犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと京都・大阪(5)/清水寺

清水寺、
京都修学旅行の
定番中の定番。


もちろん、他にもよい
紅葉スポットはあるのだろうが
京都に観光に来たからには
ここに来ないとはじまらない、
そんな場所でもある。


市内の移動は、
時間もあまりないため、
お嬢様財閥がオーナーとなっている
観光会社の人間が専用の車を
運転手付きで用意してくれていた。


やはり知らない土地での
電車・バスでの移動は
タイムロスが激しい、
純心は東京巡業で
そのことをよくわかっている。


「せっかくですので、お着替えも
ご用意させていただきましたわ」


『紅葉を見るのに
着替えもクソもあるのか?』


男子である純心なら
当然そう思うのだが、
お嬢様が用意した
着替えは着物だった。


この旅行に賭けるセレブ組の
思い入れが強過ぎてコワイ。


お金の持ちが本気で遊びだすと
こういうことになって来る
ものなのだろうか。


それこそすぐそこにあるだけに
祇園でお茶屋遊びをしようと
言い出しかねない勢いである。


『でさ、
せっかく車移動でロスなくしたのに、
着替えで台無しにするってどうなの?』


着物の着替えは
時間がかかるものだが、
それでもプロ中のプロに
着付けてもらったので
早かったほうだ。


純心は文句の一つも
言いたいところだったが、
それでも女子達の着物姿を見たら、
そんなことはどうでもいいかと
思えて来る。


夏希、お嬢様、生徒会長、
そして図書委員、みな
綺麗な着物がよく似合っており
華やかで美して可愛らしい。


小夜子先生も綺麗で
艶やかではあったが、
この人の場合やはりどこか
派手な水商売の女性という
オーラが全開になってしまう。
持って生まれた
才能のようなものだろうか。


-


せっかく普段の姿のままでも
入れるということなので、
犬女ちゃんはお着替えをしなかった。


清水寺に至るまでの道程は
やはり清水坂を通って
行きたいところだ。
ここを通らないとなぜか
清水寺に来たような気分になれない。


石段を登りながら、
坂道の両側にある
土産物屋などを
眺めながら行くのが、
祭りの縁日と同じような感覚で
清水寺の正しい楽しみ方のように
純心には思える。
どちらも神事であるのだから
そういう楽しみ方もおそらく
間違ってはいないだろう。




しかし清水坂も観光客で
すでに人混みが出来ていた。
ここもやはり訪日外国人が多く
京都が国際的な観光地と
なっているのが実感出来る。


犬女ちゃんが『カオル』と呼ばれるのも
すっかりいつものお約束だ。


人混みの中を四つ足の犬女ちゃんが
歩くというのは少し引け目がある。
単純に二本足の人間が歩くのと
四本足の犬女ちゃんでは、
地面を占有する面積が違う
というだけのことなのだが。


犬女ちゃんも人混みには
だいぶ慣れて来たようで、
そんなときは自ら二本足で
立って歩くようにしてくれる。
後ろを歩いていた人は
突然目の前の視界が遮られて
びっくりするだろうが。


-


仁王門と呼ばれる大きな門。
門も壮観ではあるが、
純心はまったく別のことに
気をとられていた。


門の両脇に対になって
置かれている『狛犬』。
先ほどの『白狐さん』の
話ではないが、
今度は完全に『犬』と
名前についている。


狛犬は犬というより
どちらかというと獅子だと
純心は思っていたのだが、
スマホで調べる限り、
獅子と犬の両方が
対になっているらしい。
この場合、獅子と言っても
ライオンではなく
獅子舞いの方の獅子だが。


そして門の入り口にある
あたりからして、
こちらはどうも
完全に番犬扱いのようで、
犬女に関係があるというよりは
完全に犬そのものであると思えた。


-


思わぬことから
犬女と神の使いについて
考えることになったが、
今回旅行のメインはあくまで
紅葉を見ることにある。


清水寺の境内では
いたるところで
赤く染まった紅葉が
目に入って来る。


清水の舞台から見下ろすと、
清水寺の紅葉と京都市内を
一望することが出来た。


真っ赤に燃えるような
紅に染まっている、その光景に
一同みな息を吞むばかりだ。


美しくはあるが同時に
せつなさや儚さを感じる光景。
散る前に見せる最後の命の炎、
そんな想いが人を
ちょっとだけ感傷的に
させるのだろうか。


少し先に進み奥の院から
清水の舞台を背景にして
眺める紅葉は、
また格別に美しい。


『犬女ちゃんと
紅葉を見ることが出来た…
それもこんなところで』


紅葉を見たいと願った純心、
その願いは思わぬ形で
成就したことになる。
少し予想外過ぎる
成就の仕方ではあったが。




清水の舞台の北東には、
音羽の滝という
三筋の水が滝のように
上から流れ落ちてくる
清めの水がある。
その水を飲むと
長寿、恋愛成就、学業の面で
効果があるとされているようだ。


長い行列を待って、
清めの水飲む純心一行は
それぞれ何を願って
その水を飲むのか。


犬女ちゃんには
長寿の水を飲ませてあげ、
自分はとりあえず
学業の水を飲んでおく純心。


-


夜は清水寺が
ライトアップされると言うので
その時間まで付近で時間を潰し
また来ることにする。


京都初日の今日、
大学やら稲荷大社やらを
回ってから来たため、
時間的にももうすぐ夕方。


ライトアップがはじまるまで
それほど待たされることも
ないだろうと、
犬女ちゃんが熱望する
抹茶パフェをみなで食べ
お茶をしたりしながら
しばし時を過ごす。




ライトアップされた
清水寺は壮大かつ幻想的で
まるでこの世ではない
異空間にでもいるかのようだ。


寺院や紅葉が
秋の夜空に光輝きながら
浮かび上がっている
ようにも見える。


純心が横を見ると、
周囲の光を反射させて
犬女ちゃんの目も
きらきらと光り輝いていた。


この幻想的な空間と時間を
犬女ちゃんとみんなと
一緒に共有して過ごせたことを
純心はずっと忘れないだろう。











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