犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとお芝居(2)

文化祭の舞台で、
『忠犬ハチ公』の劇を
演じることになった
犬女ちゃんと純心。


まだ脚本が完成していないのに、
後一か月ちょっとしかない、
というのは突貫作業に
ならざるを得なかった。


まずは脚本制作の
詰めからはじめられた。
原案は既に図書委員が
徹夜で書き上げた本があるので、
それをもとに詳細を
みなで話し合って詰めて行く。


原作は、みなが
よく知る『忠犬ハチ公』、
それを犬女ちゃん向けに
アレンジした内容だ。


忠犬ハチ公が
大好きだったご主人様を
毎日一日も休まず、
駅まで送り迎えしていて、
ご主人様が亡くなった後も、
駅でひたすらご主人様の帰りを
死ぬまで待ち続けた、という話。


犬女ちゃんの自らを
かえりみない献身性に
これ以上マッチした話も
ないだろう。


脚本と演出の詰めは、
実際の犬女ちゃんの話を
参考にして進められる。
例えば、
ご主人様が亡くなって、
ハチ公が悲しむシーンでは、
おばあちゃんが死んだとき、
犬女ちゃんがどういう反応を
していたかなど、
純心が聞いた限りのことを
図書委員に伝え、
それが脚本と演出に反映された。


-


舞台の練習には、
犬女ちゃんの指導係である
日向先生にも協力してもらう。


今回も日向先生は、
犬女ちゃんがお芝居をやるのに
大賛成だった。


どうも、
いろんなことを経験させて
経験値を多く得るのが、
犬女ちゃんにとって
もっともいいことのようである。
そういうのは人間と
まったく一緒なのかもしれない。




今現在、純心よりも
犬女ちゃんときちんと
コミュニケーションが
はかれるのが日向先生であり、
日向先生の協力なしでは
犬女ちゃんにお芝居であることを
理解させることすら難しい。


猿回しの猿や
他の動物などでも
ちゃんと舞台が
こなせるのだから、
きちんと訓練を積めば、
もちろん犬女ちゃんにも
出来ないわけはなかった。
ただ、異様に訓練の期間が
短いというだけで。


-


最初はどうなることかと
思われたお芝居だったが、
何度も稽古を重ね、
慣れてしまえば、
犬女ちゃんにとっては
案外と簡単なことだった。


むしろ棒演技の純心よりも
はるかによかった。
セリフがなくて、
ただそこにいるだけで
それなりによく見えてしまう
というのもあるかもしれない。


セリフがある分、
純心のほうが大変だったが、
演出担当の図書委員からは、
あまりセリフにこだわらずに、
犬女ちゃんと普段接するように
自然に接して欲しいと言われた。


そう、このお話、
前半部分に笑いの要素なども
取り入れたりしてはいたが、
前半ひたすら純心と犬女ちゃんが
いちゃこら、ラブラブして、
中盤で純心が死んで、
後半ひたすら犬女ちゃんが
悲しむというシンプルなお話なのだ。


そういう意味では確かに、
犬女ちゃんの相手役は、
純心以外にあり得なかった。


舞台の上で、
犬女ちゃんが純心に甘えるだけで、
お芝居として成立してしまうのだから。


その辺も考えて、
生徒会長と図書委員は、
『忠犬ハチ公』を演目に
選んだようである。
もう一つ候補に挙がっていたのは、
『フランダースの犬』だったらしい。
出番の量やセリフ量を考えても
『忠犬ハチ公』で本当によかったと
思う純心。




文化祭までの一か月ちょっと、
犬女ちゃんと純心は、
ひたすら稽古を繰り返し、
やっとなんとかなりそう
なところまでこぎ着ける。


-


そこで改めて
話題となったのがタイトルだった。


生徒会メンバーである
スタッフの誰かが言い出した。


「せっかくなので
オリジナルぽく
『忠犬犬女ちゃん』
というのはどうですかね?」


『犬の文字が二つ続いて
むしろわかりづらいだろ、それ』


「いや、
そもそも犬じゃなくて
犬女なのだから、そこは
『忠犬女犬女ちゃん』
なのでは?」


『犬女が二つ続いて
余計にわかりづらいだろ、
なんて読むのかすらわかねーし』


「ではこの際、
全面的にタイトル変更して、
『犬女ちゃんとご主人様』
にしたらどうでしょうか?」


『あかん、あかん
それアダルトビデオのタイトルみたいに
なっとるやんけ』


そこは馴染みがある
原作タイトルを使ったほうが
いいだろうということで、
当初の予定通り『忠犬ハチ公』で
行くこになる。


しかし、
一学期の遺恨が少なからずあった
生徒会メンバーのスタッフとも、
この舞台づくりを通じて、
そんな話が出来るぐらいにまで
関係回復出来るようになったのは、
予想外のことでもあった。


純心にしても、
大勢の人と一緒になって
ここまで集中して
一生懸命に何かをやった
ということは、
これまでの経験になく、
なんとしても舞台を
成功させたいという
気持ちになって来ていた。


あくまで主役は
犬女ちゃんではあるのだが。


-


舞台に関しては、
後は文化祭本番を
待つばかりとなったが、
実はこの舞台を
準備しているのと
ほぼ同時進行で
もうひとつ話が進んでいた。


やはりこちらも
生徒会長からの
無茶ぶりがきっかけで、
ガールズバンドプロモーションと
生徒会長は勝手に呼んでいた。











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