異世界にいったったwwwww
44
黒馬の砦、この門を防護できるように、岩盤を削り、横に長い塹壕のような形をしている。高さ1.5メートル、横幅、2メートル、長さ、2キロに伸びている。その為、戦争で汚れた男達の皮脂の蒸れた匂い、息遣いがすぐそばできかれた。
さらに、窓のように四角形にくり抜かれ、この部分で攻撃を行っている。
だが、この防御に隙のない拠点も、弱点があった。
それは、簡単に逃れられないのである。
夜通し力押しを行い、それが無駄だと実感した現場は、司令部に掛け合い、翌日の作戦に一つの提案をした。
それは、油玉である。 油玉とは、球形の瓶に油を入れ、縄で結び、投げつける。そこに火のついた弓で火攻めにするものであった。
盗賊討伐の折、ゲリラ戦で天然の塹壕に立てこもられた頃に発案された戦術であった。
そんなことはしれない黒馬側は、ようやく相手の気色を伺い、休息にはいった。 「しかし、どうにかなるもんだな。二万だ。え? そんな大軍を向こうによくやっているよな。」
歯の抜けた間抜けそうな顔の男がいう。
「そうだな。幸い、まだ壮一からもらったこのキカンジュウを使わずにすんだ。」
グリアは、狭い岩盤の四角い窓から遥か下をみた。
まるで闇の海のようで、不気味と静かである。おそらく敵の死屍累々が折り重なっているのだろうか。
夜の冷気が入り込み、蒸し暑さが、和らぐ。
よし、とグリアは砦の一番高い物見櫓を確認した。 なにも異常は感じられなかった。
(どれほど続くのか……と皆、まだ思っていないのか。まだ優勢だからだ。) 漠然と、前線で戦うより、遠い未来に思いを馳せるだけで、陰鬱の感が絶えない。
その頃、物見櫓の根元、砦中央でもようやく煙の数が減り始めた。
テントの灯も弱まる。夜の番と交代し、人々が入れ替わりで片付けなどを始めていた。
休憩のテントも、薄いランプの灯が一つ揺らめいていた。他のベッドはまだ幸運にもほとんど使用されていない。
出入り口の布を抜ける影があった。
ぱちり、と少女が眼をさまし、 「あっ、真希さんお疲れ様です。」
ナターシャは、寝ていた簡易ベッドから俄に起き上がった。
「ふーっ、お疲れ様。あ、いいって、寝ててよ。」
動こうとするナターシャを制しつつ、背中の荷物をおろす。
「あの、なにかすぐれない顔ですが、どうされたのですか?」
「え、うん……あのーさ、なんだろ。」
口ごもる真希。
「補給がうまくできなかったとかでしょうか?」
急いで首を振り否定する真希。
(なんだろう?)
まるで捨てられた犬のように、しょんぼりとしている。前髪とメガネの奥に隠れた瞳は、おそらく動揺か、不安を孕んでいるのだろうか。
「実はね」
と、真希は、ナターシャの横になっていたベッドの稜に置かれた椅子に腰掛け、語る。
「私、そのエイフラムに久しぶりに言葉を交わしたんだ。」
無言で頷くナターシャ。 「だけど、さ。理由もなく、ね、アイツの肩掴んだんだ。多分話したい事も、大事な用もないのに。ううん、違う。何か、変だった。戦争だからなんだろうけど、でも他の人たちとちがう……。」
そこで、一人回想する真希。 あの、別れ際、一目だけこちらをみた雰囲気。 まるで空っぽの人間の形をした「ナニカ」だった。あの、人を馬鹿にしたり、眠そうな顔をぶら下げたりした、あのエイフラムではなかった。
「って、あれ? 私馬鹿だな。本当だったらお父さん心配しないといけないのに……。でも、あの人いつも危険な場所でも、全然平気で帰ってくるからさ、心配できないんだよね。今回も銃を持ち出してるし。」
「あの、真希さ……」
「そうだ、ナターシャさ、妹さんはどこ?」
話をすり替えられたことに、違和感をもちつつも、
「アーノはおかみさんに頼んでいるので。平気ですよ。」
「ふーん、そっか。ゴメンね。こんな夜に。」
「いえ、いんですよ。嬉しいです、わたし。」
含羞むナターシャ、それに釣られて笑う真希。まるで戦争でもないような静寂だ。
「私たちのご飯もとっておいたから食べない?」
「本当ですか?」
背負っていた荷物の中から、紙ナプキン
(日本国支給品)
に包まれた湯種とスライスされた獣肉を挟んだもの。
それを、はい、と手渡すと、今度は腰に巻きつけたポシェットからカラシとケチャップを二つ折りして注ぐタイプのものを付属させていた。
「あの、真希さん。これ、なんですか?」
「えーっと、私が頼んだやつで、コンビニとかでレジの傍にある食べ物かうとついてくるヤツなんだ。」
「……?」
「もういいよー。それより、使い方教えるから、かけてみて。多分、湯種は味気ないから、これ使うと美味しいと思う。」
真希は、パキッ、とプラスチックの小さい容器を二つ折りにして、黄色いカラシとケチャップを湯種と肉に注ぐ。
