犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと京都・大阪(2)/新幹線

京都に向かうため、
東京駅に降り立つ
純心と犬女ちゃん。


もちろんこれから
新幹線に乗っての
移動となるので
犬女ちゃんは人間に
イオちゃんに
変装している。


三泊四日分の
純心と犬女ちゃんの
着替えを積めた
キャリーバック、
その取っ手に
手を突っ込んで
コロコロ引っ張るのが
楽しいらしく、
すぐにキャリーバックを
引きたがる犬女ちゃん。


これもまた犬の遺伝子による
本能みたいなものなのだろうか。
人力車の一件以来、やたらと
荷物を引きたがるように
なって来ている。


キャリーバックの取っ手を
ちゃんと握れるわけではないので、
階段で純心が取っ手を
奪おうとうとすると
頬っぺたを膨らませて
嫌そうな顔をする。




夏も海水浴に行ったが、
そのときは母が
車を運転して移動したので、
こうした電車での長距離移動は
犬女ちゃんにとって初めてだ。


新幹線に乗るのも
もちろん初めてであり、
今回犬女ちゃんにとっては
初めて尽くしのことばかり。
それが旅の醍醐味だと言えば
もちろんそうなのだが。




東京から京都までの
約二時間半をずっと、
犬女ちゃんが
席でじっとしていられるか
車掌さんにバレたりしないか
純心の心配は尽きなかったが、
車での移動を断り
新幹線での移動を
強く望んだのも純心であった。
純心にとっては、
犬女ちゃんが新幹線に
乗ること自体に
大きな意味がある、
少なくとも純心は
そう思っている。


-


東京駅までは
夏希と一緒に来ていた。
というよりはじめから
夏希に頼る気マンマンで、
後をついて行くことしか
考えていない。


東京駅もまたやたらに広い。
新宿駅ほど複雑ではないが、
純心と犬女ちゃんだけでは
また迷うのは不可避。


広いだけに
一度違った場所に出ると
戻って来るだけでも
かなりの時間がかかる
難易度が高い
ダンジョンだけに、
ここはやはり
新宿駅を難なくクリアした
ダンジョンマスターの力が
必要だった。




京都に紅葉を見に行く
という話からはじまったが
実際には四日間ある日程で
京都と大阪を回り、それぞれで
秘密結社『大学関係者』達と
会って話をすることになっている。


なので四日あっても
二日は秘密結社との
会合で潰れるため、
ゆっくり観光に
取れる時間はあまりない。
今回は当初の目的である
紅葉を見ることに絞った
観光になるだろう。




「お待たせいたしましてよ」


待合せ場所にはりきって
やって来る生徒会長。


「みなさん、楽しみですわね」


お嬢様もウキウキしているのか、
テンション高めで
声が少しうわずっている。


「いい取材になりそうだわ」


図書委員はもうハッキリと
『取材』と言ってしまっているが、
問題ないのだろうか。


「犬女さま、おはようございます」


何よりも純心の
最大の誤算は
小夜子先生が引率として
同行することだった。


引率者が一番
問題を起こしそうで
心配なのだが
大丈夫なのだろうか。


それにみんなの前でハッキリ
『犬女さま』と
公言してしまっている。
もう隠す気すらさらさらない
ということなのか。


-


「お昼ご飯はどうしましょうか?」


「向こうで食べれば
いいんじゃないかなー」


「まだお昼には
少し早いかもしれませんわね」


「私もそれでよくってよ」


こうして
女子高生四人組を見ていると
まるで本当に修学旅行に
来たような気分になって来る。


「貴様ら、何を言っているのだ!
こういう場合は駅弁と
昔から相場が決まっているだろうが!」


担任も女子高生と
大して変わらないノリ
というのが問題だったが。




一行は東京駅の地下にある
駅弁専門の売店で
駅弁を買うことに。


犬女ちゃんは
お弁当の種類が多過ぎて
どれにしようか迷っているようだ。


小夜子先生は
犬女ちゃんが迷っている
お弁当を片っ端から取り、
大量に抱え込む。


「先生さすがにそんなに
食べきれないんじゃないですかー」


「犬女さまが車中で
退屈されたらどうするのだ!
せめてお食事だけでも
楽しんでいただかないと」


とりあえず犬女ちゃんには
何かあったら食わせておけ
という方針らしい。
それはあながち間違いではない
と純心も思う。
食べているときの犬女ちゃんは
だいたいいつも大人しい。




旅というのは
準備をしている間が
一番楽しいというのは
よく言われることだが、
こうしてみなで
これからはじまる旅に
わくわくしている今が
一番楽しいのかもしれない。


京都に行くのは
中学生の修学旅行以来であるが、
みんなのはしゃぎっぷりを見ていると
本当に当時体験した修学旅行のようで
純心もちょっとわくわくしていた。


-


新幹線乗り場のホームで
しばらく待つと
乗車することになっている
新幹線が入って来る。


その先端が尖った
独特のフォルムは
他の電車車両にはない
特別なわくわくを運んで来る。


犬女ちゃんからすれば
その新幹線の先端は
巨大な鳥のくちばしか
もしくは巨大なイモ虫のように
見えたかもしれない。


人間は鳥や虫に乗って
遠くへ行くのかと
思っているかもしれない。


初めて見る新幹線に
犬女ちゃんは目を輝やかせて、
興味津々で見つめていた。













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