異世界にいったったwwwww

あれ

三十八

 早朝、バザールの港を出航する3隻の船を見送るために約四〇〇人ほどが集まっていた。ガーナッシュ商会の面々だった。


 ウールドは一人一人に言伝を残し、あとの作業を指示した。生憎濃霧であるが、このバザールではむしろ幸いであった。というのも、このような日は、決まって出航しやすい潮の流れであり、実は寝ていても感嘆に岸壁を縫い海に出られるためだった。それは一重にワイヴァーンの翼もある。




 ともかく、荷物を積み終えた頃、《銀の匙》号がマストを張り威風堂々と出航しようとしていた。




 ウールドは船に乗ると、左舷側から小さくなった姿で見送る人々をみた。そして、彼の傍らには、グリアがいた。顔は苦々しいというか、無表情であった。


 満面の笑みでウールドは別れの手を大きく振っているが、出航のため、碇を引き上げ、船が岸を徐々に離れ、そして距離を開きだした頃。


 別れの動作をやめて、隣のグリアに真剣な眼差しで向き直る。


 「……どういうことだ? 壮一殿がいないというのは?彼の志願してこの出航に来るハズではなかったのか? まさか怖気づいたのか?」


 糺すというより、むしろ純粋な疑問のようだった。


 暫く無口だったグリアが徐にいう。


 「――彼が来るのを、直前で止めたのは俺だ。」


 「また、なぜ?」


 普通、この方位磁石の使い方や、ほかの技術に優れた彼を置いていく理由はない。どういうことなのだろう? 


 「……俺は見た。」




 「なにを?」


 ……壮一の胸郭の辺りに、まるで入れ墨のような魔族との契約紋章が浮かんでいたこと。実はそれを見たのは、航海用の上着を私たとき、丁度彼が着替える時に偶然みえたのだと、グリアはいった。


 「まさか。普通の人間が魔族と契約なぞ……できるはずがない。それに、まあ、確かに航海で不吉とされる魔族契約との者は載せられないがそれだけではないだろう?」


 ウールドは確信をもっていう。


 「ああ」


 グリアは、繊毛を左手でかきむしり、答える。




 ……彼と以前、砦から逃げだ。彼は異世界の人間だった。しかし、どうやらこちらの世界と因縁がある風だった。もっと、もっと深いことを我々に隠している。それは、もしかすると、本当に言えないことなのかもしれない。




 クドクドと本題を言わずにグリアはまるで思索することを独り言のように続ける。ウールドは呆れた。まさか、今まで快刀乱麻であった彼の発言とも思えぬ様子だったからだ。




 「つまり、何が言いたい?」




 「……彼にも一度、荒野となった砦に戻ってある任務をお願いしたことがある。だが……それを一旦引っくり返して、今回の航海にも同行させろと言った彼の真意がわからない。なにか、そう、まるで彼には時間がないような印象を受けた」




 どういうことか? ウールドはイライラしたが、しかし一度グリアがそういったのなら仕方がない。既に港を離れ、順調に濃霧の中を航行している。問題なのはこれからであり、むしろ自分とこの仲間とが試されている正念場であることを忘れてはならない。


 以後は何も言わず、とにかく船の安全を考え、船長室に向かった。




 (すまない壮一。俺の直感がそうしろと言っていた)




 グリアは離れゆく岸と街の影の稜線を暫く佇んで眺望した……。






 二






 (ッ……。まだ、まだだ。ここで……)






 壮一はふらつく足元を、膝を抑えて自分に言い聞かせた。最近、自らの躯がやせ衰えていく気がした。まるで骨が炭酸に浸された気分だった。そして、その原因も明確に知っていた。




 彼は視線を落とす。




 《魔族契約の紋章》




 彼の不調の原因であった。魔族と契約すれば、願い事の変わりに寿命が担保として饗される。それは、「この異世界」での常識だった。もともと、日本から来た壮一には関係のない話しであった……。




 「クソッ、なんであそこで迂闊だった……もう、ここまで明確に浮き出しちゃあ、グリアさんも気が付くのを……」




 壮一は、娘が以前交わした約束で砦に戻る件で自分も着いていくことになっていた。しかし、それを反故にしてまで、この航海についてゆかねばならなかった。娘が激昂した理由の一つでもあった。


 しかし、彼、壮一はここバザールに3隻が出航したあともいる。




 彼はバザールの民家の街角の隅で、ふらつく頭を抱え、左手を壁に沿わせてゆっくり躯をそのへんの道に落ち着ける。そして、大量の汗を腕でぬぐい、荒い息をつく。




 「……なあ、お願いだ。神様、じゃねぇや。悪魔だったか? まあいい。まだオレの魂は持っていかないでくれ。あと少しだけだ……。」




 しばらくして、調子を取り戻した。


 壮一はヘヘッ、とみっともない自身が映る舗道の影を眺めながら立ち上がる。




 三




 「……え? ウソ? なんでお父さんが?」




 真希は朝の支度をしながら、鼻歌を陽気に歌っていた。そして、扉をノックされる音に驚き、返事をして出た。扉の前にたった父に目を見張り、驚いた。


 照れくさそうに笑い、


 「すまん。あの……まあ、なんだ。オレとお前に別の任務があったろ? そっちを優先させろ……とさ。グリアさんがそういってな」


 ビールっ腹を揺すって空笑いをした。




 真意をつかみ兼ねた真希だったが、どうしてだか、嘗て交わした約束を思い出した。




 「……うん。」


 ずっと、心の片隅で蝕んできたモヤモヤの呪縛から解き放なたれた気がした。と、父の隣にもう一つの影を見出した。


「よう! 忘れたか? ザルだよ」


「忘れてませんよ。」苦笑いして、真希は頷く。


 ザルは、逞しい筋肉の腕に力を入れていう。


 「ここに初めて着いたとき、言ったろ? もう一度砦に戻って遺骨を回収するんだって……その時が、今だってグリアさんが判断したんだ。もっとあとでもいいと思うんだが、何故だか壮一とオラを残していっちまったぜ。」


 不服というより、その使命がどれほど重要かザルはしっていた。だからこそ軽口でもきくみたいにいうのだ。


 真希は暫く考えてしまった。




 「……あの、アーノは」


 と、自分で言ったところで反芻した。いや、違う。そうではない。一つ、名案がある。




 「ねぇ、父さん。ザルさん。出発の前に一度、ガーナッシュの邸に行ってもいい?」




 ああ、と壮一は答える。不思議な様子のザルも同意した。




 真希はまだ寝ついているアーノをゆっくりと抱き起こして、朝の支度のすんだ朝食の揃ったテーブルを一瞥する。


 「……いってきます」


 小さく囁く。それは、小さな決意を含んだ声音だった。

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