異世界にいったったwwwww

あれ

四十

ガーナッシュは隣に随行する大男に訊ねる。


「これから、東回り航路だ。18日間でどれほどの物資分配が可能かはわからない。ただ、お前の考え以外に妙案がないのも事実だ。しかし、その勝率はどれくらいだ?」


 鼻毛を呑気に抜いていたグリアは肩を聳やかして、
「さぁ?」


 といった。彼にとって、確率か或はそのような分析的な手法で自身が精神の安心を担保するすべを考慮の内に入れていなかった。


 「しかしまあ、商人ってのはさ、ガーナッシュさんよ。毎度毎度、売り買いで勝率を考えるのかい? そういう場合もあるさ。それも当然だ。だが、それより先に思うことがあるはずだ。その“商品”が欲しいかどうか? ってな」


 「――確かに、仰るようにそのとおりの部分はある。が、それでは皆が納得しない」


 「皆って?」


 「各商会のメンバー、それから融資する本国の財務部。あと……」


 考えあぐねながら、ガーナッシュは忙しげに手元の樽の皮を爪でひっかく。それを何気なくみて、グリアは首をかしげる。


 「飽き足らないねぇ。あんたは、不安と不満が一番の親友らしい」


 「――なんだと? キサマのように一々頓着せずに」


 反論しようとした所で、グリアは右手をサッ、と彼の目前に差し出し「待て」の意を示した。咄嗟にガーナッシュは殴ろうかとも思った。


 「……一体、どういうつもりだ?」


 再びその手先に話しかけると、その奥から声だけが帰ってくる。


 「いいか、この秘策はほんの少しの人間にしか知られちゃあいけねぇ。だけど、あんたが決めてくれ。この船員、ひいては現地の各商会に伝えるのか。だったら俺は反対しない。むしろどんどん秘策の内容を喋る」


 苦い顔をしたガーナッシュを斜向かいにみて、グリアは肩に目前の手を置いた。


 
 グリアの秘策とは、即ち、以下の通りである……。


 A(出発兼経由地点)物資:170(この場合、基本水準を100とし、残り70を余剰分とする)水:98 金:95 →B(経由地点) 物資:140 水:98 金:103 →C 物資:112 水:150 金:78 → D 物資:89 水:105 金:160 →E 物資:43 水:130 金:250
 という具合になっている。


 「とくに、このE地区の物資の少なさは尋常じゃねぇ。だから、俺がまず手を加えるのはここと決めた。」


 つまり、とグリアはいう。


 A →B →C →D →E の順に、過剰分のみをA地点から積載してゆく。次々に拠点を航海しつつ、過剰分と不足分を無理なく分配するだけで、各商会の差し迫った危機は防げるのだ……と。


 例を挙げる。


 A物資:170から→B:140 →C:112 →D:89 →E:43となっている。通常のようにABから170や140を全て融資するよりも、この過剰分のみを積載しながら航行することで、現地にたどり着いたときに約112の過剰分をABCの地点で集めることが可能である。


また、それだけでなく、Dへの融資も可能となり、かつ、「水」「金」などの勘定も、かような要領で行えば、帰路でA地点に不足していた金を持ち帰ることが可能だ。


 往復の航路で分配積載することにより、平均化ができる訳である。これならば、期間に間に合う策だ。ただ、憂うのは一つ。ここで、情報が外部に漏れ出さないか。


 これがもし仮に外部に露見してしまえば、すぐこの混乱時にかこつけて豊富な物資を不足地に破格の安さで投入する連中があるためだ。それでは、今風前の灯であるガーナッシュ商会の儲けにつながらない。


 (さて、それをどう判断する?)


 二人はいつしか、船長室に篭もり、航海図の広げられた机をはさみ、あるいは対峙していた。


 グリアは先ほど船員たちの賭博につかう賽子サイコロを拝借し、左手の中で弄ぶ。丁半いずれも予断を許さぬ結末になろう。仮に船員に知らせれば先行きの不透明感が払拭されて皆信頼する。しかし、なにも言わねば疑念が残る。


 「どちらに、差配する?」


 ガーナッシュは躯が震えた。――


 「我々は、時代の要になるやもしれん。」


 「当然だ」


 暫し瞑目する。そして……


 「お前と、そしてこの秘策に賭けよう。それだけの価値がある。現在いまそのときだッ」



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