異世界にいったったwwwww

あれ

盗賊内情

 盗賊、と一口に言っても従来までの所謂旧時代的な盗賊と、今回の襲撃を実行する「盗賊」とではその性格から組織については、現在いま その親和性は薄まりつつある。




 一個の〝国家〟を背景とした軍事行動は単純な盗賊行為を「軍隊」としての盗賊行為に置き換えられ、或は他国からの流入する官僚組織の指示に及ぶ指示もあった。自然、反発、抵抗感を示し始めたのは、これまで従ってきた古参の盗賊どもである。


 とはいえ、一方、変化を受容せねばなるまいと苦悩する古参の盗賊もあった。専ら今に於いては余計な事なぞ考えず破壊活動に専念することを要求されていた。〝盗賊〟と、また一つの言葉でくくることも難しい。というのも、脱作農奴、農民を始め、身売り、奴隷、あるいは……様々な理由で寄り集まったものも多い。いいや、むしろ近年はそういう人々が殆どだ。


 だから、元から中核を担っていた職業的盗賊は少数といえる。




 それを知りつつ苦悩するひとりの盗賊長がいた。彼は古参、といえる現場指揮官である。今は昔となったが、都市国家の遠征軍を相手に連日泥濘に身を潜ませながら修羅場を幾重もくぐり抜けた、所謂いわゆる「精鋭」である。その彼は新兵器の大砲の炸裂するのを横目に盗賊集団も変化した、と感じた。


 「ベム様は何をお考えか」


 彼の考えていることが分からない。全く、行動はチグハグだし、以前攻略した黒馬の砦もそのまま拠点にせず、放棄した。あの場所は例えば蘇の国を圧迫できるし、山脈を超えると中原に繋がる。




 盗賊長は部下に叱咤を加えながら、夜の底に辷りゆく砲弾の輝く跡を眺めるより他、することがなかった。と、ひとりの砲弾を運ぶ部下が首を後ろに曲げ、なにかを凝視していた。


 サボっているのだ、と長は思った。




 「貴様、なにをしている。弾が尽きる前に運べッ……!」


 はっ、とした様子でいきなり小走りで砲弾の装填手の元まで向かった。どうしたというのだろう、と長も同様にその方角をみやった。




 ……まさか! 不快な汗が首筋に滲む。


 「やぁ、元気にやってるか?」




 ゆったりとした足取りで丘を登ってきたのは、ベム本人であった。彼の左手には松明が揺らめき、顔を白い化粧で塗りたくって、口元は紅を汚したように色を広げている。殊更に鼻には作り物の犬のような鼻をつけ、目の周囲を隅を溶かしたような溶液の色で粉飾し、ハゲ頭の頭頂部分に僅かに残る髪の毛を緑に染めている。


 ハッキリいって化物の容貌だ。それも、こんな夜、甲高い声で鼻歌を歌いながらやってきたのだ。人を恐怖させるだけの存在といって差し支えない。……或は狂人か? 恐らく彼の行動を見れば皆そう思わざるをえない。けだし、この男の神謀ともいえるような言葉は、数々の成果を打ち立てていった。森の盗賊という無法集団を準国家の組織にまで押し上げたのも彼の手腕があれば、であった。……ただ、敵味方回わずに冷酷に処刑、殺戮する様は畏怖をもって人臣の記憶に刻まれている。




 そのベムはニコニコとまるで口が裂けるほどの不気味な笑みを浮かべ、




 「君がさっきこのベムの名を呼んだのか?」


 「い、いいえ。ま、まさか。敬愛するベム様に……」


 ふむ、と太鼓っ腹のベムは上着のチョッキがキツそうに膨れ上がっている。その腹を掻きながら少し沈黙する。


「まあ、よい。貴様にはまだ利用価値がある故……だが、余り余計なことは考えるなよ」


 盗賊長の硬直した肩に手を置き、耳元で無機質に言い放つ。そう言い残すとまた軽い足取りで別の部隊の視察へと向かっていった。




 その長は思わず肝を冷やし、金輪際、彼のことをみだりに語ることを心に固く誓った――

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