異世界にいったったwwwww
十三
《銀の匙》号の外見は我々で知るところのギャラック船と酷似した姿をしている。
例えば、有名なものではコロンブスの遠征でお馴染みのサンタ・マリア号などがある。ギャラック船と大きく違うところはメインマスト、横帆、船首楼などの構造なども同じである。
大きく異なるのは船体の両脇に、巨大なワイバーンの翼、長さ約六メートル、横幅五〇センチ、それが五本ずつ付属している。これは、この大陸と、バザール近くでの貿易風が独特であるために生まれた。
地形が、諸島の間にあるため風が突風のようになる箇所が多く、潮の流れ目も危うく五ルート以外を航行してバザールに入港する場合はこの諸島をくぐらなければならない。
このワイバーンの翼は自然に風を受け流し、コントロールをしやすくするために使われる。主に長期航路専用の船に用いられる。
さて、この《銀の匙》号は全長約55メートル、幅13メートル、排水量1250トン。このバザールでも有数の高速船と言って良い。武器を運んだり、香辛料などの輸送として護送船団方式で四五隻近くで航行をする。
一度の航行で良質金貨五〇〇枚(日本円で約三億円近く)が消費される。船倉も大きい理由は貨物の一度の輸送にかかるコストを減らす簡単な知恵である。
このバザールではガーナッシュ公国の保有船舶は五〇隻を持つ。ガーナッシュ公国は武器輸送で潤った国である。が、それと同時に現地での香辛料の売買も執り行うが、それも主ではない。
――為替事業がここ数年、公国の収入源である。各地で為替を執り行い、まだ貨幣の概念がない人々たちには物々交換や、宝石などで取引し、中原などの先進国との仲介を手広くしてきていた。
船首の針のように美しい形が、マストとの間に繋がったロープも繊細である。それが、太陽の照射を受けて、巨大な影になっていた。
それを、遠くからピーニクと共にグリアは眺めた。
「……どうだ、いいだろう? 銀の匙号だ。我々が持っている船の中でも最高の足を持ってるいいオンナだ。」
ピーニクは岸辺の木柵に腰をかける。
大きな影が、鉄の裏のブーツを歩ませた。
「いい船だ。」
「だろう?」
グリアは、腕を組んで、肩をそびやかせる。
「……お前、中原をどう思う?」
急な問いかけに、思わずむせ返ったピーニクは、しばらく、胸を叩いた。
「ゲホッ、ウゥ、ゲホッ、ゲホッ……。」
体を大きく揺すりながら、相手の目を伺う。
「俺は生憎情報が今、ない。だが、盗賊を討伐するということから始まった武力遠征も――いや、そもそも都市国家会議自体が早急すぎた。」
グリアの金色の縮れ毛を、大きな手のひらで、撫で付ける。ライオンのたてがみのように直した。
「それもそうだろう。あのパジャとかいう胡散臭いインチキ野郎は個人的にはいけ好かない。だが、それと同時にあの男のある種のカリスマ性に畏怖する気持ちもある。」
ピーニクはグリアに心情を吐露した。そうしなければ、彼自身、これからの展望が失われるような気がしていた。
「だろうな。俺もそうだ。だが――」
俺は違う、と危うく言いかけた。それを言わずに、喉元でとどめたのは、それがまだ時機でないことを自ら悟ったためである。
その代わりに、
「――俺は大きな敗戦を経験した。俺の人生でおそらく、一番大きな意味を持つ敗北だ。」
「……。」
「今更、どうこうと言いたくないが、これからガーナッシュの力を借りる以上ピーニク〝殿”にはなるべくいうべきだろう。」
ピーニクは密かに黒馬の砦の陥落に関する情報を詳細に持っていた。そして、恐らくグリアが生き残ればこの大陸に波乱をもたらすことも、何となく予想していた。
「……俺はわかった。人間、人を率いる上で聖人君子を目指してはいけないことを。それを許されるのは庶民や皇帝だけだ。少なくとも、他人の命を奪う俺のような卑属な人間はどう取り繕っても殺戮者だ。」
「しかしグリア殿。この世界で、果たして何者の命を奪わない人間や生物があろうか? 貴殿は、少なくとも殺戮の輩ではない。」
その時、初めて忸怩たる思いのこもった表情をピーニクに向けていた。
「……いや、違う。俺は殺戮者だ。敵なんぞの命なぞ知らん。ただ、戦争は必ずミカタの命を奪う。それが耐え難い苦痛になるのだ。敵の命なぞ、いくらでも奪ってやる。それで地獄に落ちるならば、それもよかろう……だが、女子供を殺されて、のうのうと生きている俺が許せない。ピーニク」
初めて、彼、グリアの冷たい響きのこもった問いかけを彼はきいた。
「ピーニク……俺は、いいか? これから、どんな手を使ってでも中原を変える。そして、この大陸の有り様を変革させてみせるぞッ!」
唾の飛沫が破裂するように飛び散り、ピーニクの手の甲を濡らした。
グリアの眸は怒りの涙が僅かに滲んでいる。
あの、火槍を買い求めにきた青年は、少なくとも、目前の男とは違う。そう彼は直感した。
「……お力添えをしよう。必ずだ。」
慄然としつつ、そう答えるより他になかった。
蛹の硬い殻が破れるような音がしたんだろう……優しき英雄は消えた。そして、大陸を変革する英雄に変貌を遂げようとしている。
