ、と素直に納得したように頷く。さも、それが当然であるかのように――
「アンタこそ」
「ワシかい?」
「ああ」
ニィ、と意地の悪い表情で、
「どうしてここにいると思う?」
と、訊いた。
カイトは首を横に振る。
「つまらんヤツだな」と文句をいいながら老人は喋りだす。
「ワシは昔、宮廷の占い師だった。それが、後継者争いに巻き込まれて、こんなところまで没落だ」
へぇ、とカイトは驚いた風を装う。実際、面白そうな話しだが、しかし余り強い興味は惹かれないのだ。
「……そのワシがお前の人相をみて閃きがはしった」
「このツギハギだらけの顔を?」
「そうだ」
いよいよ、狂人の戯言だな、と半ば軽蔑の眼差しで老人の次の言葉を待つ。
「反逆者の……いいや、革命家の人相だ。それも稀有な……、いいややはり反逆者かなぁ」
そういいながら、赤錆臭い手をカイトの頬に当てがう。
いずれ、一国すら治めるだろう。
老人は付け加えた。
地脈が近くにある、とカイト達を導く兵士が説明する。
非常に危険性の高い気体(恐らく硫黄だろう)の匂いが鼻につく。しかし、そこでツルハシを振るう音だけが虚しく無数に木霊するのだ。
(カイト、ここ本当に危険な場所だね……)
少女の声が脳内に響く。
(ああ、そうみたいだ……どうやって逃げればいいかな?)
鮮やかな緑の瞳を動かす。隙があればいつでも脱走は可能だろう……が、問題は一つだけある。
『俺の各部位は意思を持っているから、易々と動かす事ができない』
この一点である。
とあるサイコパス野郎に体を切り刻まれた俺は、自由に体を操る事すらできないのだ。しかもその理由が「人の手で作られた神に等しい存在への挑戦」というふざけたものだ。
(カイト、とにかく体調には気をつけて)
少女の、ローアの声音は優しい。無言で頷きながらカイトは炭鉱労働者の列に紛れ、行進する。
ツルハシを握る手には汗が満ちており、それもすぐ蒸発するように思えた。
50度を超える気温の中、薄い光を頼りに男たちは黙々と作業を続ける。……思うに、この沈黙は強制されているというよりも、作業に熱中する方が頭を空っぽにすることができて楽にみえた。――だから、皆口を閉ざし黙々と仕事する。
俺はこの世界にきて自分の安心できる場所が見つからなかった……誰も俺を知らない。誰も俺を必要としない。だけど、俺はこのジメジメと湿度の高く暗闇の炭鉱が落ち着いた。
振るうツルハシの硬い音。柄に伝う心地よい衝撃。身体がこの「労働」の瞬間だけ、自分自身のモノになった気がした。
2
「薄い……」
具のほとんど入っていないスープを啜りながら、素直な感想を漏らす。塩気がない分、更に物足りない。体が塩を欲している。固い黴びたパンを齧る。……マズイ。
日本の食事が恋しくなった。
(ねぇ、カイト)
「ん?」
(ここから逃げいようか――逃走経路なら、この眼で見通せるハズだよ)
カイトは美しいエメラルドグリーンの眼を優しく撫でる。
「いいや、まだその必要はない。そうだろ」おでこを指で二三回小突いた。
(……。)
反応がない。恐らく、肯定の意だろう。
(やっぱり、全身の意思統一ができてないの?)
「ああ、まだ3%ほどだな」
ふぅーん、とローアは若干興味なさげに相槌をうつ。
(ああ、やっぱり安心するな……)
自然と笑がカイトの口端に浮かぶ。こんな体にされても、いいや、こんな体にされたからこそ俺はローアと更に親しくなれた。それこそ、体の一部みたいに……。
そう逡巡しながら寂光が遮られ、ふと眼を上げる。
「お前、禁忌を犯したのか?」
初老の貧素な影が洋燈の光を微かに浴びていた。
「……好き好んでこうなったワケじゃない」
へっ、と抜けた歯だらけの口を曲げ、カイトの隣りに腰掛けた。
「不思議なヤツだな。どんな理由でここに送られた?」
暫く老人を眺めたが、
「奴隷狩りだ」
ああ、と素直に納得したように頷く。さも、それが当然であるかのように――
「アンタこそ」
「ワシかい?」
「ああ」
ニィ、と意地の悪い表情で、
「どうしてここにいると思う?」
と、訊いた。
カイトは首を横に振る。
「つまらんヤツだな」と文句をいいながら老人は喋りだす。
「ワシは昔、宮廷の占い師だった。それが、後継者争いに巻き込まれて、こんなところまで没落だ」
へぇ、とカイトは驚いた風を装う。実際、面白そうな話しだが、しかし余り強い興味は惹かれないのだ。
「……そのワシがお前の人相をみて閃きがはしった」
「このツギハギだらけの顔を?」
「そうだ」
いよいよ、狂人の戯言だな、と半ば軽蔑の眼差しで老人の次の言葉を待つ。
「反逆者の……いいや、革命家の人相だ。それも稀有な……、いいややはり反逆者かなぁ」
そういいながら、赤錆臭い手をカイトの頬に当てがう。
いずれ、一国すら治めるだろう。
老人は付け加えた。
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