異世界にいったったwwwww

あれ

出発にむけて6

   
 烽火のように輝く歪な紅が淡く揺られて夜空に向かって踊りだす。街影の輪郭が澱んだ空気に浮き沈みした。闇から浮揚する人間の数が時間と共に増していく。2階の窓から上半身を投げ出して真希は外界の情報を窺い知る度に胸の動悸が早くなる。




 「お父さん、南の方角……敵が群がってきてる。」




 努めて冷静な口調で暗視用のレンズをはめ込んだ双眼鏡を覗きながら言った。
  

 下の階では大急ぎで準備をしている喧騒が聞こえる。温い風が断続的に吹き始めた。火の粉が遠く、家屋の軒先の方で小さなつむじ風に混ざり瞬間的な黄金の煌きを放つ。炎は人間の本能に原始的な恐怖を発生させられる。正直真希は小さな震えが止まらない。――いいや、巨大な炎を見ると〝あの魔術師〟を思い出す。あの一件以来、自然と横隔膜の辺りが痺れるように痛む。


 それを抑えつけながら、


 「お父さん!!」下階の窓へ叫ぶ。




 『待ってろ、お前も自衛用の準備しておけッ!』


 分かった、と真希は言い終えぬ裡に寝台にある机上に置かれたレイピアの鞘を掴む。佩剣用のベルトに茶塗りの革鞘を帯部分の金属で留める。腰元がずしっ、と重量を感じた。右側のベルトにはホルスターがあり、8mm拳銃の銃把が鈍く光っている。


 「これで最後……っ、と。」




 背中には何度も命を救ってくれた特殊炭素繊維素材とステンレスなどの材質で出来たボーガンに付属したホルダーを背負う。思いの外コレは軽くて重宝している。こういう準備をすると不謹慎かもしれなが真希の心は少しだけ興奮する。恐らく小学校の頃に男子が玩具の銃や刀で遊ぶ気持ちと似ているだろう。


不意に真希は視線を胸元へ落とす。自分の今の服装はお世辞にも綺麗とは言い難く、彼方此方解れている。




 「せっかくだし、着替えようかなぁ……。」




 一人呟く。空しい……というより服装に気を使わなくなった時点で女子として寂しい。――もし、仮に日本に居たら高校人生を謳歌していたかな? 友達と放課後に瀟洒な喫茶店に寄り道でもしていたかも知れない。だけれども、そんなのは全部私の空想でしかないのだ。「もし」や「かもしれない」は、いつだって何もしない人間の魔法の単語なのだから。








 「よしっ、どうせだし着替えよう。」




 こんな時だからこそ着替えてみる。それで何が変わる訳でもないけど、一種自己の儀礼として必要なことだと思うから。






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 日本から転送されたスーツケースは部屋の隅に放置してある。開くと、生理用品から真希が頼んでいた衣類、他にも雑具が詰まっている。だが、全部を持ち出すことができないので幾つか置いていく。勿体無い話ではあるが致し方ない。




 真希は寸胴に丸めて送られてきた衣服を着用しはじめた。










 

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