犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとスキー教室(2)

犬女ちゃんが
純心を見つけたとき、
純心は大木の前に横たわり
気を失っていた。


吹雪で視界が悪くなった中
それほど上手くはないスキーで
巨木に激突し倒れたのだ。


手で純心の体を激しく揺さぶり、
耳元で吠えたり、顔を舐めたりして
純心を起こそうとする犬女ちゃん。


このままここで倒れていたのでは
確実に純心は凍死してしまう。




純心が目を覚ますと、
目の前には犬女ちゃんの顔があった。


頭を強く打ったせいか
意識がはっきりしない。
脳震とうでも起こしているのだろうか。


そして何よりも寒い。
体が芯から冷え、
震え上がりたいところだが
それすらも体が思うように動かない。


どうやら吹雪の中で
自分が遭難しているらしいことは
なんとなく理解は出来た。


自分はここで死ぬのだろうか。
朦朧とする意識の中で
そんな考えが頭をよぎる。


-


体が動けそうもない自分。
そして目の前にいる犬女ちゃん。


純心ははっきりしない意識の中で
それでも犬女ちゃんのことを
心配していた。


動けない自分は
ここで死ぬのかもしれないが、
無事そうな犬女ちゃんなら
まだ助かるかもしれないと。


「お前だけでも……
みんなのところに戻ってくれ」


しかし犬女ちゃんは
純心のそばを
決して離れようとはしない。


純心にもそれはわかっていた。
犬女ちゃんがそう簡単に
自分を見捨てて行く
ようなことはしない。


それでも純心は
せめて犬女ちゃんだけでも
助かって欲しかった。


「じゃあ……
戻って、みんなを
呼んで来てくれよ」


それならば
犬女ちゃんはみんなの元に
戻ってくれるかもしれない、
純心は冴えない頭でそう思う。


今ここで
純心の元を離れてしまうと
降り積もる雪に
匂いが消されてしまって
もう一度戻って来ることが
出来ないかもしれない、
犬女ちゃんはそう直感していた。




犬女ちゃんに
他に選択肢などなかった。
純心のそばを離れるという
選択肢など最初ハナからないのだ。


このままここで
純心と一緒に死ぬか、
純心と一緒に生きて帰るか、
犬女ちゃんには
その二つのどちらかしかない。


純心を置いて行き
自分一人だけが助かる、
そんな選択肢が
犬女ちゃんにあるはずはない。


二人はいつでも一緒なのだ、
一緒でなくてはならないのだ。


例えそれが、二人揃って
死ぬことになるとしても、
犬女ちゃんにとっては
それこそが本望だった。


大好きだったおばあちゃんが
死んでしまったとき、
犬女ちゃんはおばあちゃんに
寄り添ったまま、そこから
離れようとはしなかった。


誰にも発見されなければ
犬女ちゃんもそのまま餓死して
おばあちゃんと一緒に
死んでいたかもしれない。


それでも犬女ちゃんは
ずっとおばあちゃんと
一緒に居続けようとした。
犬女ちゃんはそういう子なのだ。


-


吹雪がおさまるのを待つ学校関係者、
その場には重苦しい空気が流れている。


一体いつまで待てばいいのか。
こんな吹雪の中を長時間外にいたら
最悪凍死してしまうかもしれない。


せめて風雪がしのげる場所で、
焚火でもしてやり過ごしてくれたら
まだ助かるチャンスはあるのだが、
先生達の間でもそんな話がされていた。


夏希、お嬢様、図書委員も
三人とも青ざめた顔で
目には涙を浮かべている。


純心と犬女ちゃん、
二人ともかけがえのない
自分達の友人。
どうか無事に帰って来て欲しい。


少女達はただひたすらに
心の底から祈り続けるばかりだ。




しばらく経つと、
吹雪が一瞬奇跡的におさまる。


捜索に向かうには今しかない。
予報では明日の朝まで
天気が悪いとなっていたので、
すぐまた荒れた天候になる可能性が高い。
時間との勝負でもある。


剛田先生をはじめとする
学校の先生と一緒に
夏希、お嬢様、図書委員達は、
純心と犬女ちゃんの捜索に向かう。


-


白い雪原と白い空、
白しかない世界。


その中をはるか遠方に
色彩あるものが
ゆっくりと動いている。


「犬女ちゃん!」


夏希は瞬間的に
それが犬女ちゃんに
間違いないと直感する。


純心捜索メンバーは
その犬女ちゃんと思われる
色彩に向かって
雪をかき分けながら
近寄って行く。




だがそばまで近づくと
その犬女ちゃんの鬼気迫る姿に
一同の足が止まった。


雪まみれになりながらも
純心を背中に背負い、
決して離さぬように
純心の衣服を口に咥え、
目を血走らせて
鼻息を荒くしている。


純心は意識を失っており、
ぐったりと四肢を投げ出し
覆いかぶさるようにして
犬女ちゃんの背中の上に
横たわっていた。


犬女ちゃんがこの逆境の中を
満身創痍、孤軍奮闘して
ここまで純心を担いで来たのは
誰の目にも明白だった。




犬女ちゃんは
荒ぶり、昂ぶり、興奮していた。


純心を救うために
自らが持つ野生の力を
すべて解き放っていたからだ。


自らを鼓舞させ
昂り興奮することで
血流も早くなっており
その体温も上昇している。


犬女ちゃんの
ビーストモードが発動している
と言ってもいい。


そして、その気力の発動が、
闘争にではなく、純心を、
大切な人を守るためにあるところが
『男』ではなく犬『女』である由縁だ。
犬女ちゃんの野生の本能は
母性愛と直結している。




雄々しく力強く
雪原を歩むその姿は
見ている者の
魂を激しく揺さぶる。


夏希、お嬢様、図書委員を
はじめとする
その場にいる一同の目から
自然と涙が流れ落ちている。




その姿はまさしく美しい獣。











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