――が、大陸の歴史において、風雲児の到来は、今少ししばらくは待たねばならぬ。
例えば、有名なものではコロンブスの遠征でお馴染みのサンタ・マリア号などがある。ギャラック船と大きく違うところはメインマスト、横帆、船首楼などの構造なども同じである。
大きく異なるのは船体の両脇に、巨大なワイバーンの翼、長さ約六メートル、横幅五〇センチ、それが五本ずつ付属している。これは、この大陸と、バザール近くでの貿易風が独特であるために生まれた。
地形が、諸島の間にあるため風が突風のようになる箇所が多く、潮の流れ目も危うく五ルート以外を航行してバザールに入港する場合はこの諸島をくぐらなければならない。
このワイバーンの翼は自然に風を受け流し、コントロールをしやすくするために使われる。主に長期航路専用の船に用いられる。
さて、この《銀の匙》号は全長約55メートル、幅13メートル、排水量1250トン。このバザールでも有数の高速船と言って良い。武器を運んだり、香辛料などの輸送として護送船団方式で四五隻近くで航行をする。
一度の航行で良質金貨五〇〇枚(日本円で約三億円近く)が消費される。船倉も大きい理由は貨物の一度の輸送にかかるコストを減らす簡単な知恵である。
このバザールではガーナッシュ公国の保有船舶は五〇隻を持つ。ガーナッシュ公国は武器輸送で潤った国である。が、それと同時に現地での香辛料の売買も執り行うが、それも主ではない。
――為替事業がここ数年、公国の収入源である。各地で為替を執り行い、まだ貨幣の概念がない人々たちには物々交換や、宝石などで取引し、中原などの先進国との仲介を手広くしてきていた。
船首の針のように美しい形が、マストとの間に繋がったロープも繊細である。それが、太陽の照射を受けて、巨大な影になっていた。
それを、遠くからピーニクと共にグリアは眺めた。
「……どうだ、いいだろう? 銀の匙号だ。我々が持っている船の中でも最高の足を持ってるいいオンナだ。」
ピーニクは岸辺の木柵に腰をかける。
大きな影が、鉄の裏のブーツを歩ませた。
「いい船だ。」
「だろう?」
グリアは、腕を組んで、肩をそびやかせる。
「……お前、中原をどう思う?」
急な問いかけに、思わずむせ返ったピーニクは、しばらく、胸を叩いた。
「ゲホッ、ウゥ、ゲホッ、ゲホッ……。」
体を大きく揺すりながら、相手の目を伺う。
「俺は生憎情報が今、ない。だが、盗賊を討伐するということから始まった武力遠征も――いや、そもそも都市国家会議自体が早急すぎた。」
グリアの金色の縮れ毛を、大きな手のひらで、撫で付ける。ライオンのたてがみのように直した。
「それもそうだろう。あのパジャとかいう胡散臭いインチキ野郎は個人的にはいけ好かない。だが、それと同時にあの男のある種のカリスマ性に畏怖する気持ちもある。」
ピーニクはグリアに心情を吐露した。そうしなければ、彼自身、これからの展望が失われるような気がしていた。
「だろうな。俺もそうだ。だが――」
俺は違う、と危うく言いかけた。それを言わずに、喉元でとどめたのは、それがまだ時機でないことを自ら悟ったためである。
その代わりに、
「――俺は大きな敗戦を経験した。俺の人生でおそらく、一番大きな意味を持つ敗北だ。」
「……。」
「今更、どうこうと言いたくないが、これからガーナッシュの力を借りる以上ピーニク〝殿”にはなるべくいうべきだろう。」
ピーニクは密かに黒馬の砦の陥落に関する情報を詳細に持っていた。そして、恐らくグリアが生き残ればこの大陸に波乱をもたらすことも、何となく予想していた。
「……俺はわかった。人間、人を率いる上で聖人君子を目指してはいけないことを。それを許されるのは庶民や皇帝だけだ。少なくとも、他人の命を奪う俺のような卑属な人間はどう取り繕っても殺戮者だ。」
「しかしグリア殿。この世界で、果たして何者の命を奪わない人間や生物があろうか? 貴殿は、少なくとも殺戮の輩ではない。」
その時、初めて忸怩たる思いのこもった表情をピーニクに向けていた。
「……いや、違う。俺は殺戮者だ。敵なんぞの命なぞ知らん。ただ、戦争は必ずミカタの命を奪う。それが耐え難い苦痛になるのだ。敵の命なぞ、いくらでも奪ってやる。それで地獄に落ちるならば、それもよかろう……だが、女子供を殺されて、のうのうと生きている俺が許せない。ピーニク」
初めて、彼、グリアの冷たい響きのこもった問いかけを彼はきいた。
「ピーニク……俺は、いいか? これから、どんな手を使ってでも中原を変える。そして、この大陸の有り様を変革させてみせるぞッ!」
唾の飛沫が破裂するように飛び散り、ピーニクの手の甲を濡らした。
グリアの眸は怒りの涙が僅かに滲んでいる。
あの、火槍を買い求めにきた青年は、少なくとも、目前の男とは違う。そう彼は直感した。
「……お力添えをしよう。必ずだ。」
慄然としつつ、そう答えるより他になかった。
蛹の硬い殻が破れるような音がしたんだろう……優しき英雄は消えた。そして、大陸を変革する英雄に変貌を遂げようとしている。
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