異世界にいったったwwwww

あれ

それ

 「……惨めだろう?」




 「ああ、惨めだな。」




 壮一が嗤う。男は、声のした方向に向き直りただ、どんな表情かも分からずに笑った。




 「どうして、あの子と一緒にいるの」


 真希は震える指と胸の筋肉に溜めた嫌悪とか、ショックを押し込めるように訊ねる。


 すると、男は笑を消し、どこにもいない相手にでも話すように語った。




 「……俺の、穀物庫の国家は併呑された。無論、俺の妻子は皆殺しさ。当然だ。一族も。」


 「当然のことだな。」


 壮一が、再び横槍を入れる。怒りでもあるようだった。




 「まあいい。とにかく、俺はこんな状態で戦場の余塵燻るなか、這いずり回ってたよ。――イモムシみたいにな」




 生きる、そのことはむしろ宗教的な地獄より酷いことを俺は知ったんだ。




 熱い砂を匍匐で這いずり回り、水を求めて泣く。匂いがキツイ。腕が、足が、昨日まであったソレがもうない。消えた。痛む。傷口からは当然のように蛆が湧いてくる。俺をくすぐるように、蝕む。子供だってそこで産み付ける。




 どこにもいない、妻と子供が、俺の近くにでもいるような夢をみていたよ。そこにいてほしいとすら思っていた。帰りたかった。……もう、こんなところで殺し合いはまっぴらだ。汚い。臭い、気持ち悪い。誰か、誰でもいい。殺すでも、なんでもいい。この居場所からだれか助け出してくれ。






 殺し合い、文字に、言葉にすればそれだけさ。生きることにおいてさほど重要でもないのさ。




 他国の歩兵は俺を助けなかった。俺は彼らを憎んだ。あとから、殺すたれるために這いずり回った。すると、別の歩兵たちが石ころを投げつけて、汚い笑い声で遠ざかった。いっそ、叩き殺してくれ。もうこの世の中で生きていくことが辛いのさ。人間とあわないのであれば、地獄の使者とも仲良くやっていけそうだ。








 だいぶ日が暮れた頃。






 冷たくなって、焼けただれた皮膚がだんだんと、俺を外部から痛みとかゆみで拷問をするようになっていた。爛れた皮膚からは膿の黄色い液体がドロッ、と流れた。臭い。それが自分の体内から出てきたモノだということではないか、と自分で驚く。






 そんときよ。あいつが戦場荒らしで仕事をしている時に、俺を見つけて死んだ親父に何となく雰囲気が似ていると言いだしたのは。








 『父さん』






 俺が腹ばいで砂山を這いずり回っているとき、辛うじて薄い聴覚がなにか音をひろった。「だれだ?」そう正確に言えなかった。声が絡みついてうまく声を生成できなかった。






 少年は哀れな身の俺を担いでこの村まできたのだ!




 滑稽だ。生きること、死ぬること、それは領主の頃は忖度すらしなかったであろうな。しかし、それはもうよいのだ。ただ、寒い、ただ痒い、痛い。赤子のように無防備な俺を慕うのは蛆か蠅だけかと思っていた。そうではなかった。






 「……あっ、あ、あ、あ」




 声帯が潰れている。視界は僅かに、光を感知出来る程度だ。まるで生まれたてのその瞬間の嬰児だったのだ。




 ――それから知ったのだ。






 俺が一日中這いずり回っていた間に、妻子は殺され、国は奪われ、部下は裏切り、殺され、そして……。








 この村にいれば必ず情報が集まる。わずかな耳の穴を注意すれば必ず回復する。それは生きることによって得られた能力である。




 (つまらないなぁ。つまらない。俺は今まで誰のために、何のために戦い、民を撫育し、そして存在したのだろう……天は一体に、何ゆえに俺をこのように惨めに遣わしたのだろう。)






 この蒸し暑いテントでも俺は座るか眠るか這いずり回り、腐った皮膚を撒き散らした。生きることは腐って壊死して行くことだった。








 大体数日して分かった。俺はこのテントの少年の親父にも似ていないと。恐らく、この少年は俺を哀れに思って日々を助けているのだろう。無駄だ、殺せ。そう言いたい。だが、忠実な輩のように彼は働く。――これがもし、誰かの為に生きるということなら、俺は多くをもとめずに生きて行けたのに。




 ようやく、しゃべれる頃、


 「お前の父に俺は似てないのだろう」


 すると少年は背中で、


 「……うん。」




 とだけ応えた。それでよかった。また、どうして助けたのかも聞かずに終わった。それでよかった。もうイモムシの俺は人間様の高等な考えを有してはいけないのだ。爛れた皮膚。悪臭と蛆。戦争によっての四肢の切断。


 また全て手塩にかけて育てたモノはあっさりと脆く崩れ去った。こんな身で気がついたのは、たったそれだけのことだった。


 「アハハハハハ、イモムシの生き様だ! この身は人間ですらない。」






 真希は、端座し男を見据える。




 「――正直、今でもあなたを殺したい。だけど、私も大事な人に託された小さい子がいる。だれかのために生きている貴方をどうしても、私は憎めない。」




 テントの悪臭にいつの間にやら3人は気を取られなくなっていた。

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