犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと卒業(2)

二人組誘拐犯に拉致され
連れ去られてしまったルイ。


誘拐犯は山奥にある
現在は使われていない
木材置場の倉庫を隠れ家とし
一時身を寄せる。


修羅の家で生まれ育って来たルイは
これも親の因果が子に報い
ということだろうと悲嘆し
すべてを諦めてしまっていた。


しかしルイを追跡して来た
犬女ちゃんは決して諦めてはいない。
誘拐犯に気づかれぬように気配を消して
ルイを救い出す機をうかがっている。


これも日向ひなた先生との
特訓の成果なのだろうか、
日向先生は犬女ちゃんに
一体何をさせたいのだろうか、
もしかして特殊部隊にでも
入隊させたいのではないだろうか、
これはこれで逆に一抹の不安は残る。




犬女ちゃんは倉庫の裏手
ちょうど壊れて空いている
壁穴から中に入り忍び込むと、
音を立てずに死角を移動し
息をひそめて再び様子をうかがう。


誘拐犯が脅迫電話をかけて、
他への意識が散漫になっているときを
チャンスと見て、死角から
誘拐犯にとびかかる犬女ちゃん。


まずルイに銃口を向けている
男にとびついて
銃を持つ手に思いっきり噛みつく。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


突然の出現、乱入に慌てふためく誘拐犯。


『!』


まさか犬女ちゃんが助けに来てくれるとは
思っていなかったルイも驚きを隠せない。


男が思わず銃を落とすと、
ルイが足でその銃を遠くへ蹴とばす。
修羅の家の子だけあって、
ルイもこういうことには
多少場馴れしている。


犬女ちゃんは続けざま
交互に二人の男に
体当たりを食らわせ
大の男をはじき飛ばす。


普段は天然ボケボケで
ケンカなどしたことがない犬女ちゃんだが
ただでさえ運動神経が抜群であるのに
ビーストモードになっている
犬女ちゃんは無茶苦茶強い。


銃が手元にない今、
誘拐犯からすれば素手で
野生の狼と戦っているようなものである。






「ワン!」
「ワン!ワン!ワン!」
「ワン!」


犬女ちゃんはルイに向かって吠える。
当然逃げろと言っているのだ。


ルイは一瞬躊躇するが
犬女ちゃんの言う通り
そのままその場を走って逃げ出す。
足が拘束されていないのは
ルイにとって幸運だった。
というかこの誘拐犯、
案外シビアではない、
銃を持ってはいるが
隙も多いし、思いつきで
犯行に及んだ口であろうか。


これでルイが無事に逃げ切れるまで
時間稼ぎを出来れば犬女ちゃんの
ミッションもコンプリートなのだが。


-


犬女ちゃんを残して
ひたすら走って逃げるルイ。
手を縛られているため
走りずらく何度も転んでは立ち上がり、
口を塞がれているため苦しかったが、
それでも犬女ちゃんが
せっかくつくってくれた逃亡の機会を
無駄にするわけにはいかなかった。




ルイは悪辣非道あくらつひどうなことこそしないが、
半分闇の側に堕ちかかっている人間であり、
そのことは本人も十分に自覚している。


ただそれは自らに流れる一族の血、
裏稼業を生業なりわいとしている
家のせいなので仕方ないこと、
今までずっとそう思って来た。


そして純心のことを
暴力が原因で道を踏み外し、
闇の側に堕ちて来る人間、
自ら身を滅ぼす人間、
自分と同種だと思っていたルイ。


しかしそれをすべて
犬女ちゃんが邪魔して阻んでしまう。


そんな犬女ちゃんを
ルイは少し小憎らしく思っていたし、
だからちょっと意地悪やいたずらを
してやろうという気持ちにもなった。


でも本当はそれは
少し羨ましかったのかもしれない。
最近そう気づきはじめてもいた。


スキー教室で
遭難した純心を救ったとき、
犬女ちゃんのビーストモード、
その姿にルイもまた
激しく魂を揺さぶられた人間のひとり。


もし自分にも
犬女ちゃんのような存在が
そばにいてくれたら、
自分もこうはならなかったのかも、
心のどこかでそんな風に
思っていたのかもしれない。




まさかその犬女ちゃんが
自分を助けにここまで来てくれるとは
思ってもいなかった。


ルイは安全な場所まで
逃げ切れるまでひたすら走り続ける。


-


誘拐犯は再び銃を手にしていた。
ルイが逃げるための時間稼ぎを
犬女ちゃんがしている間に、
男の一人が落ちていた銃を拾いあげたのだ。


こういうとき道具を手で握れない
犬女ちゃんは若干不利になる。
犬女ちゃんが握ることが出来たなら
男より早く銃を拾いあげていただろう。


「クソっ!この馬鹿犬女め!
お前のせいで計画が台無しじゃないか!」


銃を手にした男はそう言いながら
犬女ちゃん目がけて乱射する。


ルイが逃げた方向と真逆の方へ逃げ、
誘拐犯を引きつけようとする犬女ちゃん。


走り回って銃弾を避けていたが、
銃弾が犬女ちゃんの足をかすめ
足からスッと血が一筋流れる。


それまで上手く誘拐犯を
誘導したいた犬女ちゃんだったが、
その先は行き止まり、崖になっており
逆に追い詰められ、
逃げ場を失ったカタチになってしまった。


崖の端に追い詰められると
その一端が崩れ、
普段であればなんなく他の場所に
飛び移る犬女ちゃんだが、
足を負傷していたために
そのまま態勢を崩し崖下へと落ちてしまう。


「兄貴、どうしますか?」


下っ端と思われる男が
犬女ちゃんが落ちた崖の下を覗き込む。


「あの娘に
逃げられたんじゃ、計画は失敗だ、
俺達も早いとずらかるぞ、捕まっちまう」


銃を持った男がそう言うと、
誘拐犯二人組みは車の方へと戻って行った。


-


無事に山を下りて、
麓の民家に逃げ込むことが出来たルイ。


警察に保護され、
事情聴取されているところに
学校の先生と純心達が駆けつける。


当然、純心達もルイと犬女ちゃんを
ずっと探して続けていた。


それから、
ルイは起こった出来事を
素直にみなに話した。
嘘をつくわけでもなく
意地悪をすることもなく
ありのまま素直に。


「お願い、
犬女ちゃんを助けてあげて」


ここ何か月にも及ぶ
自分の行動とは裏腹に、
ルイの口をついて出たその発言は
犬女ちゃんのピュアハートに対する
完全敗北宣言にも等しい。


しかし、なぜかルイの心は晴ればれとして
清々しいような気分だった。


-


崖から落ちた犬女ちゃん。
落下の際に、絶壁から
飛び出している木の枝を
クッション代わりにして
落ちたため生きてはいた。


だが着地時に頭を打ったため、
しばらく気を失ってしまっている。


意識を取り戻した犬女ちゃん、
脳震とうでも起こしているのか
頭の中がボーっとしている。


起き上がろうとしても体が動かない。
あばらを折ってしまったか、
もしくはヒビでも入ってしまって
いるのかもしれない。


犬女ちゃんは
朦朧とした意識の中、
身動きを取ることも出来ず
崖下にずっと横たわっていた。













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