犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとクリスマス(5)/12月23日

二十三日は
クリスマスパーティー準備のため、
大勢の人間が老人ホームに押しかけた。


入居しているお年寄りには
介護スタッフの人から事前に
説明をしてもらってはいたが、
それでもやはりびっくりしている
おじいちゃんおばあちゃんも見られる。


数日前から老人ホームに
電飾付けまくって
夜はイルミネーションで
雰囲気を出すなどの案もあったが、
それでは夜明る過ぎて
お年寄りが寝られないだろうと
いうことになり却下になった。
これでもお年寄りには
最大限に配慮しているのだ。


大きなクリスマスツリーに
イルミネーションの電飾を付け、
会場設営やら何やらが進められた。


「わざわざホームの修理に
来ていただいたんですか、
よかったらお茶でも飲んで
休憩なさってくださいな」


「こんな時期にお仕事大変ですねえ」


根本的に勘違いをしている
おばあちゃんにお茶を出されてしまった。


「あ、そうじゃないんですよ」


と言いつつも
結局美味しくお茶をいただくことに。




まだまだ若いもんには負けん
という気概のあるおじいちゃんは
準備を手伝ってくれたりする。


「こう見えても俺っちはな
昔は大工の棟梁だったんだぜ、
高い所は任せておきな」


手伝ってもらうのは
ありがたいのだが
これで怪我でもされたらと思うと
ハラハラどきどきしてしまう。


「なんだなんだ、
そのへっぴり腰は
もっと根性入れんか」


若者にダメ出しをするのが趣味の
小うるさい爺さんもいて、
スタッフがリアクションに
困ったりもしている。


-


相変わらず犬女ちゃんは
おばあちゃん達に
可愛がってもらっていた。


「犬女ちゃん、
お友達いっぱい連れて来てくれたのね、
ありがとね」


『本番は明日なんですが』




おじいちゃん達は
相変わらず若い娘の姿をした
犬女ちゃんに鼻の下を伸ばして
デレデレしている。


前回、犬女ちゃんがおじいちゃんを
肉球でペシペシしたことが
ホーム内で問題になったらしい。


その結果、
犬女ちゃんの肉球でペシペシして
もらいたいというおじいちゃん達が
行列をつくって並んでいた。


お前一人だけずるいじゃないかと
ホーム内で問題になったらしい。


『ここ、爺さんの
変態率高過ぎないか?』


それを見た小夜子先生はまたも歓喜する。


「さ、さすが犬女様、
本来尊敬すべき人生の大先輩に
あのような辱めを与えるとは
まさに鬼畜の所業、犬畜生様」


ここはむしろ小夜子先生が
年功序列を気にするタイプだ
ということに驚くべくだろう。


『自分も並んで
ペシペシしてもらえばいいのに』


純心にまでそんな心配をされる
ところまで来てしまったが、
真性のガチ変態というのも
プロセスとか必然性だとか
いろんなところに
こだわりがあるので厄介だ。


-


パーティーの準備を通じて、
こうして学校のみんなが
お年寄り達と交流をはかる、
それ自体にも意義がある
ということになるのか。
純心はそんな風に思う。


本当はこんな大がかりでは
なくても全然よくて、
普段からちょくちょく
交流をはかればそれが一番
いいのではないかとも思う。


人と関りを持つのは大変なことだ。
適当に付き合うだけなら
最初から付き合わないほうがいい、
付き合うからには、自分にも
相手のことをきちんと
考えてあげる覚悟がいる、
少なくとも純心はそう思って来た。


大勢の人ときちんと
向き合うことが出来るほど
自分の懐は広くないことも知っている。
だからごく身近な人間だけを大事にして
その人達とはちゃんと
向き合うようにしていた。


それでも例え薄い付き合いだとしても
無いよりはいいのかもしれない、
そんな風にも思いはじめてもいる。


答えがあるようなものではないので、
純心はこの先もずっと
考えて行くことになるだろう。
でも少なくとも
考えるようにはなっていた。


-


結局、準備が終わって
出来上がってみれば
クリスマスツリーがあるので
なんとかクリスマスだ
というのはわかるが、完全に何かの
フェスティバル会場みたいになっていた。


この老人ホームが郊外にあり
敷地が広く、大きい庭などが
あったことも救いだった。


屋外には本当に模擬店が建てられ、
タコ焼き、焼きそばなどの
店が並んでいる。
いつの間にか野外会場のようなもの
まで出来上がっていた。


出張文化祭、もしくは文化祭の押し売り。
そんな大がかりなものを
押し売りされるほうは
たまったものではないだろうが。


ちょっとお年寄りには
派手で賑やか過ぎやしないだろうか、
純心はそんな風にも思うのだが、
明日になれば子供もいるわけで
子供は逆にこういうほうが
喜ぶかもしれないというのが
難しい塩梅でもある。




「おぉ、
イルミネーションきれいだねー」


夜になると
老人ホームに飾られた電飾が
暗い夜の中で一際輝き光を放つ。


そのイルミネーションを
学校から来ているスタッフ、
おじいちゃんおばあちゃん
ホームの介護スタッフ、
みなでしばらく眺める。


「若い人達がこうやって
自分達のために
いろいろやってくれるのは
ありがたいことだよ」


おじいちゃんおばあちゃん達は、
感謝の言葉をくれた。


『まずとりあえずはやってみよう』


そう、
たまには犬女ちゃんのように
親切を押し付けてみよう、
純心はそう決意したのだから。













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