ナターシャもそれを真似して動作をした。
「あ、そうそう。はじめてなのに上手い上手い。」
「すごい! すごいですね、これ。面白いです」
「……うん、気に入ってくれたならよかった。」
思わぬはしゃぎぶりに、真希は思わずたじろいだ。
いただきます、と一言、真希は豪快にかぶりつく。よく考えれば、今日はあまり食べていなかった。朝から今まで自分も動きっぱなしだったことを思い至る。 ナターシャは、黄色と赤のラインをひかれた湯種と肉をジロジロ警戒していた。 「大丈夫だって。ほら」
せかされて、思い切り口に入れて、咀嚼した。
「……んッ!」
カラシの辛さに、ナターシャは眼をむきだした。ジタバタと手足を暴れて身を悶えさせている。
「あっはははは! そんなにっ? からいーっ? あははっはあはは!」 「んーっ! んーっ!」
口を抑えながら、必死で真希に抗議している。
それを横目に涙を浮かべながら、また笑う。
それが慣れると、やみつきになったのか、ナターシャは文句を言いながら、完食した。 「ね? 美味しかったでしょ?」
「……ええ、でもほんとにひどいですよ」
「ごめん、ごめん」
でも、と真希は真剣な顔になった。
「でも、ずっとこのままではいられないんだよね。きっと……」
「……」
「だけど、なんだかんだ、きっと大丈夫なんだろうな。ほら、エイフラムにグリアさんもいるし。」
えっ、とナターシャが、
「グリアさんより、エイフラムさんが先にきたのって、なにかあるんですか?」 「え? ん……いや、いやいやいや、たまたま。偶然だよ。」
目を細めてナターシャは、
「ホントですか?」
「なにさ、その目は。ほんとだよ。」
出入り口の布がまた、はらり、と持ち上がった。
「あれ? 真希さんにナターシャじゃないか!」
ハゲ頭のパプキンが、ニコニコと入ってきた。
「あれ? パプキンって、ここなの?」
真希たちの傍まで肩を回しながらきたパプキンは、
「そうですよ、まだ一四なんで、ここでお手伝いなんです。」
その表情には、悔しさが混じっていた。
「そっか。あ、パプキンも、ご飯? だったらこれどうぞ」
あ、どうも、と礼を述べつつ、ナターシャの横のベッドに座り、湯種と肉のはいった葉っぱの包を出した。
ナターシャは、クスクスと忍び笑いをしていた。
真希は、パプキンとナターシャを遠目にみながら、いつまでも楽しい生活が続けばいいのに……と、願わずにはいられなかった。
さらに、窓のように四角形にくり抜かれ、この部分で攻撃を行っている。
だが、この防御に隙のない拠点も、弱点があった。
それは、簡単に逃れられないのである。
夜通し力押しを行い、それが無駄だと実感した現場は、司令部に掛け合い、翌日の作戦に一つの提案をした。
それは、油玉である。 油玉とは、球形の瓶に油を入れ、縄で結び、投げつける。そこに火のついた弓で火攻めにするものであった。
盗賊討伐の折、ゲリラ戦で天然の塹壕に立てこもられた頃に発案された戦術であった。
そんなことはしれない黒馬側は、ようやく相手の気色を伺い、休息にはいった。 「しかし、どうにかなるもんだな。二万だ。え? そんな大軍を向こうによくやっているよな。」
歯の抜けた間抜けそうな顔の男がいう。
「そうだな。幸い、まだ壮一からもらったこのキカンジュウを使わずにすんだ。」
グリアは、狭い岩盤の四角い窓から遥か下をみた。
まるで闇の海のようで、不気味と静かである。おそらく敵の死屍累々が折り重なっているのだろうか。
夜の冷気が入り込み、蒸し暑さが、和らぐ。
よし、とグリアは砦の一番高い物見櫓を確認した。 なにも異常は感じられなかった。
(どれほど続くのか……と皆、まだ思っていないのか。まだ優勢だからだ。) 漠然と、前線で戦うより、遠い未来に思いを馳せるだけで、陰鬱の感が絶えない。
その頃、物見櫓の根元、砦中央でもようやく煙の数が減り始めた。
テントの灯も弱まる。夜の番と交代し、人々が入れ替わりで片付けなどを始めていた。
休憩のテントも、薄いランプの灯が一つ揺らめいていた。他のベッドはまだ幸運にもほとんど使用されていない。
出入り口の布を抜ける影があった。
ぱちり、と少女が眼をさまし、 「あっ、真希さんお疲れ様です。」
ナターシャは、寝ていた簡易ベッドから俄に起き上がった。
「ふーっ、お疲れ様。あ、いいって、寝ててよ。」
動こうとするナターシャを制しつつ、背中の荷物をおろす。
「あの、なにかすぐれない顔ですが、どうされたのですか?」
「え、うん……あのーさ、なんだろ。」
口ごもる真希。
「補給がうまくできなかったとかでしょうか?」
急いで首を振り否定する真希。
(なんだろう?)
