異世界にいったったwwwww

あれ

大鎌の男

「誰だキサマ?」
大鎌の太い柄部分をトントン、リズミカルに肩を叩く。鎌の刃は三日月のような形状をしていた。触れるだけで肉を切断されそうな青白い輝きを放っているのが遠目からでも分かる。
(……ッ、こんな時に限って)
怯える足を奮い立たせて、対峙する姿勢をみせた。けれども腿や二の腕の筋肉が震え上がっている。あの巨漢は人を殺し慣れている。そんな奴、たった一人に……
大丈夫、大丈夫だから……。私には銃があるから。
内心の焦りを押さえ込むように左手は腰元のホルスターにある銃把を握っていた。冷たい殺意が熱く汗が滲んだ掌にしっかりと輪郭を認識させてくれる。誰も助けてくれない。だったら、自分の身は守るべきだ。
そんな当たり前の事が余計に意識的に自覚された。
真希はすっ、と拳銃を抜きとり大鎌の男へ向ける。照星にターゲットを合わせようと小刻みに右腕を動かした。
「小娘……侵入者か……」
虚ろな目はまるで新鮮味の失われた魚類のように濁っている。ああいう眼は以前、真希は父と旅をしていた頃に見たことがあった。麻薬をやっているのだろう。日本ならばともかく、この中世の異世界では禁じられている訳もないのだが気味が悪い。生理的な嫌悪を覚えながら真希は眼鏡越しに相手を見据える。
と、不意を突かれた。
ヴゥオオオオオオオン、と空気を切り裂く強烈な質量を伴った衝撃波がきた。
「!?」
急いで首を左側にやる。隣、三メートル距離のある壁に鉄球がめり込んでいた。亀裂が幾重も走りまるで象形文字のように亀裂を刻んでいた。壁の大きな破片がパラパラと角砂糖のように砕けて落ちた。
呆気にとられて喉の粘膜が乾いた。真希は唯々、目前の事態に頭が追いつかなかった。
その彼女の様子を大鎌の男は下卑た笑みを頬に浮かべ、
「――チッ、あと少しだったなァ~。あと少しで殺せたんだがなぁ~。さっきハッパ吸っちまったしなぁー。死体にして犯してやろうと思ったのになぁー」
口の端を白い泡を飛ばしながら無気力に喋る。
かなりの距離があるのに、真希にも聞こえる音量で、独り言を吐き出し続けた。まるでこの場には誰一人いないかのように……
(犯す……? 殺して?)
真希は巨漢の男がまるで人の形をした醜悪の象徴にみえた。あの男がほざいた言葉の意味を正確に理解したくはなかった。それと共に、夫人とアーノの姿を思い返す。二人は無事なのだろうか……ただそれだけが心配でここまで来たのだが……人間を人間とも思わずに扱うあの男のようなと連中たち。
「殺してやる……ッ、お前らなんか死んじまえッ」
この離れた距離からでは到底致命的な傷を負わせることができない。けれども、撃鉄が落ちていた。硝煙の匂いが鼻を掠める。
――ああ、久々だ。こういう感覚。命を奪う明確な意思。自分の胸の内に潜む獣が疼いて時々暴れだす。
ジャイロ効果による回転にのった銃弾が大男の鎧胴にぶち当たった。
カチッ、と小石が弾けた程度の音が微かに伝わるだけだ。
「――うそっ」真希の悔しさの滲んだ声音だった。
男の鎧は鋼鉄の分厚い板で作られているらしく、腸や内蔵が守られていた。傷をつけられるくらいはできるだろうと予想していた真希は眼を瞠って口を戦慄かせる。








「がぁぁああああああああああああああ! 殺す殺す、コロス、コロスころすお前、殺して死体にして潰して犯す……」
発砲音が神経を高ぶらせた男には最悪の作用をもたらしたらしい。ニンニク鼻から黄緑色の鼻水を両孔から吹き出し、眼球は血走って口は噴水のように唾を撒き散らした。
鉄球をつなぎ止めた鎖が金属独特の擦れる音を響かせた。壁からボーリング玉の三倍ある球形を再び手元まで引き寄せた。鎖鎌に鉄球……
「……ぁあ、っ……で」
声にならないこえの漏れた震える唇。足が急速に萎えた気がした。意識をしっかり保たなければその場に崩れ落ちて二度と立ち上がる事ができないだろう。銃を構えた腕は自然に降下してしまった。だが、相手は待ってはくれなかった。
二激目は真希のいる歩廊の足元へめがけて襲ってきた。
「……えっ?」
足元が不安定になり真希はよろけた。右足には地面がなく奇妙な浮遊感を味わった。そこから身体の体重すべてがふぅうう、と浮き上がっていくような不安と安堵の表裏一体が真希を包む。



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