異世界にいったったwwwww
二十四
――真希は、嬰児のアーノを連れて会議場まで続く主要路に出た。今日は珍しく曇っている。正午を過ぎているから、蒸し暑い。真希は白いフードの羅紗を頭からかぶった。アーノも、日よけのための白布で包む。
「……久しぶりにお散歩しよっ……か」もう既に数週間部屋と近所しか往来しなかったために、曇りとはいえ彼女には眩く感じる。左手で薄い太陽の姿を遮る。
真希の顔は手の形に翳る。
通用門口からゆくと、バザールで暮らしている一般階級の所に繋がる。真希たちの暮らしている場所は所謂公使館のような地区であり、通常とはまた別な隔壁で分けられていた。
「あ~っ……あっ………うぅあ」
アーノは棗のような大きな眸をキョロキョロ動かし、真新しい外界の情報を得る喜びに手足が別の生き物のように蠢く。
「えっ、あ、はいはい。待ってて、今おんぶするかね」
紐を裾の間から取り出すと、器用に片手でしっかりアーノを支えながら同時におんぶをするための結びかたを用意した。
「んしょ。これでOK」
アーノを背中に担ぐと、キュッ、と紐が二人を固く結びつける。
(我ながら、こんな行為に慣れてきて……なんかなぁ)
昔の人ならいざ知らず、現代人の真希には嬰児の面倒をみることに、抵抗というより困惑するより他なかった。しかし、こう何週間も一緒に過ごすと、どうすればいいのかも理解できる。
……それに、父の壮一が男で一人で育てた経験もあるだけに随分手馴れてる。壮一がいない時は、黒馬の生き残りの女性たちに相談してきた。
真希の手は後ろに、アーノを支えるようにして、それから歩き出した。
石切職人たちや、配達の人、あるいは奴隷(バザールの奴隷は負債奴隷のため、負債額までの仕事を終えれば自由民に戻ることもできた)の忙しくはたらく姿が目に入る。左右をみても、砂埃がすごい。眼鏡を何度も袖で拭きながら真希は歩く。
東西南北を繋ぐ文化の拠点というだけあり、様々な肌の人々、あるいは様々な装飾品、建物、言葉が充溢している。車を騾馬に曳かせて商品を運ぶ男たちともすれ違った。車が軋みながら、車輪を押していく。大粒の汗は光、それが印象的だった。しかし背後からの突然の通行に驚きつつ、それを避けて真希は再び散策した。
近年はバザールは改修作業が多く、そのため建築資材が飛ぶように売れていた。老朽化もあるが、詳しいことは壮一にまた聞かないとわかるまい……と、真希は独り合点しながら、昼の忙しい時間を進む。
「うっ、なにこの匂い?」
真希は思わず眉を顰めて、匂いの方を窺った。
道路にまるで細長い側溝が出現したように溝が一般区画の主要道の脇にみえた。
興味本位でわずか四メートル先のほに行くと、果たして、管のような巨大な木材の円筒があった。しかし、多年の糞尿など汚物のためにドス黒く変色していた。匂いも糞尿というより、形容しがたい嫌悪の固まりのような匂いが鼻腔に波のように押し寄せる。
「ウッ、くさい」思わずえづく。
アーノはきゃっ、きゃっ、と喜んでいる。この匂いを嗅がせないように急いで立ち去ろうとする。
「ん? 真希じゃないか?」
誰か、声がした。
訝しみながら、側溝に嫌悪の顔を向ける。そこには、黒い蔭のように幾人もの作業員が立ち働いていた。円筒の亀裂箇所を取り替える作業だったり、側溝に溜まった糞尿汚物を取り除く作業、と動いていた。
「……あの? 誰ですか?」
匂いで目を細めているからわからないが、よく見ると、一人背中を向けていて、顔だけこちらにやっている。が、糞尿に顔が黒ずんで汚れている。
「もしかして、グリアさん?」
わずかに、目印のように金髪の美しい縮れ毛が風に靡く。
満面の笑みを浮かべながら、グリアは、
「ああ、そうだ、そうだ。どうだ! 驚いただろう?」
