異世界にいったったwwwww

あれ

二十九

 
  一


 朔日、《遠》州の攻略が実行された。ガルノスはまず、攻撃の折り東方の燕尾将軍に丁重な贈り物と共に公式な征伐であるという弁解の手紙を添えて送った……


 
 準備は順調にすすんだ。


 総勢七千にも及ぶ軍を首都から発した。街道を埋め尽くす市民は久しぶりの騎士団の行軍と、勇猛をもって鳴る徒歩たちの隊伍に興奮と熱狂をもって送り出した。




 彼らは自国の整備された主要街道を上り、国境沿いの砦、城などに留めた。






 本陣――――ガルノス 四〇〇〇


 中軍――――副将(ガルノスの第三異母兄弟)三〇〇〇


 また、後軍、予備軍は一万を各領地から召集する。そのため、国境にて待機している。総勢は一万七千という大所帯となる。




 全軍集合後、先鋒を決める。代々、《衞》の国では会議にて先鋒を決定する。武勇に優れた家柄であるだけに自然と競うように会議が紛糾する。といはえ、ガルノス家ではかつて、大将自らが先陣を切った事例もあるため、生半のことで「先陣をゆく」というのも危うい。幸い、今回は討伐戦である。


 これにより、定石として最も勇敢なキャパという男が先鋒となった。






 彼は家中一番の武勇を誇り、品性は下劣というが、しかしそのため血気盛んな若者を中心に人気を博し熟練兵もまた彼の戦術眼に一目をおいていた。




 今年で三七歳になる。


 昔、ガルノスと共にゴールド王朝と戦った戦友でもあった。




 その彼が後詰などの軍を率い前線基地に到着したのもそこそこに会議に出席している。会議に出席せずに大抵姿を色町に現す彼に似つかわしくない様子であった。


 「どうした?」


 ガルノスが問うた。


 ……いえ、と前置きの口上を下手くそに述べ、


 「殿、今度の戦どうもイヤな気がします。なにか、ございましたか?」


 キャパは年より若い顔で訊ねた。




 彼は関門の別れの折り、実は本国で留守を預かっていた。そのため、多くの事情がわからないまま遠征に参加しているのだ。……が、敢えて恥辱に震え、偲んだガルノスを気遣うため、またガルノスがパジャの目論見を察する真意のために、家中でも言外されることは憚られた。




 居並ぶ諸将は苦い顔でキャパを睨む。




 と、老将が、


 「キャパ殿。今回は蛮族の討伐他意はない。良いか?」




 「――ええ。では、今回は三〇〇〇を率い、敵軍を討伐致します。」




 その言葉に、会議の渦中に座すガルノスが鷹揚に頷く。




 「では、任せた。」






 こうして、更けた夜は幕を閉じた……。






 二






 彼ら、《衞》の軍が戦う《遠州》の蛮族と呼ばれる地方豪族及び、中小国家(あくまで、それは都市国家の規模でなく、都市国家の衛生国家程度の認識としてもらいたい。)の連合軍であった。




 その数、およそ八〇〇〇に及ぶ。




 実は、《遠》は広大な領土が広がり、そのため、上州、中洲、下州と分けられる。ガルノスたちと衝突するのは上州の連中である。




 また、各国はつい最近まで相争う仲であり、急場の同盟のため俄づくりであった。




 それを取りまとめるのが上遠州部族長であった男である。彼は巧みに山岳地帯の戦術を用意しており、基本戦略として本国の奥地まで引き釣り込み、叩く単純なモノであった。しかし、それは今回に限っては有用であった。なにせ、討伐の勅使を受けているのだ。領土奪取が目的なのだ。必ず引っかかる。






 そう思っていた。




 (ムリ、むりさ、こりゃあ……)




 と、部族軍の話し合いに参加した若い男は肩をすくめ落胆の色を濃くした。――彼の名をベンという。




 三二歳の若い彼は、昔ゴールド王朝の没落後に溢れかえった敗残軍狩りで傭兵として働いていた過去がある。彼自身、部族もどこも告げない嗣子であった。次男の生まれであった。


 この、敗残兵狩りというのも楽ではない。というのも国富に蓄えられた最新の武具、強靭な兵馬、ほか様々を備えた謂わば強固な独立軍であり、高級な野党であった。




 政治的意思もないため、彼らは無秩序を極めた。




 それが、つい一二年前。それから三年前までベンは僅かな仲間と国を出て傭兵稼業で身を起こし、最終的には都市国家預かりの傭兵となり、四千人隊長を任された。また、騎士の位を叙するという報告もあったがそれを撥ね除けた。反骨もそうだが、彼自身そういう組織名誉に無関心といってよい。




 ベンは多年の傭兵生活で鍛えられた足腰腕こそ太いが、しかし、平均身長より低い一六〇センチの背丈である。また、毛深い手と胸板をポリ、ポリ、と掻き毟る。人一倍大きな目がギョロ、と動く。




 溌剌とした若いベンは首をひねり、暫く、話し合いの行方を見守った。




 (――あっ、こりゃあ、負けたな)


 直感で理解した。彼らは、自己利益の保身にしか、話しをしていない。このような幾つもの意思決定機関がある場合、物事は往々にして膠着し、裂ける。




 その優れた戦術眼は戦場で養われ、かつ、生来の才能と共に肥大化し、今や客観的にみてベンをおいてほかに確かな軍役を努め上げられる者は存在しなかった。


 この部族連合の不幸は、このような人材がほかに探せばいたことだ。《衞》はこの段階では、あくまで親族親類の硬い絆と譜代の重鎮による保守的な軍であったため、その弊害も有していた。




 が、それ以上に部族連合は権威主義になった。




 結局、部族連合はベンという剣の置き場を、中心戦場から程遠い、山岳地帯の裾野を流れる支流の辺りに数百とされた。








 果たして、歴史は回転する。










 後、ガルノスの英雄譚を彩る欠かせない戦が始まった。


 「遠州、第一次攻略作戦、国境突破」



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