異世界にいったったwwwww
最終回
再びエイフラムが目覚めた時、簡易の幕屋で、自分を介抱している真希と、背中のアーノが視界に飛び込んだ。
「あっ、起きた」
それに気がついた真希が近くによってきた。
「……なんだ。」
自分でも驚く程のそっけない返答だった。
「ひどいなーもう。まあ、いいや。でも、あの魔術師相手にその怪我でよく生きてるね」
「……生きてるって」
エイフラムは、初めて驚愕にそまった。
彼女の言葉にこそトゲはあるが、心配をしていたことがわかった。
だが、同時に、魔族と契約したことを喋る訳にはいかなかった。それは、ある種の裏切りであり、また、その契約が特異なことがあったからだ。
「あっ、馬鹿、今まだ立ち上がらないで。ちょっ、おとなしく座ってて。」 毛布を蹴飛ばしてどこかにゆこうとするエイフラムを真希が制止した。
エイフラムは、まじまじと、自分をぐるぐるに巻きつける包帯をながめた。 「その傷、じゃあ、どうしたの?」
詰問するように、少女がいう。
暫く逡巡するエイフラムだったが、魔族との契約を黙っている後ろめたさから、しょうがなく、
「……魔術師と戦ったあと、そのまま砦になだれ込んできた連中を殺していた。」
魔族とのことを秘密にしながら、そのあとの經過を語る。
エイフラムは、砦に雪崩込んだ連中が、盗賊であることを、すぐに理解した。しかし、その時はまだ体が、魔との融合ができておらず、身を潜めて耐えていた。 やがて、砦が蹂躙されてゆくのが、悔しく、体が動き出した時、連中の対照の首を取りに単騎で突撃をしかけたとこ。そして、惜しくも阻まれたが、もう一歩で逃げてきたこと。
エイフラムが喋り終わると、真希は、思いっきり頬を叩いた。
「……ッ!」
どうして、彼女が、こんなことをするか理解できなかった。
しかし、彼女の瞳の隅に涙が浮かんでいた。
「馬鹿だろ! 馬鹿! ばか、アホ、ばか! なんで! せっかく助かったのに、また……また死のうとするの……」
彼女は、言葉を継ぐたびに、自ら殺めたパプキンと、見捨てたナターシャたちを思い浮かべた。
「私……パプキンを…………撃ち殺して……ナターシャも……」
エイフラムは、ただ、頬を叩いた少女をみつめた。 彼女の独白は、少なからず衝撃を受けたが、しかしそれ以上に、自分と同じく破滅しようとしていることに、また驚かずにはいられなかった。
彼女の独白も終わった頃、幕屋に一つの灯が、消えかけていた。
「……そうか。」 それよりほか、彼はなにもできなかった。「――だから、さっきは、叩いごめんなさい。でも、だけど、言わせて!」
エイフラムは、斜めに、真希を伺った。
「私が言うのも変だけど、でも! お願い。あなたは、少しは自分を大切にして」 エイフラムは、彼女の言葉を聞いてはいなかった。 己の弱みを、今一度、再認識することが、急務であると、エイフラムは思案していた。
「やあ、お二人さん、どうだい?」
と、突然、グリアとモグラや数人の男たちがやってきた。
その姿をみたエイフラムは、俄に飛びおき、
「兄貴! この戦争、負けだ! みんな、みんなしんじまった。どうしてくれる? この戦いの責任者はあんただろッ!」
エイフラムは感情を顕にして、怒った。 かれは、恐らくこの生まれてから初めての感情の爆発だった。
「あんたが、いや、自分もだが、不甲斐ないから、パプキンもナターシャも、みんな、みんな死んじまった」
その怒りを、グリアは、淡々ときいている。
「……そうか。」
その態度に苛立った。
「そうかッ、じゃないだろ! どうするんだ、なあ!」
と、瞬間、エイフラムの横っ面を強い衝撃がした。
「いい加減にしろ!」 モグラの拳だった。
「……ッ」 気まずいまま、その場の空気は固まった。
モグラが、
「いいか、辛いのは、お前一人じゃない! グリアだって、ほかの皆だって辛いんだ。お前一人がなにギャアギャアと喚いて嫌がる! 頭を冷やさせ。」
そういわれたエイフラムは、よろめいた体をせかして、外に飛び出した。