曖昧に頷きながら、真希はグリアを暫く眺めた。
「……久しぶりにお散歩しよっ……か」もう既に数週間部屋と近所しか往来しなかったために、曇りとはいえ彼女には眩く感じる。左手で薄い太陽の姿を遮る。
真希の顔は手の形に翳る。
通用門口からゆくと、バザールで暮らしている一般階級の所に繋がる。真希たちの暮らしている場所は所謂公使館のような地区であり、通常とはまた別な隔壁で分けられていた。
「あ~っ……あっ………うぅあ」
アーノは棗のような大きな眸をキョロキョロ動かし、真新しい外界の情報を得る喜びに手足が別の生き物のように蠢く。
「えっ、あ、はいはい。待ってて、今おんぶするかね」
紐を裾の間から取り出すと、器用に片手でしっかりアーノを支えながら同時におんぶをするための結びかたを用意した。
「んしょ。これでOK」
アーノを背中に担ぐと、キュッ、と紐が二人を固く結びつける。
(我ながら、こんな行為に慣れてきて……なんかなぁ)
昔の人ならいざ知らず、現代人の真希には嬰児の面倒をみることに、抵抗というより困惑するより他なかった。しかし、こう何週間も一緒に過ごすと、どうすればいいのかも理解できる。
……それに、父の壮一が男で一人で育てた経験もあるだけに随分手馴れてる。壮一がいない時は、黒馬の生き残りの女性たちに相談してきた。
真希の手は後ろに、アーノを支えるようにして、それから歩き出した。
石切職人たちや、配達の人、あるいは奴隷(バザールの奴隷は負債奴隷のため、負債額までの仕事を終えれば自由民に戻ることもできた)の忙しくはたらく姿が目に入る。左右をみても、砂埃がすごい。眼鏡を何度も袖で拭きながら真希は歩く。
東西南北を繋ぐ文化の拠点というだけあり、様々な肌の人々、あるいは様々な装飾品、建物、言葉が充溢している。車を騾馬に曳かせて商品を運ぶ男たちともすれ違った。車が軋みながら、車輪を押していく。大粒の汗は光、それが印象的だった。しかし背後からの突然の通行に驚きつつ、それを避けて真希は再び散策した。
近年はバザールは改修作業が多く、そのため建築資材が飛ぶように売れていた。老朽化もあるが、詳しいことは壮一にまた聞かないとわかるまい……と、真希は独り合点しながら、昼の忙しい時間を進む。
「うっ、なにこの匂い?」
真希は思わず眉を顰めて、匂いの方を窺った。
道路にまるで細長い側溝が出現したように溝が一般区画の主要道の脇にみえた。
興味本位でわずか四メートル先のほに行くと、果たして、管のような巨大な木材の円筒があった。しかし、多年の糞尿など汚物のためにドス黒く変色していた。匂いも糞尿というより、形容しがたい嫌悪の固まりのような匂いが鼻腔に波のように押し寄せる。
「ウッ、くさい」思わずえづく。
アーノはきゃっ、きゃっ、と喜んでいる。この匂いを嗅がせないように急いで立ち去ろうとする。
「ん? 真希じゃないか?」
誰か、声がした。
訝しみながら、側溝に嫌悪の顔を向ける。そこには、黒い蔭のように幾人もの作業員が立ち働いていた。円筒の亀裂箇所を取り替える作業だったり、側溝に溜まった糞尿汚物を取り除く作業、と動いていた。
「……あの? 誰ですか?」
匂いで目を細めているからわからないが、よく見ると、一人背中を向けていて、顔だけこちらにやっている。が、糞尿に顔が黒ずんで汚れている。
「もしかして、グリアさん?」
わずかに、目印のように金髪の美しい縮れ毛が風に靡く。
満面の笑みを浮かべながら、グリアは、
「ああ、そうだ、そうだ。どうだ! 驚いただろう?」
曖昧に頷きながら、真希はグリアを暫く眺めた。
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