異世界にいったったwwwww

あれ

四十四

「わたしたち、随分遠いところに来ちゃったね……。」
 真希は、一人心地で呟く。
 自由商業都市バザールを離れ、3人は北西をはしった。幾つもの国境をくぐり抜け、嘗ての《居場所》だった黒馬の砦に赴く。楽しい思い出も、親しい人たちも、苦い思い出も苦しい経験も、みんなみんな全部詰まった場所――。
 草原から遠い地平線を見つめる。
彼女は漸く疲れた足腰をほぐしながら鞍を降りた。地平と山稜線の重なる向こうはバザール。反対が砦。真希はこれまで日本から離れて数ヶ月(体感と腕時計型の通信機の計測)が永いような短いような曖昧な時間に思われた。
 「どうした? 真希」近くの小川で父は顔を洗い、しゃばしゃと水音をたてつつ破顔した。すっきりした様子だった。その後腰の布で顔を拭う。
 「あの赤子の心配か?」
  巨漢のザルが腕を組みつつ、馬のたてがみを荒々しく撫でている。その風貌からも察しがつくように豪快な漢である。さほど背丈が高い訳でないのに、熊のような強靭な筋肉の塊で、肉だるまとも真希の眼には映った。
 「……多分、そうだと思います。でも」と言いかけ、やめた。今でも言葉として上手く言葉を紡げないのは心の整理がついていないのだと思っていた。だが、どうやら違うみたいだと真希はバザールを離れる道のりで――それを、過程と言い換えてもいい。とにかく、この旅の工程で、心境の変化が芽生えた。この草原もあの時の逃走の旅路で見た場所だった。嗅いだ匂いだった。その時の鮮明な記憶が克明に甦る。
 (また、随分馬に乗るのも慣れちゃったよ)
 また肩を竦め自嘲する。
 「でも?」
 「――いいえ、なんでもないです。」
 眼鏡を直し、周囲の景色を踵を回転させながら見回す。そして、何度も確かめるように頷く。
 まあいいさ、とザルは口に煙の草を銜えた。火がないが、いつも彼はそうしている。
 「あとどれくらいだ?」
 豪快に口をモグモグとやり、訊ねた。
 「うーん。今はどこの国も戦乱の空気が濃い時期だから、容易に通れる街道が限られるぞ。あと、夜は必ず街か村に寄りたいところだなぁ」
 壮一が地図を背中の動物性の革でできた鞄を開き、地図を眺める。
 「だいたい、三日というところか。」
 「そんなもんでつくのか?」
 ギョロリ、と眼球が動く。ザルはまるで不動明王のようだな……と壮一は連想した。



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