異世界にいったったwwwww
62
(真希さん、待っていてください。)
砦中央部、元補給拠点の周辺は、残骸、瓦礫、焼死体。ほとんど無秩序に山を作つくり、それらの欠片は混じり合っている。
(もしかして、真希さんもパプキンさんもこの中に……)
不吉な想像を頭にめぐった。それを必死で追い出し、左右をみながら、泣きそうに不安な感情に鞭を入れる。
「ま……真希さん。どこですか! 返事してください。」
(急がないと……急がないと、いつ敵が襲ってくるか……)
焦燥が、チリチリとナターシャの肌を刺激する。
黒焦げの地面と、木々。どこにも人影は見当たらない。そう「死体」以外は……。 (どうしよう……どうしよう……)
思わず、服に隠していた、真希からもらったチョコレートの銀紙を握っている。 もう、ほんとうに死んだのかもしれない。だとすると、魔術師はこの辺りを徘徊しているのだろうか。 いくつもの最悪が、彼女に逡巡させる。
――パン。
と、短く乾いた音が、聞こえた。ナターシャは思わず、肩を竦めた。 そして、それが、所謂“ジュウ”であることを理解した。
(真希さんだ! 真希さんたちが生きている。)
ナターシャの胸の内が喜びに包まれた。
なにも構わず、走り出す。 裸足の彼女は、瓦礫や木々の破片を足裏に突き刺している。
(――ッ、こんなくらい!)
ありたけの勇気が彼女の足を奮わす。
――パン、パン、パン、と銃声が続く。 ナターシャは、本能で、嫌な予感がした。なにか、とんでもないことが起こっている気がしてならない。
ますます銃声の在り処に近づくにつれて、それが強くなった。
と、厚く覆っていた木々の枝を超えると、真希の後ろ姿が瞳に飛び込んできた。 「ま、まきさ……」
叫ぼうとした。
……だが、ナターシャは、それ以上、声帯を使うことができなくなった。
垂れこめた鉛の雲。焦げた土たち。風になびかない、骨だけの森。
その中心に、煙をたなびかせる銃口と、それを持った真希。そして、その下には、無残と、変わり果てたパプキン。
ナターシャはただただ、今の状況を、理解できなかった。いや、本当はしたくなかった。
永遠とも思える沈黙が、その場に漂う。
すると、真希は、徐に、後ろを振り返った。
「……あっ、ナターシャ。どうしたの、こんなとこに? 危ないよ?」 「まっ……真希さん。」
真希の双眸は、虚ろに、光を失い、そして、溌剌とした意識そのものを欠いているようだった。
「どうしたんですか……あの……」
「ナターシャ、ナターシャ、危ないよ。こんなところ……」
ナターシャは、まるで弓から放たれたように、真希のもとまで走りだした。 「……どうしたの? ナターシャ? 危ないよ。こんな……」
ナターシャは、真希を思い切り抱きしめた。身長は真希のほうが高いが、それでも、腹部のあたりにしがみつく様に、抱きしめる。
「もう……大丈夫です。心配しないでください。大丈夫ですから……」
真希の、煤けた頬を優しく撫でる。
「ナターシャ、私どうしちゃったの?」
「なにも、なにもないですよ。」
「うそ……私、パプキンを……殺した……んだっけ? あれ……おかしいな? 私って……ああそうだ、エイフラムと魔術師が、どこかに転戦して……それで……。」 「なにも言わなくてもいいんです……」
そう言われた真希は、地面に、崩れた。
それから、徐々に“正常”に戻るにつれて、震えていた。
「……ねぇ、私、殺したんだ。パプキンを……。助けるって、そう決めたのに……。ほんとうに、なんで……。パプキンだって、私より、年下なのに、生意気で。」
無言で寄り添うナターシャ。そして、傍らで、何度も背中を摩る。
「でも……私の勘違いかもしれないけど……“殺して”って、何度も訴えけ……違う! 私が殺したッ! 本当は、まだ生きれたのに! 絶対ッ……。じゃなかったら、こんな、一四歳なんて……若いのに……死んじゃいけない……。」
真希の瞳は、なおも虚ろだったが、その語気は、必死であった。
「……最低だ。私、パプキンを殺したのに、涙も出ないの……私が殺したからかな……どうしても、感情が沈んでいくんだ。」
ナターシャは、血まみれで、地面に仰向けになったパプキンだった遺体をみた。
満足したように、笑顔と、美しいハゲ頭だった。
「……あいつ、死ぬとき、頭撫でると、子犬みたいに、人懐っこく笑ったんだ……。」
それっきり、真希は、魂を抜かれたように、地面を眺めている。 ナターシャは、真希の額に自分の額を寄せた。
「真希さん。」
だが、ここでかけてやる言葉を、ナターシャは知らなかった。知らず知らず、幼い彼女は、唇を噛んでいた。
