異世界にいったったwwwww

あれ

手綱

「急げッ、左翼の土嚢と荷台を増やせ!」
グリアが指示を下す。
八〇〇の兵を率い、現在群盗と化した元衛軍の兵士たちに向かい輸送品の火槍を打ち込む。散弾式の弾薬を詰、斉射を開始したのはつい先ほどだった。敵との遭遇時間が予定より早まった形となる。
(チッ、早すぎる)
歯噛みしながらグリアは自ら陣頭で指揮を執る。ガンツはその傍で将棋に腰掛け、白い髭をひねり趨勢を窺う。
敵勢はおよそ数千。それを真っ向から対峙するのだ。襲われる確固とした理由はない。しかし、乱世の戦闘というのは寧ろ殆どが偶発的な場合である。理由など重要ではないのだ。ただ、他から奪う。それこそが正義となるのだ。グリアたちは輸送途中であり、その主こそが衛軍である。皮肉もいいところだった。
標高のある場所だからだろう。ゆきが風に混じって吹きはじめた。
「みんな、俺がいるッ! ヤバくなったらさっき伝えた通り逃げろよ。ただし、退却を命令するまで死守しろ」
俄に浮き足立つ味方を励ます為に檄を飛ばす。機を見なければ士気が低下する。
火槍を構え、三〇メートル先の敵に向け放つ。ズドン、と腹に響く衝撃と共に拳ほどの大きさの弾丸が飛び出す。まるで、藁人形のように鎧を着た兵が崩れる。肉袋と化した死体を踏み越えて新手が進行してくる。
部隊陣形は半円を描き、地形を利用したグリア達は手堅くそして粘り強い戦闘意思を示した。




「なんだ奴ら。話しと違うではないかッ。謀られたという訳か……まあいい。さほどの数でもない。そのまま押し潰せ。」
馬上から成り行きをみていた男が苦い顔をしながら命令する。
……食人
それをこの「元衛軍」の部隊で最初にやった男である。彼は、名前を持たなかった。いや、正確に言えば、人間社会で用いられた名前を意図的に捨てたのだ。最早、人間社会で生きていける訳もないと理解していたのだろう。だから、今は食人軍の長である。この乱世に最大の悪は空腹である――腹が減ればどんな悪でもやる。それが人間の性。まさか、食人なぞやるものか……そう思っていた。だが、実際人間は脆い。物理的に逃げ場の無い空腹が襲う。どんな言い訳をしても高潔な理想や、あるいは生理的嫌悪感があろうと、空腹の前には何の意味もなさない。
この軍団は、謂わば共犯というのだろうか。現在では食料水は十分確保している。だが、定期的に食人をする。それは、初めて食人をして以来、共に地獄に落ちることを決意した同士の連帯だった。
「押せ、押せ!」
頻りに唾を飛ばして剣を振る。
しかし、火槍という最新兵器の前に味方兵は浮き足立ち、まともに指示を聞かない。爆音と硝煙の不気味な香り。弓よりも威嚇威力がある。
くそっ、くそっ、くそっ。
苛々しながら男は土嚢の裏に一列に並んだ連中を睨む。専業軍人としての経験で分かる。相手はどう考えても、玄人だ。それも修羅場を潜った類の……






「真希~~どこだ! 返事してくれぇえええええ」
壮一は馬車の手綱を握りながらバザール五番街の主要路をはしった。視界が震えるのは、真希の姿のみを懸命に探しているからだろうか。声が嗄れてしまった。しかしそんな事にも構わず叫んだ。
〈郵便基地〉で、モグラ達と別れた壮一は、真希の行方に心当たりがあった。必ずバザールに来ることを予想していた。
『アンタは……その、来ないのか?』
言いにくそうにモグラが確認をする。グリア達の後を追う為に三人は道を急ごうとしていた。壮一はその途中で娘の事を絶えず考えていた。
『悪いが、ここで道を変えて真希を探したい』
ハッキリとそう告げた。迷いは一個もない。ただ、自分が娘と離れた迂闊さだけが悔やまれた。それだけだった。
『分かった。――しかし、一人でいいのか?』
ああ、とモグラに真剣な眼差しで答える。その顔をみたモグラ達はそれ以上引き止める理由もなく、小さく頷き壮一と別れた。
壮一の背中にはMP35が担がれている。WW2の折、活躍した銃である。壮一が頼んだ訳ではなく、バッグに詰めれる適当な銃を送れと通信した結果届いたのがこれだった。
「真希、どこだ、真希、返事してくれ」
情けない声かもしれない。だが、娘は無事でいてほしい。砦の時は興奮して心配してやれずに、あまつさえ小さな子供まで見捨てた。悔恨していないと言えば嘘になる。身勝手かかもしれないが、本当は娘さえ生きていればそれだけでいいと、心のどこかで思っていたのかもしれない。そういう醜い己の心を知るにつけ、恐ろしく、やるせなくなる。
……だが、せめてもの罪滅ぼしにもならないが、娘を――真希だけは助けたい。こんな危険な世界に連れてきた事自体が間違いかもしれないのだ。それはわかっているだが、娘にはまだ本当の事を語れていない。だからせめて無事でいてくれ。
壮一は手綱を握り、整然と並んだ建物の影を通り過ぎてゆく。



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