犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと京都・大阪(3)/新幹線

車内の清掃が終わり
新幹線の乗車口
ドアが開くと、純心達は
荷物を持って中に入る。


そのなぜか薄暗い
入り口に犬女ちゃんも
ちょっとどきどきだ。




『グリーン車かよ!』


新幹線に乗った純心は、
座席がまさかの
グリーン車であることに驚く。
普通ならホームに
立っている時点で
わかりそうなものであるが。


「ずいぶんと
気前のいいスポンサーだな」


これだけの人数が
グリーン車となると
そこそこの金額となるだろう、
秘密結社『大学関係者』の
関西支部はかなり羽振りが
いいのではないか。


「あらグリーン車の追加料金は
私のほうで払っておきましてよ」


お嬢様に負けず劣らず
お金持ちである生徒会長。


『グリーン車なんか
はじめて乗ったぞ、俺』


「やはり
ゆったりしていたほうが
いいですよね」


お嬢様自身が
ゆったりしているのだが。


『もしかしたら
この人達と結婚したら、
俺一生遊んで暮せるんじゃね?』


最近のご令嬢方の
豪遊ぶりを見ていると
そんな邪な気にすら
なってしまう。


『いかんいかん、
ちゃんと真面目に
働いているところを見せなくては
犬女ちゃんの教育によくない』


まるで子供を持つ
親のようである。
親の背中を見て子は育つ的な。
純心の過保護ぶりも
ついに親レベルまで
到達してしまったのか。


犬女ちゃんと二人で一緒に
飼ってもらえばいいだけなのだが、
それは言ってはいけない
お約束と言うものだろう。


-


犬女ちゃんは
普段乗っている電車と
かなり様子が違っているため、
珍しそうにしている。


もしかしたら電車だと
思っていないかもしれない。
人間が使う鳥の乗り物の中は、
こんな風になっているのか
と不思議に思っているのかも。


確かに新幹線の
グリーン車ともなると
飛行機の座席に近いものがある。




みなが指定席に座ると
修学旅行のお約束、
シートを回転させ
四人が向かい合って座れる
対面フォーメーションをつくる。


それでも七人の
ちょっとした団体であるから
通路を挟んだ
反対側の座席も同様に
シートを回転させ、
フォーメーションは完成だ。


犬女ちゃんには
進行方向の右窓際に
座ってもらう。


進行方向逆向きに座ると
人間でもたまに
気持ち悪くなる人がいるが
感覚が人間より鋭い
犬女ちゃんの体調に
どんな影響を与えるか
わからないと
獣医志望のお嬢様が
心配したためだ。


-


電車はいつの間にか
駅のホームを離れて行く。


発進が静か過ぎて、
発車したことにすら
気づかなかった。


どんどん駅のホームが
離れて行きすぐに見えなくなる。




電車がどんどん加速して行き
スピードが上がっていく中で、
車窓からじぃっと
外を見つめている犬女ちゃん。
飛ぶように変わり続ける
窓の景色に一体何を思うのか。


人間の乗り物は早いなぁと
感心しているのだろうか、それとも
自分も負けてはいられない
もっと早く走れるようにならなくては
と思っているのだろうか。


どちらかというと
後者のような気がして
ちょっと不安ではあるが。




新幹線がトンネル区間を
走っている際は、
窓から景色が見えないため
犬女ちゃんも
退屈しているだろうと
純心は思ったが、
意外なことに
窓の外の闇を
じっと眺めていた。
暗くなったときに窓に映る
自分が人間に変装した姿を
見ていたのかもしれないが。


-


それからは
みなでわいわい言いながら
駅弁を食べるのだが、
小夜子先生が大量に
駅弁を買い込んで来たため、
犬女ちゃんはひたすら
それを食べ続けるハメになる。


おばあちゃんから教えられた
出された食べ物は
残さず食べなさい
という言いつけを
必死で守ろうとしている
いい子な犬女ちゃんなのだ。




「あ、富士山が見えるよー」


夏希の声にみなが反応し、
犬女ちゃんも一緒に
富士山を車窓から見つめる。


新幹線の車窓から見える富士山、
その雄大な姿を見て純心は
いつか犬女ちゃんと一緒に
富士山にも行ってみたいと思う。


確か富士山に登れるのは
夏に限られているから
来年以降になってしまうだろうが、
いつか一緒に山頂まで登って
ご来光などを拝みたいものだ。


山頂付近は標高が高いから
高山病で具合が悪くなる
人もいるようだが、
犬女の場合は
どうなのであろうか
などといろいろと
妄想してみたりもする。


それもこれも
犬女ちゃんの長距離移動が
出来るようになればこそだ。


来年純心が十八歳になり
高校を卒業して
自動車免許を取得すれば、
車に乗れるようになるし、
犬女ちゃんを一緒に連れて
車でいろいろなところに
行けるようになるだろう。




それでも犬女ちゃんが
こうしてみなと一緒に
新幹線に乗って
修学旅行みたいなことを
経験するのは
いいことだろうと思う。
自分も嬉しいし
何より痛快この上ない。


そう、今回の旅は
犬女ちゃんと愉快な仲間達の
修学旅行みたいなものであった。


-


かくして犬女ちゃんは、
高速鉄道に初めて乗った
史上初の犬女になる。


とはいえそんなことを
やろうとする人自体が
他にいなかっただけなので
どうだとばかりにドヤ顔されても
しらんがなーと返すしかないのだが。


それでも
新幹線が通っている
すべての地域に犬女ちゃんが
行けるようになったと考えれば、
それは大きな前進であった。


今や新幹線は北は北海道から
南は九州まで日本全土を
網羅しているのだから。


犬女ちゃんは
わずか八か月の間に
行動可能な範囲を
ここまで広げることが
出来たと言っていい。


最初の頃は、
家とその周辺ぐらいしか
行ける場所がなかったのにである。
このままだと来年辺りには
本当に飛行機で海外にも
行ってしまいそうな勢いだ。











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