それを追いかけようとする真希を、モグラは制止した。
そとは、まだ風の強い、真夜中だった。
エイフラムは、幕屋の離れたところで、座っていた。その方角は丁度シナイ山の方であった。 一人、幼子のような態度の自分が、つかみ兼ねていた。 「――やあ。さっきはスマン。」
モグラが、エイフラムの後ろから、酒の注がれた杯を二つ、持っていた。
「……いえ、悪いのはこちらのほうで、あなたは正しかった。」
「いや、正しさに意味はない。意味に意味がないように。ただ、グリアもお前にああやって、直接言われたことが、救いになったのかもしれない。なんせ、黒馬の連中、グリアのために命を差し出す覚悟の連中ばかりで、正直、その責任感は知らず知らず、あの男の重荷になっていたろう。だけど、きちんとお前にああやって叱責されたことが、救いになったんだろう。」
そう言うと、モグラは酒を呑む。
エイフラムは、呆然と、燦然と輝く星星の白い光を網膜に焼き付けていた。
その翌日。
かの丘に残っている黒馬の民は、旅たちの準備をしていた。 出発の前、グリアが全員の見える場所にたち、号令をかけようとしていた。
と、そこに、エイフラムが、やってきた。
訝しる一同を前に、グリアに一言いいに来た。
「兄上、今まで、ありがとうございました。自分は、いまから、皆と別れてべつの道を行きます。」
と告げた。 皆、どよめいたが、グリアは「そうか」と、笑顔で応じた。
「いいのか」とモグラがいう。 「じゃあ、お前どうすんだ」と、ザルが質問した。 間をいれず、
「シナイ山の北方連邦に、ドラゴンの巣があるとききました。それを探しに行ってまいります」
エイフラムは答えた。
その場の皆は困惑した。
だが、グリアは、むしろ、そうか、と喜んだ。そして、
「もし、エイフラムのように道を違えたいものあらば、名乗りあげよ。いまからでも遅くない。」 と言った。
すると、数十の人々がすまなそうに挙手した。
しかし、グリアはそれをゆるした。
「なあ、弟、最後だ。」
と、握手を求めた。エイフラムもそれに応じて、握手し、別れを告げた。
そして、道を違えるものたちも、続々とグリアたちの前から去っていった。 真希は、颯爽とかけてゆくエイフラムに、別れの言葉一つ、交わせなかった。 ただ、切なげに、その後ろ姿を見送るより、ほか、なかった。 壮一は、その娘の様子を難しい顔で見ている。
太陽が、昇りきった。 号令をかけようとしていたグリアは、残った数百の人々にこえをかける。 一団を騎馬でなぞるように、一々、横切る。 そして集団の先頭に、佇む。
「皆、まず、俺の不手際で、このような状態に陥ったことを謝りたい。」
グリアは、疲れきった人々を詳らかに、眺める。
そして、また息を一つ吸う。
「……だが、だが、ここで敢えて一言、ただ一つ言わせてくれ。我ら、ただ、ただの一度、敗北したところで、その身を地に横たえ、汚水をすすり、木の根を噛んだところで、だから、一体なんだというのか?」
人々は、彼の言葉に釘付けにされた。
「そう、ただの一敗しただけではないか? だから、一体なんだというのか?」 人々は、金色に輝き、太陽を背にした男を仰ぎ見る。
「まだ息の根は止まっていない。まだ、心臓が脈打つ。再び、立ち上がろう。」 黒馬の民は、神秘な静寂に包まれた。 それから、誰ともなく、歓声があがる。 それからポツリ、ポツリと拍手が加わり、やがて大きな、まるで大地を割かんとする大きな音に変わった。
人々は、グリアに、希望を見出した。
いや、まだ己たちのなせることの芽を知ったのだ。
真希も、壮一も、ただ、その光景を興奮に眺めている。
グリアが、手を大きく掲げ、
「――さあ、ゆこう。我ら、黒馬の民であるッ!」
そういうと、先頭を走った。 それに続いて、まるで蟻の群れのように、続々と続いた。
―― 一路、バザールへ向かう。 後の歴史書に、「かの丘での再起。」と添えられている。 新たな時代の扉が開け放たれた。
