異世界にいったったwwwww

あれ

謁見

 硬貨が一枚、床に落ちる。硬い音が響くと、グリアはそれを知らず知らず視線で追っていた。


 そう、まるで商都「ガーナッシュ」はこの硬貨のように円形状に広がっている。中心部を尖塔が幾つも立ち並び、赤い屋根の甍が輝いている。教会の鐘楼は重低音を奏でた。人々の約6割が商業に従事しているが、当然農業、工業もある。更にその技術水準は他国より群を抜いて秀でていた。当然、そこに集う旅人も買い付けであったり、貿易であったりと何らかの目的を有している。




 近年、金融分野にも進出している。バザールに次ぐ第二の商都といえば近隣の国々の人は皆、諒解する。それが「ガーナッシュ」






 「随分、雰囲気がバザールと似てるな。」




 素直な感想を口にしたグリア。


 「だろうな。父も、そのように仕向けて都市開発の陣頭指揮を執ったらしい。」




 ウールドは落ちた硬貨を拾い上げると、グリアの掌に返す。




 グリアはそれを摘むと、天空に掲げ太陽と重ねた。漆黒の円形に縁どられたソレをグリアはしげしげと眺める。童子と変わらぬ好奇心を保持し続けるのは、ある種彼の強みだろうか、とウールドは半ば逡巡した。それが、たとえ違っていてもいい。彼の不可思議な時代に忽然と旋風を起こす彼――グリアの才能にあやかりたと、実は最近まで思っていた。






 (だが、どうも違う。)




 時々、この男の見せる別の顔がウールドに深い醸造期間をもたらした。




 戦争に負けた……。そのたった一言は、かつて売りつけた火槍の一件で知っていた。また、黒馬の民をバザールに招き入れたのも自分だ。その意味が実体験として商会巡りの航海で自らの部下とともに半ば死地とも言えるような賭けに出た。そして、勝った。






 勝った……勝ったには勝った。だが。






 彼の苦い顔は、グリアにも伝わった。






 「そうか、故郷と言っても、あまりいい記憶はないのだろう?」




 「当然。バザールが故郷だからな。妻もいる。早く帰りたい、国政に出たかったのはもう昔だ。今はただ早く隠遁したい。」




 じじいのようなことをいう、とグリアは金の縮れ毛を後ろに撫で付け呟く。






 一度、港に接岸すると今度はむかえの馬車に乗る。長旅の疲れを労う様子など皆無な実に事務的な対応に二人はあきあきしていたが、とにかく石造りの舗道を車輪が回転速度を速めていく。




 一時間揺られると、一三メートルの城門城壁が現れた。門衛が馬車を見つけると、巨大な扉を開く。




 奥部は十字路が広がり、中心に噴水が設置されていた。周囲の地形は峻険な山間部で地下水はかなり掘削せねばならない。その財力は一目でこの国の豊かさを左証していた。










 「実に帰ってきたくない忌々しい土地だ。また宮殿が立派になっている。最後に見たときより一回りほど。」






 「そりゃあ、不穏だ。実家に帰るとデカくなるとは恐れ入る。」




 苦虫を噛み潰したような後、ウールドは深く落胆する。
















 「貴殿がグリザイア殿か。」




 ガーナッシュの宰相が訊ねる。〝謁見の間〟――それが、二人の旅の終着点であることは明白だ。しかし、それは嬉しくない。




 疲れて長椅子にもたれ掛かっているところを、唐突に訪問した彼の第一声である。

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