異世界にいったったwwwww

あれ

52

真希は銃を構えながら、必死で過去を思い出していた。


 昔、海外の射撃場で試し打ちをしたことがあった。子供の時はずっしりとした質量に、両手で支えていた。プルプルとさせながらも、力を込めていた。 
「おい、そんな下に構えてちゃ、的に当たらんぞ」
 壮一が、悪戯っぽく笑った。
 その父の顔が、腹ただしく思った。そして、となり脇に並んだ射撃手が発砲するたびに、真希は肩をびく、と震わせた。 幼い自分には、到底引き金を引く勇気はない……と。  
すると、 
「いいか、アメリカじゃな、真希よりも、もっと小さい子供も銃を撃ってるんだぜ?」 
そういいながら、真希の惰弱と握った銃の手を壮一のゴツゴツとした掌で包み込んだ。 
――――そうだった。
 真希は、昔の出来事をこんな時に……と、内心苦笑いした。
 (えーっと、まず、手首を固定して、肘の関節を気持ち緩めで、肩の関節は柔軟性を意識しつつ……)
 一々を確認しながら、しかし、その瞬間に気持ちの高揚が湧き上がる。
 (百発百中で仕留めないと……)


「おい、そんな豆粒を弾き飛ばしてどうしたんだ? ハッ、まさか魔術師を殺す気かよ?」 
炎の魔術師が、這いつくばるパプキンから真希へ、獲物を切り替えたように、顔を向けた。
生まれて初めて人にこれほどの「憎しみ」と「殺気」を感じたことはなかった。




 炎の魔術師は、避ける素振りもなく、こちらに向かって歩いてくる。銃弾は炎に遮られたのか、どこかに抜けてしまっていた。 
「――うッ」 と、魔術師は呻いた。 
まぐれで一発、左腿を掠っていた。軽い鎧ではあるが、銃弾の防御は考慮されていないらしく、小さく針の形くらい肉と鎧の一部を削っていた。
 「え、ウソ……。」
思わず声が漏れた。まさか、そんな当たるはずはないと思っていた。拳銃は、訓練した人間でも的に当てるのは難しい。 
それを素人の真希が、目視できる距離とはいえ、掠ることができた。
 炎の魔術師は、その傷跡を見るため、俯いたが、すぐに、視線を真希に戻し、邪悪な炎を体の周囲に漂わせた。
 森を侵食していた煙がドス黒く烟り、真希の鼻腔を執拗に刺激する。まるで人が大勢いる喫煙所の中に放り込まれたようだ……と、服の裾で鼻を覆いながら考えた。 真希は瞬間的に、煙に眼をやられ、固く瞑ってしまった。
 そして、銃を構えていた状態を崩してた。 
「ハッ、死ねェッ」 
短く吐いた言葉と共に、魔術師は、両足の強靭な瞬発力にものをいわせ、真希との間合いを詰めた。 
「わっ、えっ」
 と困惑しながら真希は、避けようとバックステップを試みる――も、悪路に足を取られ、盛大にコケて尻餅をついた。
 その弾みでメガネがどこかに散失した。
 真希は目前をガバッ、と確認した。 
褐色の肌の男――炎の魔術師が獲物を捕食する獣のように、無慈悲に豪腕を伸ばす。 
「――ッ!」
 真希の気管が呼吸を中断した。
 喉輪が苦しい。 
視界が黒く塗りつぶされた。 
「貴様のおもちゃでも殺傷能力があることはわかった……本当だったら鎮圧のために一気に燃やしてここらへんの連中を殺すハズだったが、あのガキの挑発に……まあいい。おかげで、“異邦人”を拝むことができた。」 
そう言いながら、真希の首を物凄い力で締め上げた。このまま絞殺するのだろうか? 暴れようと、右手の銃を振り回して抵抗した。 
だが、左手首を捻り上げられ、あっけなく、地面に叩き落とされた。 
(まずい、私、かっこよく助けに来たのに……本物の馬鹿じゃ) 
ジワジワと、的確に首の骨が軋んで悲鳴をあげている。視界がボヤけて最早、どうなっているのか分からない。ただ煙くさく、周りを燃やす音。それだけだ。 (でも、でも諦めたくない……。)
 無駄な抵抗であることは知っている。
思いっきり両足を、締め付ける腕へ蹴りをいれる。 
「無駄だ。死ね。」 
それを合図のように、一気に力の入り方が変わった。まるで握りつぶすようだ。 真希の両目は生気を失いかけていた。 
――鋭く、ヒューと輝き、空を切る音がした。
 「くそッ」 炎の魔術師は、真希を掴んでいた腕を離して、飛び退いた。 地面にへたりこんだ真希は、ボヤけた視界から、何かが飛んできた方角を伺う。 燃え盛る草むらをかき分けて、無造作にブーツの底を踏み鳴らす。
 ……まさか。 真希は、整わない呼吸を急かし、目を瞬かせながら、確認した。 人靴をならした主は、飛び退いた方にむかい、 
「……あなたが、炎の魔術師ですか?」 




まるで寝起き独特の湿ったような声だ。 
なんで? まさか! と内心の混乱が溢れた。 
……だが、その声は間違いない。


「っ、ゲホ、ゲホ、ェ、エイフラム?」 


首をさすりながら、真希は尋ねた。
 すると、 
「……っ、ふん」 
ゆっくりと歩調を進め、先ほどの投げナイフを、突き刺さった木の幹から引っこ抜いた。 
そして鼻で馬鹿にしながら、真希に近づき、何かを差し出していた。  バサバサの前髪を真希は直して、 
「あっ、どうも……」 
と、それは散失したメガネだった。メガネをかけ直し、立ち上がり、改めてエイフラムをみる。


少し高い背丈、茶色い髪の毛。なで肩の猫背……多分戦争が始まる前に知っている、いつもと変わらない彼だった。 
「ふっ」 
真希は吹き出した。
 そう、いつもと「変わら」なかった。あの門を守備していた時の生気の抜けた様子ではなかった。 
その双眸は、あの、人を小馬鹿にしていた眠たげな瞳と、なにか固い決意を瞳に宿していた。
 エイフラムは魔術師と対峙し、すぐに、剣を鞘からはしらせ、鋭利な光を放つ――抜刀の速度が人目には認識できない程であった……そして背中には、真希を擁するようにして。 
「ありがと。」 
真希は本心から言葉を紡ぐ。
少し高い背丈、茶色い髪の毛。なで肩の猫背……多分戦争が始まる前に知っている、いつもと変わらない彼だった。
 「ふっ」 
真希は吹き出した。 そう、いつもと「変わら」なかった。あの門を守備していた時の生気の抜けた様子ではなかった。 
その双眸は、あの、人を小馬鹿にしていた眠たげな瞳と、なにか固い決意を瞳に宿していた。 
エイフラムは魔術師と対峙し、すぐに、剣を鞘からはしらせ、鋭利な光を放つ――抜刀の速度が人目には認識できない程であった……そして背中には、真希を擁するようにして。 
「ありがと。」 
真希は本心から言葉を紡ぐ。
その一言に、さっ、とエイフラムは首をまわして、馬鹿にした調子の瞳で応える。

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