犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと京都・大阪(4)/稲荷大社

京都に着き、
秘密結社『大学関係者』
関西支部を訪れる純心一行。


『秘密結社』というのは純心が
勝手に言っているだけなので、
本当は全然そんなことはない。


人権擁護や動物愛護、環境保護
などリベラルな活動を行っている
大学教授や関係者、文化人の集まり
というのがその実態である。
活動家が多いので
『秘密』はともかく『結社』は
案外間違いではないかもしれない。


もう何人もこういう人達に
会って来た純心。
聞かれる内容も
だいたい同じなので、
手慣れている感じすらある。


犬女ちゃんの愉快な仲間達である
女子高生メンバーも、
純心と犬女ちゃんに同行して、
何度かこういう人達と
会ったことがあるので
そこまで緊張はしていなかった。
一番緊張していたのは
小夜子先生かもしれない。




「この後どうするの?
どこか観光でもして行くの?」


集いの終わりに、
白髪で気のいいおじいちゃん
という感じの大学教授に聞かれ、
稲荷大社とか清水寺に
行くつもりだと答える純心。


朗報だったのは、
この辺の神社仏閣では
犬女ちゃんは人間の変装を
しなくてもよいということだ。


こうした関西にいる
活動家の人達が
訪日外国人も増えているのだから
犬女への偏見や差別をなくせ、
外国を見習えと今圧力を
かけている真っ最中だと言う。
海外では犬女にも
人権があるらしい。


『関西支部、グッジョブ!』


「そりゃあんた、お稲荷さんが
『びゃっこさん』を追い出すわけには
いかんでしょうよ」


白髪の大学教授は
そう冗談めかして笑ったが、
そのときは純心に
その意味がわからなかった。


-


稲荷大社にも訪日外国人が
大勢観光に来ており、
京都がすっかり世界的な観光地と
なっているのがよくわかる。


「Oh! カオルサン!」


犬女ちゃんを見た外国人は
例によって名前を間違えて
『カオル』と呼びかけて来た。


『またそれか!』


外国人の『カオル』好きは
もはや尋常ではない。
日本に入国する外国人は
あのPVを見なくてはならない
決まりでもあるのはないだろうか。




「Oh! ビャッコサン!」


ある外国人が
犬女ちゃんを見てそう言う。


『びゃっこさん』
大学教授も同じことを言っていた。


「ああ、なるほどね」


気になって『びゃっこさん』について
スマホで調べていた図書委員は
うんうんと頷いている。


「何が、なるほどなんだ?」


「キツネってさ、
哺乳綱ネコ目イヌ科イヌ亜科なんだよね」


純心の疑問に答える図書委員。


「要はイヌの仲間ってことだね」


『キツネとイヌって親戚なの?』


「稲荷大社の稲荷大神様のお使い、
眷族はキツネだから、それでさっきの
教授の冗談になるわけね」


大学教授の冗談と外国人観光客の
共通キーワードを口にする純心。


「びゃっこさん?」


「びゃっこさんは、
白い狐と書いて白狐さんだから」


「白狐さんは、神様の使いだから、
人間の目には見えないらしいけど」




この流れだと当然、
犬女ちゃんが白狐さん
ということになる。


改めてまじまじと
犬女ちゃんを見つめる純心。
今までずっと耳と尻尾は
犬要素だとしか
思ってこなかったため
ピンとは来ないが、
最初にキツネと言われれば
そう思ったのかもしれない。


そばにある白狐さんの像と
比べてみても似ているような
似ていないような。


そもそも耳と手足と尻尾以外
人間の姿なのだから、
どちらでもいいと言えば
どちらでもいい。


やはり鳴き声が『わん』だから
とりあえず犬ということに
されたのだろうか。




そんな純心を、
どうしたの?というような顔で
見つめ返す犬女ちゃん。


『ちょ、ちょっと待てよ、
最初に犬女の犬の部分を
犬だって言い出した奴誰だよ、
そいつの業が深過ぎるだろ』


もし犬女が、
白狐さんまでいかないとしても
例えばキツネ女と呼ばれていたとしたら、
社会的なイメージは
大きく変わっていただろう。


それこそお稲荷さんなどは
日本全国どこにでもあるし、
狐は信仰対象として
認識されているのだから
ここまで忌み嫌われることも
なかったかもしれない。


ただもしかしたら、
信仰対象である白狐の対極として
犬女という位置づけが
必要だったのかもしれないが。


犬も神の使いとされることはあるが、
やはりメジャーなキツネの比ではない。


だがキツネも白狐など
神の使いだけではなく、
妖狐や化け狐といった
マイナスイメージの存在も多い。


そしてキツネは人間によく化ける。
もちろん伝承の中での話ではあるが、
人間に化けたキツネが、
キツネに戻れなくなって
犬女になっていったという
可能性はないのだろうか。


純心の頭の中では、
人間によく変装する犬女ちゃんと
人間に化けるキツネのイメージが
どうしても重なってしまう。


そうした伝承に残っている狐の中に
実は犬女ちゃんのご先祖様が
混じっていたりするのではないかとも
妄想してみたりする純心。


-


稲荷大社にある
千本鳥居を歩いて行く一同。


朱色の鳥居が連なって
和の美しさの中に、
神秘的な雰囲気を醸し出している


そもそもは千本鳥居は
現世から神様がいる
幽界へと続く門として
鳥居が建てられるように
なったのだと言う。


その鳥居が多数建てられて
千本鳥居と呼ばれているが、
実際には一万本前後の
鳥居が並んでいるらしい。


延々と続く鳥居の門を通ると、
太陽からの陽射しを遮りながらも
その隙間から零れる光が
特殊な非日常空間を生み出している。


まるで本当にこの世ではない世界に
連れて行かれてしまうような
そんな錯覚すらしてしまいそうだ。




犬女ちゃんは興奮して
四つ足で駆けて行き、
少し先で立ち止まり
振り返って
みんなが来るのを待っている。


朱色の鳥居と木漏れ日が
つくり出す非日常空間、
朱に染められた
光景と陰影の中で
非日常的な存在である
犬女ちゃんがただずむ姿は
本当に神様の使いのように見える。











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