異世界にいったったwwwww

あれ

市場4

 雨後の空気は砂埃や腐臭の香りを沈殿させ、大気を洗い清めた――。ローブのフード部分端は大粒の水滴に濡れていた。気温4度。体感温度は零下かと錯覚された。グリアはモグラとウールドを引き連れて硝石の取引されているという噂の村まで二日半かけてやってきた。地表の殆どを岩盤が埋め尽くすような国土は、蹄の鳴らす音に硬質な含みを与える。






 「モグラ、どうだ?」




 フードを煩わしげに振り払う。遠方に聳える峰々は荒々しい太古の伊吹を今尚伝える風にも思われた。




 「ウム、こりゃ丁度いい場所だ。ヘクション」




 赤い鼻の頭を擦りながらくしゃみする。鼻水の糸を曳きながら、寒さに震える手先で水で滲んだ地図を目を細めて眺める。






 「それにしても、こんな場所で……成程。中原の動向も気になる。それに〈銀の匙〉号はウチで一番の高速艦だ。アレが今ないというのは痛手だな」




 ウールドは息を吐く。白く僅かに染まった空気に目に眉を顰める。






 3人の眼下には丸太の柵で覆われた半径400メートルほどの市場が展開していた。簡素なつくりの門は見張り台に二三人の民兵を置いているだけだ。






 グリアは手綱を握り馬脚をゆっくりと進めた。




 1




  3人は門を潜った。厩舎は丁度雨後の為に混み合い、そのため質の悪い飲み屋のぼったくり価格で高い硬貨を支払うと、ようやく馬を繋ぐことができた。




 「ゲェツ、糞の混じった水たまりだ」




 思わず叫んだ。モグラは、足の裾にこびりついた汚濁に嫌悪しながら先を歩く二人を追いかける。


  市場を支える屋台の檜の細い前柱は濃い湿り気を帯びており、一種独特の空気感を醸し出している。馬を繋いだ場所からは約三〇メートル先には既に屋台群にぶつかる道に出た。




 「にしても、こんな辺鄙な場所とは思えんくらいの賑やかさだな」




 グリアは腕組みしながら、頭を振り金の縮れ毛を流す。意思の強い眉の下には鋭い眼窩と瞳が忙しげに動く。


 屋台――と一口に言っても、食品から武具、それ以外には……所謂非合法のモノが取引されている。無論、硝石も届出がない為に通常売買とはいえない。グリアは無論承知の上であった。串焼き屋の前を通りがかる、モグラが小さな……それこそあだ名の由来となったモグラのような鼻をヒクヒクさせ、空腹を訴える。




 「……こんなところで飯を食うと腹こわすぞ」


 金の髪を耳の後ろで撫で付けながら笑う。しかし、雨が終わったあとの営業再開をしようと屈んで作業していた店主がグリアをジロリ、と睨む。「いっけね」という風に小走りでモグラが背中を追う。




 くつくつ、とウールドが横目で口を曲げた。「しかし、口の減らない男だな」




 「いいか、お前。人間には二つの耳と一つの口がある。なんで耳が二つで口がひとつか知っているか?」




 ――さぁ? と、呆れながら反応する。






 少々不満な口ぶりで、




 「そいつぁな、耳は人の忠告を聞くために二つ、そして口なんざ一つで十分だ……って神様のありがたいお考え故だ」




 「大将にピッタリだ」






 モグラが皮肉を込めていった。






 チッ、と軽く舌打ちをしながら、歩幅を広げる、と――。






 「おい、危ない。大将、前見ろ!」モグラが飛びつくように大柄なグリアの左肩を掴む。






 恐らく市場のメインストリートと思わしき幅の広い道に軍旗が掲げられ、数十騎の馬の群れが蹄鉄を鳴らしている。微風に撫でられた軍旗はそろそろ、と弱々しく翻る。






 (あいつらは、確か中原の……パジャ派の貴族の軍旗だ)






 ウールドは訝しむ。というのも、このような辺鄙な土地にまでわざわざ直属の部隊を送るほどのことが何故あろう、という訳である。






 「アッ、おいあれ!」


  大声で叫びかけたモグラの口をグリアは慌てて塞ぐ。苦しそうにもがくモグラは些か滑稽に見えた。






 しかし、そこに見えたのは、どうやら直属部隊の中でも名高い憲兵の連中だった。嘗て、ゴールド王朝から続く憲兵部隊は大陸の隅々にまで悪名を馳せた。曰く、首切り部隊。曰く、殺戮部隊。






 彼らの捜査から逃れることは難しい。また、一人一人が勇猛な連中だ。目を付けられてはかなわない。3人は目立たないように息を潜め、彼らが通過するまで背中を向けやり過ごそうとした。





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