異世界にいったったwwwww

あれ

45

 作戦が延期され数日後、日本時間午前六時半。 
黒馬の砦側に、猛烈な遠征軍の攻勢が仕掛けられた。 
まず、前日までの失敗を含め、力技でなく、強弓などを中心とした遠距離武器での攻撃を図る。 
油玉のすぐに準備できる四千個を、北の門を中心に投げつける。 
「――わぁッ! なんだ、この油。」
 黒馬の防戦側は、厚い岩盤によって守られていると書いたが、それと同時に逃げ道の無さもある。 
遠征軍の現場指揮官は「うてーッ」と号令をかけた。 
清澄な朝日に点火されたように、燃え盛る焔の弓が襲いかかる。 
岩盤で大概は弾かれたが、しかし数が桁違いに多く、束の嚆矢が黒馬の屈強な男達を地にひれ伏させた。
 (まずい!) 
グリアは、思わず叫びたくなった。だが、大将の重責を思い起こせばこそ、ギリギリで踏みとどまる。 
これでは、火槍はおろか、体をかがめ、矢を避けるので精一杯である。ジワジワとこちらの数を減らす作戦にでたのだろう。 
「ギャーーーッ!」
 断末魔と共に、火だるまになって、壁の下へまっ逆さへ落ちた黒馬の男がいた。 
グリアはつぶさに一部始終をみていた。 
地面に叩きつけられた男は、体を炎に包まれたままだった。しかし、下で待ち構えた遠征軍の兵隊たちが、その死体を槍で突き刺す。死を確認するためである。 (くそッ! くそッ!) 
最後まで苦しんで死んだ仲間が、死して槍の穂先で貫かれている。だのに、なにもできない自分に、悔やむより、他ない。 
「畜生、畜生畜生畜生!」 
モグラが、グロスフスMG42機関銃を乱射した。壮一に指南されたとおり、銃器を操作し、連射する。 
重力に吸い込まれるように、弾丸が、遥か真下の敵兵をなぎ倒してゆく。 「なッ、なんだ!」 
始め、遠征軍の前線兵は豆つぶだと侮っていたが、次第にその威力を前に、血相を変えた。 ぴゅ、ぴゅ、と風を切り、鎧の兵隊を捕殺してゆく。 鮮血が豊かな土に流れ出す。 
「ぐあっ」 
モグラは両腕に二三本の弓矢をうけていた。 
痛みを堪えて、連射する。 
「ぐあああああぁぁぁぁぁ!」 
薬莢が転がる。 
油と炎にまみれた黒馬の男達。耳をつんざく悲鳴、悲鳴、また悲鳴。 
奔流のように、岩盤の四角から矢尻が届く。 
グリアは、足下に置いたグロスフスMG42機関銃をおもむろに持ち上げ狩人の目で、引き金をひいた。 
パラパラパラ、と銃口が光る。 
壁に三四発当たる。軌道を修正しながら、大地に群がる敵に銃弾を与えた。 鮮やかに黄金の縮れ毛が、なびく。 
「このクソども! ははははは!」 
油玉の油が、靴の裏を滑らせた。 
反動で、尻餅をつくグリア。 
「おいおい、グリアよ。そんなもんでおしまいか?」 
気味の悪い笑顔で、モグラが挑発した。 
「馬鹿いえ、まだだ! まだ足らん。地獄の鉄槌をくれてやっても足らんぞ!」 北の門からは、この午前中だけで、約二千発近くの銃弾が降り注いだ。 
暫く、火攻めを行っていた遠征軍が、この猛烈な光に、たじろぐ。 遠目から見ていた総督が、床机で片足をぶらぶらとやり、舌打ちした。 
とはいえ、黒馬側の被害は甚大だった。 主戦場の北の門では、死傷者約一〇〇名を超えて、三分の一が被害を受けたことになる。 
東の門は九〇名。 南の門は二〇名と、唯一少ない。 
だが、北の門と共に、被害が甚大なのが、西の門である。理由の一つに、主な首脳部の連中がいないということ、さらに、搦手の意外な攻勢によるものであった。 
死傷者約一〇九名。これは、二分の一以上で、この立て直しが急速に図られなければならなくなった。 
早くも疲労と精神的重圧がこの砦の雰囲気を覆いはじめた。 
殆どのものが傷つき、あるいは誰かを失い、血みどろになる。 
だが、まだはじまったばかりだ。
全滅する覚悟でなければいけない。






 エイフラムは、腰の剣の柄を握る。 
彼は密かに切り込む機会を伺っていた。だが、今は指揮官であるため、まだ自制が働いている。



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