異世界にいったったwwwww

あれ

外伝10

  




  朝の霧がかった岨道そわみちを俺は降りていく。今日はとにかく人に出会わなければならない。俺は結局、何時間も頂上付近の洞穴で待った。しかし濃霧が一向に霽れることがないのだという事を確信した。……地形上致し方ないのだろうか? 


  俺は細心の注意を払いながら、岩肌に這うように斜面を下り岨の間に拡がる谷間を確認した。……谷には乱気流が乱れ舞い、濃霧の裂け目として有効に活用できた。尤も、命綱もないから煽られて滑落しそうになったが……




 1




 だいぶ陽が高い位置にある。恐らく中天だろう。それにしても、細かい粒子の、この霧自体は依然として消え失せることはなく寧ろ酷くなっている様子だった。俺は、頂上付近から麓に近づいてるのだろう。その証拠に木々の量も増え、森と呼べる場所と岩礫の堺を成す地点まで着いた。




 ――ま、常識として濃霧の状態で下山するということ自体アウトなのだが、んなことで四の五の言っている暇はなかった。あのままではいずれ俺は衰弱して動けずにお陀仏だった。僅かな可能性にでも賭けてみたが、今回だけは正解だったらしい。尤も、何度か死にかける場面すらあったので、二度と濃霧の下山はしないし、誰にもオススメはしないだろう。




 昨日の残りである非常食に口をつける。ゼリー飲料を口に含みつつ、方位磁石を眺める。大体、頂上付近の方角を頭に残してそれ以外のルートを思案しながら辿ってゆく。俺は、余りこういうサバイバルが得意な部類ではないのだが現在はそういう贅沢な文句は言えない状況だ。


 やがて、霧が薄れてゆく気がした。しかし、たったそれだけで大分息苦しさが減った気がした。心理的な要因かもしれないが有難いことだった。


 潅木とその枝が俺の太腿に絡みついて鬱陶しい。目前と足元を注意深く交互に視線を投げながら進まざるをえない。――と、遠くで木霊する声があった。俺は、思わず日本語で「おーい、誰かいますかー」と叫んだ。


 すると、幾重も反響した音が熄み代わって警戒色の強い反応が返ってきた。




 『オイ、お前誰だ?』




 察するに、年配に近い男の声だった。


 近隣の住人だろうか? 俺は安堵半分と不安半分で、ゼリー飲料の甘ったるい余韻の口内が乾くのを感じていた。




 「遭難者です! すいまんせんが助けて下さい!」素直に助けを求めてみた。


 ヘタな言い訳をするよりマシだろう。流石に怪しまれはするだろうが、即殺されることはないはずだ。


 遠くの気配は、白い大気と非常に濃い木々の陰影によって遮られて確認はできないが、感覚として相手側が相談しているであろうことは容易に理解できた。






 『本当かッ?』




 疑り深い、それでいて高圧的な返事がきた。俺は致し方なく「本当です」と、ワザと弱っている振りを返答に混ぜながら答えて出方を窺う。


 僅かな沈黙の後、


『分かった、コッチにこい』


警戒を解いてくれたのか、俺のバカ正直な意見を素直に汲んでくれた。潅木の間から拾った棒きれを振りながら相手方の方へと進んでいく。恐らく、三、四人くらいの人数だろう。俺としては警戒より寧ろ安堵の方に比重がかかりだしていた。






 2




 ようやく目視できる距離に至ると唐突に、




 「動くなッ、スパイめ!!」




 灰色の髭を生やした、ハゲのじじいが俺に向かって怒鳴る。それと共に、唾が周囲の潅木の葉を濡らす。




 「はぁ? ――待ってくれよ意味が分かんねぇよ。コッチは一人なのになんでスパイとか……」




 意味が本当に分からない。スパイ? 一体何の? 俺が? どうして? 




 様々な疑問や怒りや不満が胸を掠めるのだが、それら全てを飲み込んで俺はとりあえずなるべく穏やかに努めて交渉を試みる。


  先ほどとは別の恰幅のよい黒ひげの男が眼を剥き、


 「こんな時期にこの山を越す理由は一つしかないだろうがァ」と、吐き捨てた。


 不条理。最早、彼らに何をいっても信じてもらえる方法もない。俺は次の句が継げずに、呆然としていた。冷たい粒子が冷え切った肌を更に湿らせた。うっすらと、俺の皮膚の表面に汗のヴェールが混じっているような気がした。


 「と、とにかく俺は――」


 弁明しようとした途端、俺は首筋に強烈な衝撃を覚えた。








 「……ガッ」




 視界が点滅した。呼吸が途中でできなくなった。俺は斜面になった潅木の群れの中に身体を投げるような格好になった。突然の背後からの攻撃に俺は、ここが日本でないことを改めて理解した。霞む景色の中、一人の男の陰が棍棒で殴ったのだということだけが辛うじて、瞳の端から捉え確認できるだけだった。

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