異世界にいったったwwwww

あれ

23

(それが、噂の《森の盗賊団》のアジトか!)


 壮一は、唖然として馬脚をすすませた。 


もう数刻も行進を続け、ようやく夜に到着した。
「エイフラムさん。まさか、小規模盗賊かと思えば、こんな大規模な人たちだとは! 知ってましたか?」
「……まさか。」
 二人は肩を竦めてアジトの柵を超えた。


 この《森の盗賊団》のアジトは、一見ただの小城程度だが、その実情は、山をくり抜いたつくりをしており、地形を利用した実戦的なアジトであった。


 驚くべきことに、前領主の持ち城まで改造して、豪勢な外見を消して実戦重視の城に生まれ変わった。 
堅固な防御拠点が二つもある。
 なかなか、近隣の連中も手が出せない。
 モグラの先導でいくつもの野営の天幕を抜け、本営についた。 
森の盗賊の本営には、一際異彩を放つ男がいる。 
口と顎の髭を異常に伸ばし、眉をそり落とし、宝石のついたマントを羽織る男。頭には、シルクハットのような形の帽子。 
彼の名はベムという。 齢五〇後半に見える男の外見も、おかしな化粧でピエロのようだ。 
「やあ、ベム。会いたかった。久しぶりだ。どうだい調子は?」
 モグラは、小さく、長くのびた鼻を掻きながら挨拶する。 目をより大きく見開いたベムは、 
「わが親友よ。どうだい。騎士にはなれたかい?」
 重々しい声で皮肉をいう。 
「何、心配するな。この黒馬の民のおかげで、見事騎士に復帰できた!」
 ハッ、と鼻で小馬鹿にしつつも、エイフラムと壮一、そしてモグラを椅子に座るように指で合図した。


 皆頷き、各々席につく。それを見計らいつつ、ベム自ら蒲萄酒を杯に注ぎ、人数分を置く。 
「ま、よろしい。では、まず、この日出会えたことに、神へ感謝! 乾杯」
 波波注がれた杯を高く掲げる。 三人はそれを追うように真似る。
 一気に酒を空にすると、和気あいあいとした談笑が始まった。
(……これからが本番だ。)
 腹に力を込め、肝を据える。 
エイフラム、ただ一人を除いては……。 
エイフラムが席をたつと同時に、 
「……話をよろしいいですか?」 
と、ベムに真剣な眼差しを向ける。 
それを待っていたように、厚い化粧に固まった顎を手のひらで撫で始める。 
「実は、我々に協力していただきた……」
 「わかった、協力しよう。どうせなら兵を五千を貸すこともしよう。丁度新しい仲間が入ったからそいつらにもいい経験になる。」
 言葉を遮り、かつ、好条件を与えた。
 エイフラムは深々と頭を下げたが、しかし疑念が胃の底から湧いて、喉元まできた。 
「あの、なぜそのような好条件を我々に?」 
堪えきれず、吐き出した。 
「ウム。まあこちらもいくつか条件を出す。よいか?」 
「ええ、無論。」
 待っていたとばかりに、本営の天幕裏に控えていた文官を呼ぶ。その男は幕を返して入る。 
もとはどこかの官僚だったのだろう。几帳面な雰囲気である。
 「はい。では棟梁殿、恐れながら発言させていただきます。」 
「よい、はよせい。」
 習慣のように前置きをした。 
文官の彼が咳払いをすると、 
「では一つ、我々は黒馬の砦の援護はします。しかし、そちらの指示は受けません。つまり、独立友軍のようなものです。そして、もう一つ、我々森の盗賊が勝ち取った戦利品はこちらのものとすること。よいですか? 」
 拍子抜けしたエイフラムは、思わず何度も頷く。 
「では、こちらに協定書へ調印を。」 
差し出された羊紙と、四隅に轟轟と唸る篝火。 
エイフラムはそそくさとサインを済ませる。 
(これはもしかしたら、黒馬の砦を守りきることができるかも知れない。)
 希望が彼の胸に兆した。 
「ああ、どうせなら一万規模で動員しよう。そのほうがよかろう?」
 葡萄酒を噛むようにして味わうベムが付け加えた。 
「ぜひお願いします。」
 ベムが手を差し出す。 
エイフラムと固い握手をかわした。 
陪席のモグラも喜び雄叫びをあげる。 
しかし、一座でひとり、壮一は訝しい眉でトランシーバーで通信しつつも、ベム達をみていた。
 (おかしい、こんなことあるはずない。こんなうまい話あるはずない。) 
とかく、森の盗賊との同盟は成功した。
 《穀物庫》の太守から宣戦布告の通知がくるのは遅くても三日以内だろうと、ベム、エイフラムなどが討議のうえで結論に至った。 
三人の帰り際にベムは、 
「よろしい。では二日以内にまず四千の兵をそちらの砦付近の駐留させる。あとの増援で六千を送る。よいか?」 
と訊いた。
 強く同意をエイフラムが示す。 
そして、黒馬の一行が地平の彼方に消える。 見送った後、ベムは残りの葡萄酒をまるごと飲み干す。 その口角は不気味に歪んでいた。

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