「あっ、起きた」
それに気がついた真希が近くによってきた。
「……なんだ。」
自分でも驚く程のそっけない返答だった。
「ひどいなーもう。まあ、いいや。でも、あの魔術師相手にその怪我でよく生きてるね」
「……生きてるって」
エイフラムは、初めて驚愕にそまった。
彼女の言葉にこそトゲはあるが、心配をしていたことがわかった。
だが、同時に、魔族と契約したことを喋る訳にはいかなかった。それは、ある種の裏切りであり、また、その契約が特異なことがあったからだ。
「あっ、馬鹿、今まだ立ち上がらないで。ちょっ、おとなしく座ってて。」 毛布を蹴飛ばしてどこかにゆこうとするエイフラムを真希が制止した。
エイフラムは、まじまじと、自分をぐるぐるに巻きつける包帯をながめた。 「その傷、じゃあ、どうしたの?」
詰問するように、少女がいう。
暫く逡巡するエイフラムだったが、魔族との契約を黙っている後ろめたさから、しょうがなく、
「……魔術師と戦ったあと、そのまま砦になだれ込んできた連中を殺していた。」
魔族とのことを秘密にしながら、そのあとの經過を語る。
エイフラムは、砦に雪崩込んだ連中が、盗賊であることを、すぐに理解した。しかし、その時はまだ体が、魔との融合ができておらず、身を潜めて耐えていた。 やがて、砦が蹂躙されてゆくのが、悔しく、体が動き出した時、連中の対照の首を取りに単騎で突撃をしかけたとこ。そして、惜しくも阻まれたが、もう一歩で逃げてきたこと。
エイフラムが喋り終わると、真希は、思いっきり頬を叩いた。
「……ッ!」
どうして、彼女が、こんなことをするか理解できなかった。
しかし、彼女の瞳の隅に涙が浮かんでいた。
「馬鹿だろ! 馬鹿! ばか、アホ、ばか! なんで! せっかく助かったのに、また……また死のうとするの……」
彼女は、言葉を継ぐたびに、自ら殺めたパプキンと、見捨てたナターシャたちを思い浮かべた。
「私……パプキンを…………撃ち殺して……ナターシャも……」
エイフラムは、ただ、頬を叩いた少女をみつめた。 彼女の独白は、少なからず衝撃を受けたが、しかしそれ以上に、自分と同じく破滅しようとしていることに、また驚かずにはいられなかった。
彼女の独白も終わった頃、幕屋に一つの灯が、消えかけていた。
「……そうか。」 それよりほか、彼はなにもできなかった。「――だから、さっきは、叩いごめんなさい。でも、だけど、言わせて!」
エイフラムは、斜めに、真希を伺った。
「私が言うのも変だけど、でも! お願い。あなたは、少しは自分を大切にして」 エイフラムは、彼女の言葉を聞いてはいなかった。 己の弱みを、今一度、再認識することが、急務であると、エイフラムは思案していた。
「やあ、お二人さん、どうだい?」
と、突然、グリアとモグラや数人の男たちがやってきた。
その姿をみたエイフラムは、俄に飛びおき、
「兄貴! この戦争、負けだ! みんな、みんなしんじまった。どうしてくれる? この戦いの責任者はあんただろッ!」
エイフラムは感情を顕にして、怒った。 かれは、恐らくこの生まれてから初めての感情の爆発だった。
「あんたが、いや、自分もだが、不甲斐ないから、パプキンもナターシャも、みんな、みんな死んじまった」
その怒りを、グリアは、淡々ときいている。
「……そうか。」
その態度に苛立った。
「そうかッ、じゃないだろ! どうするんだ、なあ!」
と、瞬間、エイフラムの横っ面を強い衝撃がした。
「いい加減にしろ!」 モグラの拳だった。
「……ッ」 気まずいまま、その場の空気は固まった。
モグラが、
「いいか、辛いのは、お前一人じゃない! グリアだって、ほかの皆だって辛いんだ。お前一人がなにギャアギャアと喚いて嫌がる! 頭を冷やさせ。」
そういわれたエイフラムは、よろめいた体をせかして、外に飛び出した。
それを追いかけようとする真希を、モグラは制止した。
そとは、まだ風の強い、真夜中だった。