砦中央部、元補給拠点の周辺は、残骸、瓦礫、焼死体。ほとんど無秩序に山を作つくり、それらの欠片は混じり合っている。
(もしかして、真希さんもパプキンさんもこの中に……)
不吉な想像を頭にめぐった。それを必死で追い出し、左右をみながら、泣きそうに不安な感情に鞭を入れる。
「ま……真希さん。どこですか! 返事してください。」
(急がないと……急がないと、いつ敵が襲ってくるか……)
焦燥が、チリチリとナターシャの肌を刺激する。
黒焦げの地面と、木々。どこにも人影は見当たらない。そう「死体」以外は……。 (どうしよう……どうしよう……)
思わず、服に隠していた、真希からもらったチョコレートの銀紙を握っている。 もう、ほんとうに死んだのかもしれない。だとすると、魔術師はこの辺りを徘徊しているのだろうか。 いくつもの最悪が、彼女に逡巡させる。
――パン。
と、短く乾いた音が、聞こえた。ナターシャは思わず、肩を竦めた。 そして、それが、所謂“ジュウ”であることを理解した。
(真希さんだ! 真希さんたちが生きている。)
ナターシャの胸の内が喜びに包まれた。
なにも構わず、走り出す。 裸足の彼女は、瓦礫や木々の破片を足裏に突き刺している。
(――ッ、こんなくらい!)
ありたけの勇気が彼女の足を奮わす。
――パン、パン、パン、と銃声が続く。 ナターシャは、本能で、嫌な予感がした。なにか、とんでもないことが起こっている気がしてならない。
ますます銃声の在り処に近づくにつれて、それが強くなった。
と、厚く覆っていた木々の枝を超えると、真希の後ろ姿が瞳に飛び込んできた。 「ま、まきさ……」
叫ぼうとした。
……だが、ナターシャは、それ以上、声帯を使うことができなくなった。
垂れこめた鉛の雲。焦げた土たち。風になびかない、骨だけの森。
その中心に、煙をたなびかせる銃口と、それを持った真希。そして、その下には、無残と、変わり果てたパプキン。
ナターシャはただただ、今の状況を、理解できなかった。いや、本当はしたくなかった。
永遠とも思える沈黙が、その場に漂う。
すると、真希は、徐に、後ろを振り返った。
「……あっ、ナターシャ。どうしたの、こんなとこに? 危ないよ?」 「まっ……真希さん。」
真希の双眸は、虚ろに、光を失い、そして、溌剌とした意識そのものを欠いているようだった。
「どうしたんですか……あの……」
「ナターシャ、ナターシャ、危ないよ。こんなところ……」
ナターシャは、まるで弓から放たれたように、真希のもとまで走りだした。 「……どうしたの? ナターシャ? 危ないよ。こんな……」
ナターシャは、真希を思い切り抱きしめた。身長は真希のほうが高いが、それでも、腹部のあたりにしがみつく様に、抱きしめる。
「もう……大丈夫です。心配しないでください。大丈夫ですから……」
真希の、煤けた頬を優しく撫でる。
「ナターシャ、私どうしちゃったの?」
「なにも、なにもないですよ。」
「うそ……私、パプキンを……殺した……んだっけ? あれ……おかしいな? 私って……ああそうだ、エイフラムと魔術師が、どこかに転戦して……それで……。」 「なにも言わなくてもいいんです……」
そう言われた真希は、地面に、崩れた。
それから、徐々に“正常”に戻るにつれて、震えていた。
「……ねぇ、私、殺したんだ。パプキンを……。助けるって、そう決めたのに……。ほんとうに、なんで……。パプキンだって、私より、年下なのに、生意気で。」
無言で寄り添うナターシャ。そして、傍らで、何度も背中を摩る。
「でも……私の勘違いかもしれないけど……“殺して”って、何度も訴えけ……違う! 私が殺したッ! 本当は、まだ生きれたのに! 絶対ッ……。じゃなかったら、こんな、一四歳なんて……若いのに……死んじゃいけない……。」
真希の瞳は、なおも虚ろだったが、その語気は、必死であった。
「……最低だ。私、パプキンを殺したのに、涙も出ないの……私が殺したからかな……どうしても、感情が沈んでいくんだ。」
ナターシャは、血まみれで、地面に仰向けになったパプキンだった遺体をみた。
満足したように、笑顔と、美しいハゲ頭だった。
「……あいつ、死ぬとき、頭撫でると、子犬みたいに、人懐っこく笑ったんだ……。」
それっきり、真希は、魂を抜かれたように、地面を眺めている。 ナターシャは、真希の額に自分の額を寄せた。
「真希さん。」
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