異世界にいったったwwwww

あれ

外伝9







  「チッ、こんだけかよ……」




 俺は舌打ちしながら、スーツケースの中身を物色していた。鍵はこの腕輪らしく、近づくだけで開いた。いくつかの衣類と保存食、ペンライトに2ℓのペットボトルが数本。


 とりあえず、腹の減った俺は保存食の中からすぐに食べれる長方形のビスケットを取り出して口にする。久しぶりの食べ物だった。パサパサしてきた口内に急いでキャップを外した水を流しこむ。




 「……っぷ」




 ゲップと共に、口の端に零れた水を袖で拭う。




 ようやく生き返った気がした。俺は、地べたに座ったまま後ろを振り返る。陽はとっくに地平の隅っこに落ち、代わって月が空に掛かっていた。星も点々と瞬きだして肌寒い。スーツケースからフード付きのウィンドブレーカーを出して着込む。今日の眠る場所を探さねばならないと思った。




 洞窟にするか? しかし、あの中も決して居心地がいい訳ではない。それに、いちいち入る行為も面倒だ。




 俺は頭を抱え、しばらく自分のことについて冷静に考えてみることにした。




 まず、いま一番の懸念事項は俺の身分が不安定である事。それはつまり社会の立ち位置が不安定であることを意味しており、当然だが後ろ盾がない。




 そもそも、この世界の文明レベルはどの程度なのだろうか?




 普通に考えれば人間がいるとも限らないし、ましてアポカリプスの状態だとしてもおかしくない。






 俺は暗くなった斜面に続く山道をみやる。だが、夜の道、まして山道は危険極まりない。風が激しく吹き付ける。が、せいぜいが千メートルくらいの標高であろう、この場所は凍死するほどの気温でもない。だからといって、ウィンドブレーカー程度では寒さが紛れることもない。




 「チッ、どこか洞穴の別口があればなぁ……」愚痴をごぼしながらも、行動しなければ先へは進まない。






 1






 俺はおとなしく、40センチ幅の洞窟に再び潜り込み、寒さを凌ぐことにした。着込んでいるせいで些か穴の中では息苦しさがつきまとい、それでも致し方ないのだと言い聞かせる。うつぶせになって、俺はスーツケースから持ち出した食料と水などを持ち込む。他の持ちきれなかった物品はおとなしく洞穴の出入り口付近に置いた。もし、持ち去られてもあきらめがつく。それに、こんな夜に誰かが居るとも思えない。




 冷たくなった鼻を啜り、静寂の底にある洞窟に耳を澄ませる。水滴の落ちる音以外には何も響かない。




 徐々に視界は闇に慣れて冴えてくる。だけれども、俺は違和感を持ち続けていた。




 ――違和感、つまりこの《世界》についてである。


 まるで、異なる世界だという印象はない。どちらかと言えば現実世界との延長線上にあるような気がしていた。だからこそ、特段ワクワクともしないのである。




 ……俺は、俺は俺は。








 やべぇ、寝ちまった。醒めた眼で、苦しくもがきながら出入り口の外を覘く。視界には、微かな光の粒子が斜めに揺らぐだけだった。それ以外は大気が殆ど白色に覆われていた。




 霧だった。それも濃霧。




 山の微妙な入り組む気流の関係か、牛乳のような白さの中にも異なる動きをした霧の粒子運動がみえた。まるで、何かの意志律にでも命じられているかのように朝日の寂光を隠し続けていた。






 2






 「クソッ」




 出るのに苦労しながら、俺は外界へと飛び出した。人、それもまともな人間に出会いたいと思っていた。一人の孤独というものは好きではあるけれど、異世界の山の、それも洞窟に一人であるというのは精神的にも辛いものがあった。






 とりあえず、俺は山を降りることにした。



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