犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとマラソン大会(2)

スタートの合図とともに
生徒達が一斉に走り出す。


スタートダッシュのよさで
ぶっちぎりに先頭に立ったのは
レースに参加していないはずの
犬女ちゃんだった。


早くも応援係ということを
忘れてしまっているのだろうか。


運動部はそれに続けとばかりに
犬女ちゃんの後に続いて行く、
いやその可愛いお尻を追いかける。


だが犬女ちゃんのペースが早過ぎた。
そもそも犬女ちゃんの
スタートダッシュに
ついて行こうと思うと
短距離走並みのダッシュで
走らなくてはならない。


そして運動部最大の誤算は、
犬女ちゃんの無尽蔵なスタミナを
知らなかったことにある。


つまり犬女ちゃんは
短距離走並の速度で
十キロメートルぐらいは
余裕で走り切ることが可能。
それに追いついて行こうというのだから
作戦の失敗以外に何モノでもない。


しかし運動部は
すでに息切れを起こしながらも
必死で追いすがる。


「しりぃ……ハァハァ」
「しりぃ……ハァハァ」
「……しーりー!」


ハァハァ言いながら
うわ言のように『尻』とうめくその様は
男子高校生のエロパワーがすご過ぎて、
もしかしたら爽やかなのではないかと
勘違いさせるほど清清しい。


-


スタートダッシュでみなを
ダントツでぶっちぎった犬女ちゃんは、
ようやく『みんなの応援係』という
剛田先生の言葉を思い出す。


くるっと反転して
みんなが走って来る横を
逆走して一気にランナー達の
最後尾まで走り抜ける。


最後尾はどこの学校にもいる
『疲れるの嫌だし、
チンタラ走って完走しようぜ』勢、もしくは
『こんなんに本気出すのかっこ悪いぜ』勢で
占められている。


応援係の犬女ちゃんとしては、
こうした手を抜いている勢力は看過出来ない
とでも思ったのだろうか、
最後尾のチンタラ勢を
後ろから吠えて追い掛け回す。
ときにはランナーのお尻を
頭でつついて走れと促す。


「なんだよ、犬女ちゃん」


普段そんなことをしない犬女ちゃんだから、
これは怒っているのだろうと思い、
チンタラ勢力も仕方なく真面目に走ることに。




そこからまた先頭を目指す犬女ちゃん。
途中で、これまたよく見かける、
走りはじめたら脇腹が痛くなって
脇腹を押さえて走る勢を見かけると
横を伴走して「ワン!」と掛け声をかけ
励ましてあげる。


ようやく本来あるべき
応援らしい応援の姿が見られた。


チンタラ勢力とはまた違うが、
途中疲れて歩いてしまう勢に対しても同様に
犬女ちゃんは横に行き激励を送る。
歩いてしまう勢は基本は真面目なので、
犬女ちゃんのエールを受けると
再び走りはじめる。


-


犬女ちゃんが再び先頭に近づくと
バテた体育会を追い抜いて
トップに立っていたのは
吹奏楽部管楽器勢でだった。


吹奏楽部は意外に毎年マラソン大会に強い。
吹奏楽部自体が文化部であることに
異論を唱えるものがいるぐらいに
演奏には体力やら集中力やらが必要となる。


中でも管楽器勢の肺活量は尋常ではない。
管楽器の音を出すだけでも
息が大変だというのに
演奏の間ずっと吹き鳴らしているのだから
その肺活量のすごさがわかるというものだ。




しかし犬女ちゃん、
そんな管楽器勢を物ともせず、
まるでスキップでもしているかのように
楽しげにあっさり
先頭ランナーをぶっちぎって行く。


あまりにも先に行き過ぎてしまったため、
しばらく先で振り返って、
立ち止まり先頭ランナーが追いつくのを
ずっと待っている犬女ちゃん。


『これ、むしろやる気なくすだろ』


管楽器勢の後ろでこれを見ていた純心は
心の中で突っ込まずにはいられない。


運動部が軒並みペースを崩し
バテバテて順位が転落していく中で、
純心はマイペースで走って
いい位置までつけて来ていた。
犬女ちゃんを気にしいては
ペースが乱されまくるということは
今までで純心が一番よく知っている。


-


結局、吹奏楽部も
犬女ちゃんにペースを乱され、
最後は純心が一位でゴールしてしまう。




最後のランナーがゴールするまで
犬女ちゃんは応援をし続けた。
いつもだったら、最後のゴールは
激励と冷やかしが入り混じった
微妙な生温かい拍手で迎えられるのだが、
犬女ちゃんが一生懸命応援しているため
生徒達も冷やかすわけにもいかず、
感動とまではいかなくとも
敢闘を讃える拍手で幕は降りる。




続いて行われた女子によるマラソンも
普段犬女ちゃんと一緒に走り慣れている
夏希が一位でゴールを飾った。


犬女ちゃんの応援は、
下位から中位の人には役に立っていたが、
上位層からすると
ちょっと余計だったかもしれない。




犬女ちゃんの応援は、
純心による妨害工作ではないかと
一部から難癖がつけられたとも言う。


『応援係とか言い出したの剛田先生だし、
エロパワーで勝手に自滅したの運動部だし、
そんなん、知らんがな』











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