異世界にいったったwwwww

あれ

私記〝大陸史誌記〟

 私はとある偶然から、この資料と出会った。——つい、学生の時分であったと思う。というのも、随分昔の事である為に記憶が定かではない。確か17歳の夏休みに私は地元の書店で雑誌か何かを買うために立ち寄った。丁度、その時は「異世界交流フェア」という催しをしていた。其の頃はもう異世界とのポイント連結して10年以上も経過しており、異世界語を学ぶためのテキストや、あるいは大学の語学にも異世界の言葉を学ぶ学科が創設されたのを記憶している。それも、私が大学に進学する頃には本格的に異世界への語学やら文化への造詣を深める目的で大学は次々と学科を拡張創設している……まさに「異世界元年」といえた。




 そんな折、私は高校の部活の帰りに本屋に立ち寄って少々面を喰らった。




 ――さて、私は目当ての雑誌を小脇に抱え込み、少々店をぶらついていた。すると、店を一巡していたらしくまた一番見やすいオープンコーナーにたどり着き異世界との邂逅を果たした訳である。なんとも皮肉なめぐりあわせによって、仕方なく一番簡単そうな新書版の入門書に手を伸ばした。




 私はここで、魅了された。




「異世界の入門 史学編  王朝滅亡から大戦に至るまで 著 笹野誠」




 こんなタイトルだったと思う。今手元にはないが、何度も読みこなした為に本文も覚えている。タイトルだけが思い出せないのだ。その本を若い私は夢中になって読んだ……そして、素直にこの「異世界」に魅了された。なんといっても、それまで漫然とした世界が別種の世界の視点を通して、自分の位置をよりクリアに見える視点で描かれているとおもった。いいや、当時の私からすればそんな面倒な言葉を弄するよりむしろ「面白い」というだけで事足りた。




 私はオープンコーナーで暫し立ち読みをしながら、その世界の文化、文明、それから人々。全てが私たちの世界に通じるような既視感を持った。そういえば、昔から史学系は私の興味を引いた事を思い出し、しかし、それが現代の私とあまりに関係のない悠久の出来事に感じられ、次第に興味が失われていったのをよく覚えている。




 だが、一度この異世界の内部に入り込めば話は別だ。




 私は迷わずこの本を購入し、自電車を懸命に漕いで帰宅した。それから、二日間かけて熱中して読んだ。数百ページの中に濃密な人間の営みがあった。大河が広がっているようにも思われた。そして、読み終わると、急に寂しくなった。そして、特に気に入った王朝滅亡の事が知りたくて、奥付の資料一覧をみた。すると、どうやら「大陸史誌記」という文字が数字を連ねて記されている。






 翌日、私は同じ本屋に部活の帰りとなった夕刻にたち寄った。




 ジャージに汗を滲ませながら、あのコーナーに足を向けた。関連本の中には確かに数多くの本があったが、しかし、漫画や雑誌、或は昨日読んだ入門書ばかりだった。その平積みのすぐ後ろの段になったところに縦で分厚い函入りの本があった。背表紙には銀色の文字で「大陸史誌記」とある。


 私は喜び勇んで手に取った。余りに重すぎて躊躇したが、しかし、迷わず函から取り出して頁をめくった。……が、残念なことに第一巻であった。私の読みたかったのは大陸史誌記の5巻が読みたかった。この本では我々の世界でいう原始時代頃である。


 直ぐに棚に戻すと、探してみた。ところが、残念なことに5、6、7、8巻が抜けている。どうやら、一番人気の時代だったらしい。さらに、驚くべきことにこの真っ黒に装丁された版では値段が貧乏学生では到底変えない値段であった。確か5860円だったと思う。図書館では貸出が多く(研究のために)早く読みたい衝動を抑えられなかった。




 一応、他に版がないかレジの店員に訊ねた。




 すると、




 「――A5棚に簡易版がありますよ」




 といった。




 どうやら、あの黒い装丁の版は完全版らしく、地図から様々な付録資料が満載となっていたようだ。私は無論内容が読みたいだけなのでその簡易版を探しに向かった。その棚は高い処にあり、背伸びをしてようやく手に取ったのだが、それも先ほどの完全版の2分の一程薄くなった函入りの藍色装丁の「大陸史誌記5 共同著 ジョン・タレス 羽熊泰五郎 ほか」を手にした。内容は無論「ゴールド王朝崩壊から大乱」である。価格は2480円。ありがたい。




 直ぐに函から出し、頁をめくる。




 本文の左下などに、白黒の画素の悪い図が時折乗っており、ガルノス側とブリアン側、パジャ、各勢力の動きが時系列で載っていた。もう判断に迷いはなかった。函に戻すとこの本をレジへもっていった。財布には打撃だが、この先の内容を思うと安い買い物だと思った。






 その日から、私はこの異世界の史学への扉が開かれた、それも本格的に。




 「天空の玉座」という名城を中心に、英雄たちが鎬を削る容子に胸を躍らせた。風呂の時も、飯の時も、勉強、部活の時ですらこの本を思った。






 私はこの本によって、進路を決定されたという他ない。異世界の史学はまだ大学では本格始動していない。理由は至極単純で、翻訳が間に合っていない状況であった。私は大学の受験で異世界の語学を学べる学科へ進もうと決意した。


 それからだいぶ年月こそたったものの、あの時買った大陸史誌記は現在でもボロボロになり、頁は黄色く手垢に汚れながらも私の手元にある。余談であるが、あの頃買えなかった完全版も今は全て私の本棚におさまっている。

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