異世界にいったったwwwww

あれ

53

「総督、5マリ後方の森から盗賊の軍勢です!」 
と、伝令兵が唾を飛ばす。 
ようやく北の門を攻略できる矢先であった。 
「なに? 索敵班は? そんなに近くにいてなぜ気がつかない? 二万の兵がいれば、自ずとわかるはずだろう。」
 老眼の目頭を何度も揉んだ。
 伝令もわけがわからない様子だった。 
「恐れながら」 
と、若い武将が、挙手した。 
「どうした?」 
「ハッ、恐らくこの遠征軍に内応したものがいるかと……」 
その一言で全て察しがついた。 
この戦を終わらせれば、今度は都市国家同士の軋轢が生まれる。それは、森の盗賊を討ち滅ぼし、自然と盗賊討伐軍の人員が減り、都市国家の用いれる兵力が増えるためだった。
 それを危ぶんだ誰かの差金で、敢えて盗賊の潜伏した森を伝えず、通り抜けた……というところだろう。 年老いた身体と頭脳が、疲労をみせた。 手近な椅子に、腰を落とし、己の失態を恥じた。 
「総督!」
 不安の色をみせた若い武将が、声をあげる。
 それを右手で制して、
 「索敵に当たっていた連中はどこの国の部隊だ?」
 「それが……索敵は全て平等に出身の国の兵を混ぜて、任務に当たらせておりました」 現場指揮官の独断であったと、その若い武将が付け加えた。
 総督といえども、二万の兵隊全てを把握し、管理できるわけではない。その為、いくつもの責任者をたてて、その報告をまとめて受けることに専念していた。 
(まさか……)
 と、思い当たる節を総督がみつけた……時には、既に遅かった。 大地を太鼓のように叩き、揺るがすいくつもの罵声をきいた。
 「何事だ」
天幕から出た総督と、若い武将は、驚愕した。
 砦を包囲しているとはいえ、本陣裏の後詰に四千から五千の兵を残している。だのに、まさかその壁を突破し、この中枢まで至ろうとしていた。 テントのむこう、地平線から暴れ牛に跨った、巨漢が丸太のような槍を振り回してかけてきた。 
「ここに、まかり通るはザルである!」 
と、喧伝するかの如く巨漢の男は吠えた。 
切っては千切り切っては千切りを繰り返し、猛烈な勢いで本陣をめがけてきた。 「総督、お早く、お逃げください。こちらは、私が引き受けます。」
 そういいながら、数本立てかけてあった槍を掴み、駆け出した。
 (なんということだ……)
 時代が、英雄豪傑の時代がきたのかもしれない。 微かに、遠征軍総督の心中にこんな感情が飛来した。




「もう、ここらでいい。戦線を少しずつ狭めて、門に戻るぞッ」 おい、とモグラが、 
「そりゃ無理だ。なかなか相手も馬鹿じゃない。こんな好き勝手されて、簡単にかえす訳なかろう」
 黒馬の部隊は、血と、泥にまみれた。頭からつま先まで、泥がこびりつき、血が皮膚のように固まる。 
グリアの剣も、脂で切れ味が鈍くなる。 
「畜生!」 
三角の陣形は、敵軍の先陣を破っていたことに気がついた。 
それと同時に、もうこれ以上深く食い込めば死ぬこともわかった。 
ぴりぴりと、皮膚が突き刺さる感覚だ。グリアは今更自らが行った愚行と無謀に後悔しながら、どこか、ある種の爽快感を持っていた。
 たかだか、二~三〇〇程度の兵が、二万の軍の先陣を破ったのだ。 
「よし、俺が殿軍をやる、お前ら、反転だ。」 
グリアを中心に、今度は、V字に展開し、北の門まで帰還するための、危険な賭けに出た。


 北の門は、反攻戦にでた遠征軍が強烈に包囲にかかった。 グリアは、最後尾にいる。
 「まいった。どうしたもんだ」 
晴がましい顔には、幾筋もの傷の跡がひかれていた。北の門まで距離は遠くない。だが、幅が僅かに三四人分しかないところへ、一斉に味方が押し寄せれば、まずいことになる。 
「おーい、おーい。大砲を、外へ出してくれるように、先頭に伝えろ」 
グリアの前を奔るモグラは、測りかねていた。 まさか、この強大な軍兵を相手にあんな子供だましで脅すのか……と。 モグラの心配をよそに、グリアはどこ吹く風で、金の髪をかきあげた。





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