犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと東京(4)/アキバ王国のケモナーさん

御茶ノ水
近辺にある大学を訪問した
純心と犬女ちゃん。


純心もようやく
大学回りの段取りも
わかるようになって来ており
慣れつつあった。
将来何の仕事につくか
わからないが
こういうのもきっと
役に立つであろう。


今回早めに終わったので、
せっかくだから
犬女ちゃんと秋葉原に
行ってみようかなどと思う。


文化祭の出店で、
メイド喫茶をやったが
まだ本物のメイド喫茶に
行ったことがない純心は、
ちょっと行ってみたいと
かねてから思っていた。


-


「お帰りなさいませ、ご主人様」
「にゃんにゃん」


メイド喫茶のメイドさんは
そう言って出迎えてくれた。


「わんわん」


犬女ちゃんは文化祭の
メイド喫茶を思い出したのか、
ここでは鳴き声を出しても
いいと思ったようだ。


人間の姿をしたイオちゃんが
『わんわん』と言っているのを
当然不思議に思ったメイドさん、
「にゃん」と「わん」をめぐって
やりとりが何度か繰り返される。


「にゃんにゃん」
「わんわん」


「にゃんにゃん?」
「わんわん?」


「にゃん、にゃん」
「わん、わん」


「にゃん」
「わん」
「にゃん?」
「わん?」


『えーい、
お前らは一体何をやっているのだ!』


面倒になった純心は
メイドさんに
犬女ちゃんのことを
話してみることにする。




「えぇー
犬女さんなんですねー」


「私、犬女さんて
はじめて見ましたー」


今や東京で野良犬を見ることが
ほとんどないのと同様に、
東京に野良の犬女などまずいない。
昔はそこそこいたらしいが、
保健所に連れて行かれるなどして
すっかり姿を消してしまったのだろう。


そもそもリアルで
犬女を見たことがある東京の人など
まずいないのではないだろうか。
東京で犬女を飼っている人など
珍種の爬虫類を飼っている人より
はるかに少ないだろう。




「でも、秋葉だったら
人間に変装しなくても
結構平気なんじゃないですかねー」


「え?」
「そうなの?」


純心は寝耳に水の
貴重な情報に驚いた。


「結構みんな
そういう変わったネタ好きですし、
ケモナーさんとかもいますしー」


純心も人外とか
獣人とかを好む層が、
一定数いるという噂は
聞いたことがあった。


そういう層からしたら
美少女の犬女ちゃんは
もしかしたらアイドル
みたいなものなのだろうか。


-


メイド喫茶を出た
純心と犬女ちゃんは
早速イオちゃんの変装をやめ、
四つ足の犬女ちゃんとして
街を徘徊してみる。


メイドのお姉さんの言う通り、
秋葉原の街を行く人々からは
概ね歓待ムードで迎えられた。


「お、
犬女って俺はじめてみたわ。
本当に耳と尻尾生えてるのな」


街行く人々からは
そんな声が聞こえて来る。
声を掛けられて、周囲に
人が集まったりもして来る。


もしかしたらここが、
こここそが、
犬女ちゃんが
犬女ちゃんのままで
人間と共存出来る
犬女ちゃんの楽園ではないのか。
そんな風にすら
思えて来てしまうほどに
秋葉原の人々に
暖かく迎えてもらっていた。




「でも俺、
顔が犬で、体が人間のほうが
萌えるんだよね」


「いややっぱ、
あのモフモフがいいわけだから、
全身は毛で覆われていて
欲しいわけですよ」


いつの間にか、
犬女ちゃんの周りでは
ケモナー談議がはじまっている。


『やばい、ディープだよ
ディープ過ぎるよケモナーって』


『ケモナーさんの
好みの境界線がよくわからないよ』


ケモナーの萌えポイントの話が、
ディープ過ぎて、
ちょっと何を言っているのか
よくわからない純心だった。




まぁそれでも街全体が
犬女ちゃんに対して
許容的で優しく、純心的には
すごく好感が持てる街だった。


どこに行っても
暖かく迎えてもらえるので、
いつか犬女ちゃんと
行ってみたいと思っていた
駅前の大型家電量販店にも
一緒に入ることが出来た。


ただもしかしたら
ゲームか何かの
キャンペーンに来た人と
間違われた可能性が
微妙に存在していてはいたが。


-


機嫌良く、調子に乗って
街の外れまで足を伸ばす
純心と犬女ちゃん。


だがどこからかを境に
人々の二人を
見る目が変わった。


いつの間にか、二人は
夢の王国・アキバの領土から
踏み出てしまっていたのだ。


それまでの暖かい
歓迎ムードから一転、
冷たい視線が投げかけられる。


慌てて来た道を急いで戻ると、
再び人々は暖かく迎えてくれる。


『アキバの国境って
どこにあるんだよ、一体?』


純心にとって謎の多い
アキバ王国だった。











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