エイフラムは、幕屋の離れたところで、座っていた。その方角は丁度シナイ山の方であった。 一人、幼子のような態度の自分が、つかみ兼ねていた。 「――やあ。さっきはスマン。」
モグラが、エイフラムの後ろから、酒の注がれた杯を二つ、持っていた。
「……いえ、悪いのはこちらのほうで、あなたは正しかった。」
「いや、正しさに意味はない。意味に意味がないように。ただ、グリアもお前にああやって、直接言われたことが、救いになったのかもしれない。なんせ、黒馬の連中、グリアのために命を差し出す覚悟の連中ばかりで、正直、その責任感は知らず知らず、あの男の重荷になっていたろう。だけど、きちんとお前にああやって叱責されたことが、救いになったんだろう。」
そう言うと、モグラは酒を呑む。
エイフラムは、呆然と、燦然と輝く星星の白い光を網膜に焼き付けていた。
その翌日。
かの丘に残っている黒馬の民は、旅たちの準備をしていた。 出発の前、グリアが全員の見える場所にたち、号令をかけようとしていた。
と、そこに、エイフラムが、やってきた。
訝しる一同を前に、グリアに一言いいに来た。
「兄上、今まで、ありがとうございました。自分は、いまから、皆と別れてべつの道を行きます。」
と告げた。 皆、どよめいたが、グリアは「そうか」と、笑顔で応じた。
「いいのか」とモグラがいう。 「じゃあ、お前どうすんだ」と、ザルが質問した。 間をいれず、
「シナイ山の北方連邦に、ドラゴンの巣があるとききました。それを探しに行ってまいります」
エイフラムは答えた。
その場の皆は困惑した。
だが、グリアは、むしろ、そうか、と喜んだ。そして、
「もし、エイフラムのように道を違えたいものあらば、名乗りあげよ。いまからでも遅くない。」 と言った。
すると、数十の人々がすまなそうに挙手した。
しかし、グリアはそれをゆるした。
「なあ、弟、最後だ。」
と、握手を求めた。エイフラムもそれに応じて、握手し、別れを告げた。
そして、道を違えるものたちも、続々とグリアたちの前から去っていった。 真希は、颯爽とかけてゆくエイフラムに、別れの言葉一つ、交わせなかった。 ただ、切なげに、その後ろ姿を見送るより、ほか、なかった。 壮一は、その娘の様子を難しい顔で見ている。
太陽が、昇りきった。 号令をかけようとしていたグリアは、残った数百の人々にこえをかける。 一団を騎馬でなぞるように、一々、横切る。 そして集団の先頭に、佇む。
「皆、まず、俺の不手際で、このような状態に陥ったことを謝りたい。」
グリアは、疲れきった人々を詳らかに、眺める。
そして、また息を一つ吸う。
「……だが、だが、ここで敢えて一言、ただ一つ言わせてくれ。我ら、ただ、ただの一度、敗北したところで、その身を地に横たえ、汚水をすすり、木の根を噛んだところで、だから、一体なんだというのか?」
人々は、彼の言葉に釘付けにされた。
「そう、ただの一敗しただけではないか? だから、一体なんだというのか?」 人々は、金色に輝き、太陽を背にした男を仰ぎ見る。
「まだ息の根は止まっていない。まだ、心臓が脈打つ。再び、立ち上がろう。」 黒馬の民は、神秘な静寂に包まれた。 それから、誰ともなく、歓声があがる。 それからポツリ、ポツリと拍手が加わり、やがて大きな、まるで大地を割かんとする大きな音に変わった。
人々は、グリアに、希望を見出した。
いや、まだ己たちのなせることの芽を知ったのだ。
真希も、壮一も、ただ、その光景を興奮に眺めている。
グリアが、手を大きく掲げ、
「――さあ、ゆこう。我ら、黒馬の民であるッ!」
そういうと、先頭を走った。 それに続いて、まるで蟻の群れのように、続々と続いた。
―― 一路、バザールへ向かう。 後の歴史書に、「かの丘での再起。」と添えられている。 新たな時代の扉が開け放たれた。
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