犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと交換留学生(2)

中国大陸部出身の呉さんは、
多くの日本人が
イメージするであろう
せっかちな中国人、
そのままのような人だった。


中国語というのが、
そもそも早口のように
聞こえるのかもしれない。


そういえば、
日本語というのは
世界でも珍しいぐらいに
響きが優しく聞こえる言語だと
純心は聞いたことがある。


同じ人でも、
日本語を話していると
優しそうに聞こえるが、
英語を話すと途端に
キツい人のような印象を
与えることもあるらしい。


言語構造によって、
そんなにも変わるのかとも思うが
呉さんが母国語を喋ると
早口でなんだか威圧されてしまう。




ロシア出身のターニャさんは、
色白で黒っぽい髪ではあるが、
お嬢様と同じぐらいの美少女である。


人間、自分にないものを
持った人に惹かれるというが、
異国の美女に憧れるというのは
人間の男子であれば
一度は思ったことがある
ことなのだろうか。


見た目の雰囲気はよく似ていたが、
それでもお嬢様のほうが
やはり日本人的ではあった。
半分日本人の血が流れているから
当然と言えば当然なのだが、
単にそれだけではなく、
日本に住んでいるからなのか
日本仕様にカスタマイズされている
感じがあるのだ。


純心の母は、
世界中を転々としているため、
あまりそういう感じはないのだが、
海外生活が長い人には
それ特有の雰囲気を
感じることがある。


一番わかりやすいのは
女性の化粧の仕方なのだが、
これはまったく日本と違う。
おそらく海外ではナチュラルメイクは
流行ってはいないのだろう。
厚化粧とはまた違った意味で、
アイラインが濃いとか、
いろいろ主張が激しくて
全体的に濃い印象を受ける。


所作も全体的に大きく、
ジェスチャーなども入ったりして、
動きが海外仕様だったりもする。


母の仕事仲間とか、
海外生活が長い女性を見ると
全体的にそんな感じがすると
純心は思っていた。




ベトナム出身の
チャンティマーさん、
おそらく母国のご実家は
相当な大金持ちなのではないだろうか。


現在の日本と
ベトナムの物価差を考えると
今日本に留学に来られるというのは
相当な富裕層のご子息ぐらいのものだろう。
そういえば、他の留学生に
アラブの石油王の息子というのもいた。
この学校の交換留学生には、
そうした富裕層が多いのだろう、
学校ビジネスに意欲的な
この学校らしいと言えばこの学校らしい。




そうよくよく考えると、
犬女ちゃんが交換留学生だという
体育の剛田先生の発言は
案外的を得ていたのかもしれない。


学校の生徒達の
異文化コミュニケーション、
異文化交流の機会として
受入れているわけであるから。


ただ人間ですらない犬女と
異文化交流するという発想が
斜め上過ぎているだけで。


当の体育教師剛田先生も、
そこまで深く考えていた
わけでもないだろう。
普段から熱血脳筋なだけに、
そこは素で間違っていた
のではないかと思われる。


-


そんな四人の盛り上がりを
少し離れたところで臆して
見ていた純心だったが、
犬女ちゃんの連れとしては、
当然参加しなくては
ならない場面もあった。


ちびっ子達に話すように
簡易な言葉を選んで
ゆっくり話す純心。
しかし、いくら
簡易な言葉で話そうが
それはまったく関係なかった。
そもそも日本語で
その単語を知らなくては
それ以上先には進めないのだ。


非情に簡単に例えるなら、
『リンゴ』と
『アップル』という
言葉を使わずに、
リンゴであることを
伝えろと言われているようなものだ。


『赤い』『丸い』『果物』
などの言葉で
伝えようとするしかないのだが、
その『赤い』も『丸い』も
伝わらないのだから
もうお手上げである。


それでもスマホで
画像を検索したり、
翻訳アプリを駆使したりして、
ひとつずつ伝えていく。
なんとも根気と時間の要る
コミュニケーションである。


そこには余計なものは
一切削ぎ落して
ただシンプルに
伝えたいことだけを
伝えようとする。
それだけしかなかった。


相手に気を遣ったり、
恥ずかしがったりなど
不純物が混じっていると
決して伝わることはない。


必死で伝えようと
熱も入って来て
ジェスチャーなども
当然大きくなって来る。


海外の人が会話するとき
動きやリアクションが大きいのも
少しわかるような気がした。
必死で何かを伝えようとすると
だんだんそういう動きに
なっていくものなのかもしれない。




そして、
言葉が通じない犬女ちゃんの
気持ちもわかったような気がした。
言葉が通じないというのは
こんなにも
もどかしいものなのかと。
自分であれば間違いなく
早々に伝えることを
諦めてしまうだろう。


そもそも純心は
人間関係が希薄だった。
人と理解し合うことを
それほど求めているわけではない。
わかり合うのが無理であれば、
所詮他人は他人だと早々に
諦めしまっても無理はない。


それでも犬女ちゃんは
自分を大切に
想っていてくれるからこそ
いつも必死に諦めずに
伝えようとしてくれている。


もっと犬女ちゃんの
気持ちがわかるパートナーに
ならなくてはならない。
そう思う純心だった。


-


それだけ時間をかけて、
根気よく伝えようとして、
通じたとき
会話が成立したときの
達成感、爽快感は、
純心にこうしたアバウトな
コミュニケーションも
ありなのかもしれない、
と思わせた。


しかし、よくよく
会話を聞いてみると
留学生三人組は
犬女ちゃんのことを
ずっと『カオル』と呼んでいた。


どうやら
二種類のPVを続けて見て、
スクール水着の名札にあった
『カオル』というのが
犬女ちゃんの名前だと
思い込んでいたらしい。


『やっぱり、
誤解招くから、ちゃんとした
コミュニケーションって大事だわ』











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