まるで捨てられた犬のように、しょんぼりとしている。前髪とメガネの奥に隠れた瞳は、おそらく動揺か、不安を孕んでいるのだろうか。
「実はね」
と、真希は、ナターシャの横になっていたベッドの稜に置かれた椅子に腰掛け、語る。
「私、そのエイフラムに久しぶりに言葉を交わしたんだ。」
無言で頷くナターシャ。 「だけど、さ。理由もなく、ね、アイツの肩掴んだんだ。多分話したい事も、大事な用もないのに。ううん、違う。何か、変だった。戦争だからなんだろうけど、でも他の人たちとちがう……。」
そこで、一人回想する真希。 あの、別れ際、一目だけこちらをみた雰囲気。 まるで空っぽの人間の形をした「ナニカ」だった。あの、人を馬鹿にしたり、眠そうな顔をぶら下げたりした、あのエイフラムではなかった。
「って、あれ? 私馬鹿だな。本当だったらお父さん心配しないといけないのに……。でも、あの人いつも危険な場所でも、全然平気で帰ってくるからさ、心配できないんだよね。今回も銃を持ち出してるし。」
「あの、真希さ……」
「そうだ、ナターシャさ、妹さんはどこ?」
話をすり替えられたことに、違和感をもちつつも、
「アーノはおかみさんに頼んでいるので。平気ですよ。」
「ふーん、そっか。ゴメンね。こんな夜に。」
「いえ、いんですよ。嬉しいです、わたし。」
含羞むナターシャ、それに釣られて笑う真希。まるで戦争でもないような静寂だ。
「私たちのご飯もとっておいたから食べない?」
「本当ですか?」
背負っていた荷物の中から、紙ナプキン
(日本国支給品)
に包まれた湯種とスライスされた獣肉を挟んだもの。
それを、はい、と手渡すと、今度は腰に巻きつけたポシェットからカラシとケチャップを二つ折りして注ぐタイプのものを付属させていた。
「あの、真希さん。これ、なんですか?」
「えーっと、私が頼んだやつで、コンビニとかでレジの傍にある食べ物かうとついてくるヤツなんだ。」
「……?」
「もういいよー。それより、使い方教えるから、かけてみて。多分、湯種は味気ないから、これ使うと美味しいと思う。」
真希は、パキッ、とプラスチックの小さい容器を二つ折りにして、黄色いカラシとケチャップを湯種と肉に注ぐ。
ナターシャもそれを真似して動作をした。
「あ、そうそう。はじめてなのに上手い上手い。」
「すごい! すごいですね、これ。面白いです」
「……うん、気に入ってくれたならよかった。」
思わぬはしゃぎぶりに、真希は思わずたじろいだ。
いただきます、と一言、真希は豪快にかぶりつく。よく考えれば、今日はあまり食べていなかった。朝から今まで自分も動きっぱなしだったことを思い至る。 ナターシャは、黄色と赤のラインをひかれた湯種と肉をジロジロ警戒していた。 「大丈夫だって。ほら」
せかされて、思い切り口に入れて、咀嚼した。
「……んッ!」
カラシの辛さに、ナターシャは眼をむきだした。ジタバタと手足を暴れて身を悶えさせている。
「あっはははは! そんなにっ? からいーっ? あははっはあはは!」 「んーっ! んーっ!」
口を抑えながら、必死で真希に抗議している。
それを横目に涙を浮かべながら、また笑う。
それが慣れると、やみつきになったのか、ナターシャは文句を言いながら、完食した。 「ね? 美味しかったでしょ?」
「……ええ、でもほんとにひどいですよ」
「ごめん、ごめん」
でも、と真希は真剣な顔になった。
「でも、ずっとこのままではいられないんだよね。きっと……」
「……」
「だけど、なんだかんだ、きっと大丈夫なんだろうな。ほら、エイフラムにグリアさんもいるし。」
えっ、とナターシャが、
「グリアさんより、エイフラムさんが先にきたのって、なにかあるんですか?」 「え? ん……いや、いやいやいや、たまたま。偶然だよ。」
目を細めてナターシャは、
「ホントですか?」
「なにさ、その目は。ほんとだよ。」
出入り口の布がまた、はらり、と持ち上がった。
「あれ? 真希さんにナターシャじゃないか!」
ハゲ頭のパプキンが、ニコニコと入ってきた。
「あれ? パプキンって、ここなの?」
真希たちの傍まで肩を回しながらきたパプキンは、
「そうですよ、まだ一四なんで、ここでお手伝いなんです。」
その表情には、悔しさが混じっていた。
「そっか。あ、パプキンも、ご飯? だったらこれどうぞ」
あ、どうも、と礼を述べつつ、ナターシャの横のベッドに座り、湯種と肉のはいった葉っぱの包を出した。
ナターシャは、クスクスと忍び笑いをしていた。
真希は、パプキンとナターシャを遠目にみながら、いつまでも楽しい生活が続けばいいのに……と、願わずにはいられなかった。
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