異世界にいったったwwwww

あれ

帰国

 青海は凪いでいる。仕事が終わった。商会すべての運搬が終わり、一息つける頃だった。グリアとウールドは最後の運搬先である商会の建物の中でささやかな祝杯をあげていた。


 様々な物品が所狭しと店に並ぶ。それを眺めつつ、彼らは琥珀色の酒をガラスの盃に流し込む。甘い、独特の匂いがする。


 「神聖な面持ちになるな」


 グリアが酒に鼻を近づける。匂う。いい匂いだ。


 「そうだな。久方ぶりの酒だ。空腹だが致し方ない。」


 今は自分たちの口糧よりも商品を売買することが先だ。いずれくるであろう戦乱の火種を振り払うにも金も物も必要なのだ。


 グリアは我慢できずに口をつけてぐびぐびと飲む。実にうまそうに咽を鳴らして飲む。ウールドは笑った。彼らしい豪胆な飲み口に。しかし、それ以外に彼は今、新たにこの男グリアに敬意をもった。それは自らの窮地を救うだけでなく、起死回生の一打を何の疑いもなく貫徹するその意思の強さに。しかし、そう思えば思うほど、故郷の父の顔が浮かぶ。


 (恐らく父上の欲しかった実子というのはこのような英雄だろうな)と漫然と思った。


 その男は、愛も変わらず人懐っこい顔で酒を飲む。飲む。


 「グリアは商人になるつもりはないのか?」思わず口をついていった。


 すると、キョトンとした顔でグリアはウールドを見やる。


 「どうした突然?」


 「いや、戯れだ」


 と、背中を向けたところで、グリアが深い酒臭い嘆息を吐く。




 「……今回のことと関係があるのか?」


 今回の無茶な要求の尻拭いは普通の人間ならば越えられないものであった。しかし、とグリアは思う。このウールドという男は派手さこそないものの、実行する胆力、一心不乱な姿勢、刻々と変化する状況を克明に記憶する能力、どれも一級品である。半ば、その力をグリアは羨んだ。




 (穀物庫の連中の配下におとなしく下り、こんな能力があれば俺も、皆も苦労しなかっただろうか)


 背中の男に思う。




 ……その時、戸口から慌ただしく走り込む音があった。
 「大変です」


 使番の者だ。この商会は各家庭ごとに使番を置き、必要な品々を入荷させるために各家庭へ使い走り、在庫がありしだい持ってゆく役割の仕事だ。


 「どうした?」ウールドが訊ねる。


 「……お二方とも、本国に至急帰還せよと。」


 グリアははてな? とおもった。それはごく当たり前の事ではないか? と。
しかし、その考えは間違えている。このガーナッシュ商会では公然の秘密であるがウールドを代表とした派閥と王の派閥で相争っているのだ。が、今回は特例措置として仕事をしたのだ。


 また、そのため、何十年も本国には呼ばれていない。




 「わかった。帰ろう。」


 ウールドはこともなげにいう。幸い、この商会は中立である。しかし、内心今回の一件を鮮やかな手際で片付けたウールド派に協力したい、そのような追い風となりつつある。


 「最悪、殺さるな」冗談めかして笑う。


 「……そうか。」


 瓶をつかみ、酒を乱暴に注ぐ。グリアは深い瞑想にはいったような瞳で酒を啜る。





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