犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとラブレター(1)

朝、学校までは、
犬女ちゃんが人間に
変装した姿であるイオちゃんと、
夏希と純心の三人で
電車通学をしている。


イオちゃんは、電車の中では
声を出すこともなく大人しく、
純心と夏希が
話しているのを聞いている。
中身は犬女ちゃんなので、
二人の会話がどこまで
理解出来ているかはわからないが。


電車は、ローカル線ではあるが、
沿線にある私立中学や
高校の生徒達が利用しているため、
車内ではいろいろな
学校の制服を見ることが出来る。
純心達の学校の生徒以外にも
他校の生徒が大勢乗っているのだ。


人間の姿に変装している犬女ちゃんは、
絶世の美少女であるため、
同じ電車に乗っている
事情を知らない他校の生徒からは、
憧れのマドンナといったような
存在になりつつあった。




三人が立って電車に乗っていると、
前の席に座っていた他校の生徒が、
イオちゃんに席を譲ろうとする。


「ど、どうぞ、座ってください」


おそらくまだ中学生であろう、
あどけなさが残る少年。
坊主頭で、野球部にでも
入っていそうな感じがある。


少年は、顔を赤くしながら、
席を立ち、イオちゃんに席を譲ると、
足早にその場から離れて行った。


「イオちゃん、やるねー」


夏希はその男子生徒が、
イオちゃんに気があることを
見抜いていたが、鈍感な純心は、
むしろ普通の人間ではないことを
見抜かれたのではないかと、
心配していた。


いくら外見がイオちゃんであっても、
純心の中ではやはり
犬女ちゃんとしてしか考えておらず、
どうしてもそちら側の発想しか
思いつかないのだろう。


-


いつものように、
朝の通学電車に三人で乗り、
学校がある駅で降りると、
先日の坊主頭をした中学生が
近寄って来た。


中学生は顔を真っ赤にして、
ぎこちなく、体をカクカクさせながら
歩いてイオちゃんに近付いて行く。


「す、すす、すいません!」


緊張で裏返った声を出す少年。


「あ、あの…」


呼び止められたイオちゃんは、
なんだかわからず、
きょとんとした顔をしている。


「よ、よかったら、これ読んでくださいっ!」


少年は頭を下げて、
両手でつかんだ手紙を
イオちゃんの前に差し出した。


イオちゃんは当然
自分に何かを渡してくれようと
しているのはわかるが、
どうやって受け取ったら
いいのかわからなかった。
物理的に。


おそらく、
いつものように口で咥えては
ダメなのだろうということは、
イオちゃんも察していた。


イオちゃんの姿であるとき、
取っていい行動と、
取ってはいけない行動を、
過去の経験から
判断出来るようにもなっている。


人間の真似をして、
手を出してはみるが、
手袋の指部分はただ中に
詰め物がしてあるだけなので、
手紙を受け取ることなど出来ない。




中学生の少年もいつまでも
手紙を受け取ってもらえず、
顔を真っ赤にし、
手紙を差し出したままの姿勢で
硬直してしまっている。


心臓が破裂しそうなぐらい
どきどきしており、
このまま走って逃げ去りたい、
ぐらいの心境だろう。


連れがいるのに、
見ず知らずの高校生相手に
手紙を渡しに突撃するなど、
よほどの勇気がないと
出来ないことだ。


-


「ごめんねー
この子、指怪我してるからさー
代わりに私が受け取らせてもらうね」


見るに見兼ねた夏希が、
その長く細い指先で、
少年から手紙を受け取る


やっと解放されて逃げ出すかのように
少年はその場を走って去って行った。




三人の中で先頭を歩いていた純心は、
少し離れたところから、
この一部始終を見ていた。


鈍感な純心は、
何が起こったのかまったくわからず、
ただポカーンとその様子を
眺めていただけだった。




「イオちゃんもやるねー」


「まったく、隅に置けないわー」


夏希は肘で突くような
ポーズでイオちゃんを冷やかしている。


「どうした?
イオちゃん、大丈夫か?」


ようやく我に返った純心は
まだ気が付いていない。


まったくもって
想定していない事態ということだろう。


「何言ってんのー
わかんないかなー?」


「イオちゃんが、
ラブレターもらったんだよ」


夏希はニヤニヤしながら嬉しそうだ。


「ふうん、なんだそんなことか」


よくわかっていない
純心は一度軽く流した。


「…」


だが改めて考えて、
やっとその意味を理解する。


「えぇぇぇぇぇぇっ?!」


「犬女ちゃんが!ラブレター?!」


人前ではイオちゃんと
呼ぶことにしたのに、
つい思わず犬女ちゃんと
呼んでしまうぐらい
純心は動揺した。


鈍感なため今まで
まったく気づかなかった純心は
ようやく何が起こった理解し、
慌てふためく。


でも、一番何が起こったのか
わかっていないのは、
当の本人である
イオちゃんこと犬女ちゃんだった。


イオちゃんは、何が起こったか
まったく解せないようで、
何故純心が騒いでいるかもわからず、
首をかしげてきょとんとしている。











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