犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと大掃除

もうすっかり年の瀬。
今年も残すところ後数日。


クリスマスにイベントをやって、
その後スキー教室に
行っていたのだから
当然の話ではある。


スキー教室で遭難した純心、
頭を強打して脳震とうを起こしたが、
病院での検査結果もたいしたことはなく
すぐに家に帰って来ていた。


犬女ちゃんと暮すようになってから
はじめての年越しでもある。


-


『今年は大掃除とか
したほうがいいんだろうか』


『去年はほとんど
何もしなかったんだよなぁ』


両親が海外で仕事をしており、
高校生なのにの一人暮らしの純心。
今は犬女ちゃんと一緒に暮しているが
去年は本当に一人きりだったため、
大掃除などやろうという気には
まったくならなかった。


だがさすがに二年連続で
家の大掃除をしないというのは
どうなのだろうかと思わなくもない。


しかし高校生が一人で
家を大掃除すると言ったところで
どこまでやるべきなのだろうか。


普段の家の掃除も
たまにしかやらないというのに。


窓や網戸、蛍光灯、
換気扇ぐらいだろうか、
それい以上細かいところは
どうやって掃除したら
いいのかすらよくわからない。


-


一人ではなかなか
踏ん切りがつかないので
犬女ちゃんに呼びかけて
やる気スイッチを入れよう
などと考えてみる。


「よし!
犬女ちゃん、大掃除しよう!」


「わん!」


純心がわざとらしく
大きな声で言うと
犬女ちゃんは
張り切って鳴いて
元気な返事をする。


まずは家の和室を目指す犬女ちゃん。


おばあちゃんと一緒に暮していたとき
年末の大掃除と言えば、
毎年まず真っ先にこれをやるのが
犬女ちゃんの恒例だった。


犬女ちゃんは和室の障子に
張られている障子紙に
手を突っ込んでビリビリ破く。


大掃除のときに張り切って
障子紙を破く子供のように楽しそうに。


様子見を見に来た純心の顔は暗い。


「障子張り替える予定ないんだけど……」


障子に突っ込んだまま
手が止まる犬女ちゃん。


「わん?!」


不思議そうな顔で首を傾げる。


-


純心はあまり掃除が
得意ではない、
というよりは基本的には
物を捨てられない人だ。


どこかに行ったときの入場券や
映画の前売り券の半券などですら
記念にと言って取っておくタイプ。


本人は、過去の記憶が曖昧だから、
記憶の証拠になるようなものが
欲しいからではないかと
分析したりもしていたが
おそらく単に捨てられない人だろう。


現在純心の部屋には
全国を回った際の関連物が
山のように積まれており、
まるでゴミ置き場のような有様。


どこから手をつけていいのかすら
検討もつかない。
そっと部屋の扉を閉めて
見なかったことにして、
隣の部屋を自分の部屋として使いたい、
というぐらいのレベルで汚い。


覚悟を決めて
部屋の片付けをはじめるが、
なかなか思うように進まない。


「あぁ、これ探してたやつだわ……」


片付けるつもりで
手に取った本などを
ついつい読みはじめてしまう。


「いかんいかん、
こんなことをしている場合では」


再び片付けの手を動かしはじめる。


しかしまたしばらくすると。


「あれ?これはあのときのじゃないか」


掃除をしようとして、
ついつい他のことをしてしまい
時間を無駄に費やしてしまう。


-


そうこうしていると
愛ちゃんが妹達を連れて
お見舞いと称して
家を訪ねて来た。


犬女ちゃんは
双子のユウちゃんとユアちゃん、
そしてマイちゃん、ミイちゃんと
一緒になって喜んで遊んでいる。


「もう!
せっかくいろんなイベントが
発生していたというのに
私がまったく参加出来ていない
じゃあないですか」


「いや、そもそも学校違うし」


愛ちゃんはクリスマス・イブも
部活の練習があって
参加出来なかったため
ハロウィン以来、
特にイベントらしきものがない。


「ですから、
お見舞いこそは
私のイベントにしないとと思いまして、
はせ参じましたよ」


「その割には妹達も一緒なんだが」


本当のところは
愛ちゃん達の兄であるジャガイモに
大掃除の邪魔だから、
ちょっと外に遊びに行って来て
と言われたらしい。


『だからってうち来んなよ!
うちだって大掃除なんだよ』


そこで改めて
犬女ちゃんとちびっ子ちゃん達が
家の中をドタドタバタバタ走り回って
鬼ごっこをしていることに気づく。


ものすごく嫌な予感がする純心。


案の定、家中の物が
なぎ倒され、蹴散らかされ、
まるで泥棒が入ったかのような様相。


純心の部屋の中も
走り回られて
荒らされまくってしまっており、
片付けはじめる前より
ひどい惨状になってしまっている。


『あぁー、もういいわ
この際、この部屋ごと捨ててやるわ』


すっかり捨てばちに
なってしまっているようだ。


-


大掃除が終わらなくて
純心涙目のところを
お見舞いと称して、
次々と訪問者がやって来る。


「純心、お見舞いに来たよー」


「お具合はいかがでしょうか?」


「気になったので
様子を見に参りましてよ」


夏希、お嬢様、生徒会長、図書委員、
ここまではいつものメンバーなので、
まぁわかる。


小夜子先生、日向先生、剛田先生、
これも先生トリオなので、
ここもまぁわかる。


そこから怒涛の勢いで
クリスマスパーティーを
手伝ってくれたメンバー達が
次々と大挙して押し寄せて来た。


『ラッキー!大掃除、
手伝ってもらえるんじゃね?』


はじめはその程度に
純心も考えていたが、
もはや人が多過ぎて、
家の中で満足に動くことすら
難しくなってしまっている。


こんな状況で掃除など
出来るはずもない。


心配してお見舞いに来てくれたのは
本当に有難い、有難いのだけど。


『別に今じゃなくてもいいだろ』


しかもよくよく話を聞いてみると
大掃除が嫌で家から逃げて来たやつが
ほとんどだった。


『お前ら、邪魔するなら帰れよ』




結局、その日は大掃除どころか
余計に家中が散らかってしまい
涙目になる純心だった。











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