異世界にいったったwwwww

あれ

十六

「殿、只今参上仕りました。」


 親衛隊長の男は、その巨体を揺すりながら、見た目に似合わない礼儀正しさで一礼した。


 「……外の様子はどうだ?」


 ガルノスは気軽な口調で訊ねた。


 廊下にも、パジャの息のかかったであろう衛兵が護衛という名目で監視を強めていた。その軍靴の音に耳を傾けながら、


 「――些か靴の音がうるさいですが、それ以外は満足しております。」


 皮肉の込めた口調でいった。


 「違いない」同意しながら、肩を竦めて笑う。


 親衛隊長は、ふと、ガルノスの視線の落ちたところ……つまり執務机の上をみた。そこには、伝令用の暗号の記された用紙があった。


 (ここを、脱出する……と)


 内容は至極単純であるが、それゆえ、事の大きさを改めて彼は感じた。


 わざと、ガルノスは視線を外の窓に向け、


 「ここでの休息もよいが、どうだろう? 諸侯もご満足かな?」


 意味ありげに口を歪め、髭を撫でる。


 「ええ、それは大変に」




 ……ガルノスはひとり、思案した。


 恐らく、反旗を翻すには大義名分と諸侯の協力が必要であることは無論、あのパジャと賢王の動向が鍵であった。少なくとも、今は中原の国々の引き締めが目的である。


 (ならば、工作しつつ、綻びを一気に抜ければ……)


 腕を組んで、暫し沈黙をする。


 その主人の様子を察し、親衛隊長はひとり、珍しく言葉を多くした。傍から見れば独り言のようでもあった。


 まずは、中原の端や、周辺の都市国家を味方にする……パジャの能力は侮れない。恐らく、大陸の歴史始まって以来の天才であろうことは、誰にでも理解された。




 (だからこそ、叩き潰したい……この手でッ!)




 そうと分かれば、今宵が機会だろう、とひとり合点した。




 それから、目前の部下へ、


 「いい月だろう」


 不敵な表情を向けた。


 巨大な城壁は、深い濃い闇が液状の如く、浸水するように飲み込んでいた。欅や白樺の木々が騒がしくなった。


 ……更に、夜が深まろうとしていた。


 それに反比例するように、ガルノスの双眸は揺るがぬ光が灯った。








 彼の戦略はこれより以前、中級都市国家から都市国家になれない規模の集団を中心にまず、一団を形成することを考えた……。


 が、それは都市国家の諸侯を見れば、不可能と判断した。




 となると、《遠》州という、ガルノスは本国の近く、未だ豪族や部族がひしめき合い、小競り合いを続ける土地に着目した。ひとまず、この地を盗賊討伐という名目で攻撃をしつつ、その実権を握ることを画策した。


 というのも、独力でこれを行わねば、いずれ都市国家の息がかかり、つかえない。あくまで、領土拡大という実利を、盗賊討伐の建前で隠さねばならない。


 (そう簡単にいくものか……)


 一面不安もあった。そんなチマチマとしていれば、必ずパジャは気がつくだろう。しかし、この地を収まれば、豊富な資源と兵力の獲得を一気に行える。




 この効果で、つまり中原都市国家でも筆頭の国力となるだろう。




 問題は……燕尾えんび将軍だろう。




 彼は、二十年前の無名時代から、大陸の東の地の一官吏としておもむき、その行政手腕を認められ、いつしか、東方の実力者にまで上り詰めた男である。彼が出陣するところ、無敗を誇ると言われた。
 事実、ガルノスはかつての統一王朝征伐時代に、世話になっている。
 その実力は比肩するものは、少ない。
 彼は常に燕尾服を纏い参戦することからその敬意を込め、渾名とされた。


 今年で五十七歳とは思えない、活動的な男であり、一族もまた優秀であると聞き及ぶ。


 ガルノスは、頭に地図を思い浮かべた。
 必ず《遠》州を奪えばこの燕尾は黙っていないだろう。


 (ますます、忌々しい)


 少なくとも、燕尾将軍はパジャを裏切りはしないだろう……表立っては。


 東方の兵団は合わせて十万とも言われており、それだけの兵力を動員できる力量は並大抵ではない。


 前途多難である。


 (急いで家臣団をまとめねば……)


 ガルノスは焦りを隠し、今は思案する。




















 

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