異世界にいったったwwwww

あれ

外伝17



 涼しい夜闇の中で狂ったように赤々と燃える焔が数箇所に配置され、薪が弾ける音がした。


 簡素な謝肉祭の様だな、というのがカイトの印象だった。


 地表に降りた霜が草木の表面を凍らせた。家々から出た村民が霜を踏み鳴らす足音とそれに付随する喧騒が増え始めた。小さな三日月が夜空の底に掲げられていた。


 謝肉祭=カーニバルという認識だが、一言でいえば仮装祭りのようなものだ。けれども、ここの住民は宗教的儀礼の為か、ある一定の制約に基づいて仮装をしているらしい。


 例えば白いマントに尖った白い帽子。更に白い仮面というのが最も多い服装だった。けれども、色とりどりの天鵞絨マントを羽織った人々もおり、目に鮮やかだった。
 村の中央広場には祭壇が設えられており、周囲の背の高い建物の軒先からは電線のようにロープが引かれ、全ては祭壇の方角へと繋がれていた。
 そのロープには光が灯っており、正方形の薄い箱の中には蝋燭が揺らめいていた。


 カイトは一人、ぽつねんと倒木を利用したベンチから中央広場を眺めている。
 仮想した人々の仮面はまるで、ペストマスクのように奇抜で初見こそビビったが慣れてくると「まあ、そんなもんか」と納得できた。
 カイト自身も黒髪と黒い瞳が目立つ為に同様の仮装に扮して隠している。


 「カ~イ~ト」
 肩を軽く叩く声がした。
 後ろに顎をやると、口角をニィ、と釣り上げ微笑むローアの姿があった。
 褐色の肌と短いライトブラウンの髪。――そして、彼女の代名詞みたいなエメラルド色の大きな瞳。
 「あはは。いきなりでびっくりした?」
 自身が驚愕した様子を思い出して、カイトは内心舌打ちをする。
 「……まあ。それより何か用か?」
 「ん~ん~、違う。それより、この村の祭りどうかな? なかなか独特でしょ?」
 悪戯っ子のような口調で問う。
 正直にいえば、こういう風変わりな世界観は大好物だ。廃墟マニアなどの気持ちがよくわかる、とカイトは思った。
 「結構、こういう変な風習とか異世界感があっていいな」
 ローアはカイトの言葉に同意するように頷き、
 「でしょ? でもね。異世界って言うなら、多分カイトの方がよっぽど異世界感あると思うけど?」
 「そりゃあまあ、確かに……」仮面の下で苦笑いする。
 それから暫くのあいだ、二人の距離に沈黙の深い溝が現れた。
 人々は白い息を吐きながら、松明を右手に酒を左手に騒ぐ。子供達も追いかけっこをしながら家々の辻を駆け抜けてゆく。子供たちの母親は注意をしながらも、婦人同士で談笑している。


 ……とても懐かしい。
 カイトは町内会の祭りを思い出した。恐らく、どの世界でも人の生活営みは変わらないのだろう。
 ぼんやりとしたカイトの隣にローアが腰掛ける。
 「そういえば、巫女? の仕事はいいのか?」
 「――うん。まだ大丈夫。出番じゃないみたいだし」
 「そうか」
 「うん」
 カイトは……さ、とローアが囁く。
 自らの名を呼ばれ不意に隣の少女に視線を向ける。
 「カイトは、この村を出たらどうするの?」不安や怯えの混じった声で少女は訊ねる。
 「俺がどうするか?」
 漫然とした現実が、少女の口から言語化され突きつけられる。本当にどうすればいいのだろうか。このまま放浪した所で迫害されるのがオチだ。だからと言って、この場所に長く留まる事はできない。
 「さぁ……。ただ、俺は旅人って奴にならざるを得ないよな。本当は元の世界に帰りたいし。その方法を捜すために旅するしかないと思う」
 「……だよね」
 「……だな」
 それから口を噤んだローアが、カイトの両手を握り彼を見据えながら徐に喋りだす。
 「カイト、あの。ぼくは……さ、カイトさえよければこの村にもうちょっと長く留まる方法とか色々やってみるよ。カイトがこの世界で孤独なことは《宝具》を使ったぼくだから分かるんだ。だから、カイトは不必要な人間じゃないよ。少なくとも、ぼくはそう思う。短すぎる付き合いだけど。――それでも、分かるよ」
 思わず「お、おう」とだけ返事をした。
 また、沈黙。
 しかし、けれどもその沈黙はカイトにとって居心地のいい充実感のあるものだった。自分が必要とされる事について、充たされるものがあった。自分のこれからの行くあても知れないがこの瞬間は満足に浸ってもいいだろうと思った。



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