異世界にいったったwwwww

あれ

大陸歴一三〇〇年代の話しを、今少し続けなければならない。


 というのも、この世紀は、古来より続いた都市国家の制度が骨董品のようになってしまった事に起因する。


 都市国家連合と王朝側の戦争で高い城壁とその内部に居住区、行政府、軍事施設などを配置している。だが、一方で食料やその他の補給は近隣の村や農奴を管理する地区に置かれていた。


 つまり、これまでの方法では長期戦はできない……というものであった。


 今日、我々には理解しがたいことであるのだが、この異世界の、しかも中世の人々の観念には奴隷と同居するという考えは殺人犯と同じ家で暮らすというくらいに理解のできないものであった。


 事実、都市国家連合は、皮肉にも奪い取られた城壁都市を補給拠点を潰してゆき、見事に陥落をさせた形である。


 その王朝の戦いの後、都市国家もまた変貌を遂げた。まず、地下水路の獲得と、それから城壁内での食料などを目的とする農業施設の併設であった。これにより長期戦争が可能となった。




 大規模な文明の変革であった。








 大陸歴1355年。




 六月。




 グリアたちは一時的に入居を許された区画での自由な生活を過ごした。


 本来、このバザールではどのような国や宗教勢力であろうとも、この場所を攻撃することは許されないという密約があった。そのため、彼らはこの場所に留まる。


 と言っても、それは名目上のことである。


 ……ナニが名目上であるのか?


 ひとえに、バザールには防衛軍隊の強大さがあった。バザールは本来、雇兵や自前の軍、さらに貿易での最新鋭の兵器などを利用できるため、容易に軍事侵略ができないのである。


 そしてこの日、バザール会議堂はその数百年の歴史を誇る石造りの荘厳な雰囲気に一種の不安を孕んでいた。


 バザールという人工的都市が完成したその黎明時点、非常に公共的な政治体制を敷くことを是とした。


 ……その、バザール本会議場は緊張に震えた。


 「――ピーニク・ガーナッシュ公よ。一体どういうつもりだ。」




 バザール議長が忌々しげに、会議机の向うの若い、窓際に腰をおろした男にみやった。




 「はて? 一体なんのことでしょうかな?」


 とぼけたように、不健康な髪をかきまぜる。不敵に浮かべた口元の笑みが、議長をはじめ、会議机に座したほかの重鎮とも呼ぶべきバザール議員は苦々しく思った。




 「いいかッ、ガーナッシュ公よ。貴殿も二六だ。いい加減、そのように若造の態度をとるのはやめて大人になれ」


 議長は神経質そうな顔の汗をハンカチで拭う。


 「ですから、一体なんのことでしょうか?」


 悪びれもせず、彼は肩をすくめる。




 すると、ある短気な議員が吠えた。


 「バカ野郎! いいか、お前のところに住んでる、野良鼠のことだ! 奴らが居るおかげで、俺らまで盗賊連中の支援をしていると思われるだろッ!」






 彼の一言に、ほかの議員も賛同の頷きを向ける。




 すると、ガーナッシュ公がスッ、と眦を潜め、




 「……貴殿。もう一度わがお客人の悪言を吐かれてみよ。」




  ――な、なにを!


 と、危うく喚きそうになったところを、議長が右手をあげて制した。


 「いいですかな? わがバザールの理念は何者にも侵されず、またどのような事情があろうと、この土地にある限り、商業上の理由でない限り、思想政治的要因を廃絶しうる。そう書いてあるではありませんか」


 すると、怒鳴った議員は脂汗をうかべ、席に座り直した。






 議長は忌々しげに、


 「では、貴公はその〝黒馬の民”をどうなされるおつもりか?」




 これ以上都市国家連合に糾弾されたくない、ということなかれ主義からの言葉だった。




 それを聞き流すように、


 「ええ、ですからバザールで犯した罪があれば断罪いたします。ですが、そうでないなら敢えて処罰する理由も追放する理由もないでしょう。」




 もういい、との議長の言葉を待っていたとばかりにガーナッシュはバザールの会議室を退席した。








 (老骨どもめ。)


 鼻で嗤いながら、彼は長い廊下を歩いた。明るい日差しが廊下にいくつも差し込んだ……。












 バザール議会堂を出て守衛門のすぐ傍に座っている大きな男をピーニクはみつけた。


 その一度みたら忘れられない縮れた金髪、そして青い瞳。溌剌とした気力を体の内に宿したような肉体……どうみても、グリアであることを瞬時に理解した。


 「どうした。こんなところで」




 ピーニクは皮肉をいうように、大柄な男の傍にたった。


 「ああ、ピーニク。どうだった?」


 この青年には希な不安げな声音で問うた。ただし、まったく顔色を変えずに。




 「うん。まあ大丈夫だ。心配するな」


 「迷惑をかけるな。」


 いや、といいながら、ピーニクも彼の傍に腰をおろした。



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