犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと卒業(3)

ルイを拉致した二人組の誘拐犯は
早々に捕らえられた。


だがいまだ犬女ちゃんは行方不明のまま。


純心は焦りの色を隠せなかった。


これではまるであの夏の再来ではないか。


夏希、お嬢様、生徒会長、
四人で犬女ちゃんを探し続けた
忘れたくても、忘れられない、あの夏。


もう犬女ちゃんに
二度と会えなくなるのではないか、
あの夏と同じ気持ちに襲われ、
純心は胸が焦がれて、強い痛みを覚える。




-




犬女ちゃんを探す
という状況は確かに同じだった。


それでもあの夏とはまるで違っていた。




純心達は孤独ではなかった。




図書委員や愛ちゃん、
ちびっ子四姉妹が
増えたばかりではない。


犬女ちゃんが
行方不明だという話が伝わると
クラスメイトのみんなが
一緒に犬女ちゃんを探してくれた。


メガネ、ドルオタ、ジャガイモの
三馬鹿トリオが。


黒ギャル、白ギャル、スケ番お京の
あばすれトリオが。


文化祭でメイド喫茶を一緒にやった
クラスメイト全員が。




学校の生徒全員も一緒になって
犬女ちゃんを探してくれた。
今日卒業式を終えたはずの卒業生までも。


小夜子先生、日向先生、剛田先生を
はじめとする先生達全員が。


生徒会メンバーはルイの話から
状況をシミレーションして
犬女ちゃんがいそうな場所を割り出し、
一緒になって探し回ってくれている。


体育会運動部は
体力が必要な坂道が多い地域を
走り回って探してくれた。


陸上部、サッカー部、
バレー部、バスケ部など
犬女ちゃんが部活体験で
お世話になった部のみんなが。
もちろん野球部と
そのエースも一緒に。


交換留学生の三人組も、
いじめられっ子もいじめっ子も。




学校だけにとどまらず、
地元のや町内会の人達も
犬女ちゃんを探すのに力を貸してくれた。


喫茶店のマスターや
商店街の店主やおばちゃん。


幼稚園児とそのお母さんまでもが
近辺を探してくれたり、
SNSで拡散してくれたりと、
犬女ちゃんの無事を祈ってくれている。




お嬢様のお父様は
財閥のグループ会社の人員を
増援として派遣して来てくれる。


生徒会長のおじい様である理事長も
捜索のための人員を送り込んで来た。




犬女ちゃんのことを
心配してくれる人達は、
日本の全国にもいる。


純心と犬女ちゃんが行脚して回った
『大学関係者』の各地の人々は
犬女の習性からいそうな場所の
アドバイスをしてくれた。


PVを見ていた『カオル』ファンもまた
世界各地から、
犬女ちゃんの安否を気づかっている。




あの夏からこれまで
犬女ちゃんは大勢の人達と出会い、
つながりをつくってきた、
これはその証でもあった。




もう犬女ちゃんと純心達は
決して孤独などではなかった。




-




みんなが一緒になって
犬女ちゃんを探してくれる、
そんなみんなの協力に
純心はもちろん深く感謝していたが、
犬女ちゃんは
自分が見つけてあげなくてはならない
という気持ちも強く持っていた。


これまで、
いつも犬女ちゃんは
自分を助け、
自分を救って来てくれた。


あの夏だって
犬女ちゃんは自分を見つけてくれた。


あのスキー教室のときだって、
犬女ちゃんが自分を見つけて救出してくれた。


今度は自分が
犬女ちゃんを見つけてあげる番だ。


自分が犬女ちゃんを見つけて、
助けて、救ってあげる番なのだ、
純心はそう強く思っていた。




-




崖下に横たわったままずっと
身動きが取れない犬女ちゃん。


頭を打って意識が朦朧としているせいか
それともちょっとした神様のいたずらなのか、
まるで人間のような思考で、
ずっと純心のことを想っていた。




あたしはこのまま
死んでしまうのかな……




大好きだった
おばあちゃんが
死んでしまったときのように……。




あたしが死んだら
純心が泣いてしまう……




きっとずっとずっと
純心は泣いている


いつまでもずっと
純心は泣き続けている




ダメ、純心、泣かないで


あたしがいなくなっても、泣かないで


あたしがいなくなっても、
毎日を
明るく
元気に
一生懸命生きて……


お願い、泣かないで……


泣かないで、純心……




純心……




純心……




犬女ちゃんは
自分が死ぬかもしれないというのに
純心のことばかり考えていた。


純心のことばかり。
純心のことだけを。


純心のことを
想い過ぎてしまったのだろうか、
犬女ちゃんの目の前に
純心の幻が見えた。


-


純心は幻ではなかった。


今までずっと犬女ちゃんに
見つけてもらったばかりだった純心が
ようやく犬女ちゃんを
見つけてあげることが出来た。


今までずっと犬女ちゃんに
助けてもらって、救ってもらって
ばかりだった純心が、
ようやく犬女ちゃんを
助けて、救ってあげることが出来るのだ。




純心は犬女ちゃんの身体を
そっと優しく抱き上げる。
犬女ちゃんの体が痛くないように。


犬女ちゃんは純心に抱かれ、
純心のぬくもりに包まれると
安心してしまったのか、
そのまま気を失ってしまった。











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