犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとピュアハート

犬女ちゃんはひたすら走り続けた。
純心の元に帰るために。


匂いと帰巣本能と、
山の展望台から見た
景色の記憶を頼りにして。






「犬女ちゃん、あなた、うちの子にならない?」
「あなたをぶったり蹴ったりするようなご主人様より、
おばさんと一緒に暮しましょ、ね?」


おばさんがひとしきり泣き止んで、落ち着くまで、
犬女ちゃんは、ずっとそばにいた。


犬女ちゃんに人間の言葉はわからないが、
顔をうつむかせ、クゥーンと低く何度も鳴いた。
もしかしたら謝っていたのかもしれない。


おばさんにも、犬女ちゃんの気持ちが伝わったのか、
犬女ちゃんの頭を撫で、抱きしめた。
「あなたを待ってくれている人がいるのね」


犬女ちゃんは走り出した。


少し走ったところで、
犬女ちゃんは立ち止まり振り返って、
おばさんに向かってワンと一声吠えた。
お礼を言っているつもりだったのかもしれない。


「それでも、ご主人様がいいのね」
おばさんは寂しそうな笑顔で見送った。






犬女ちゃんはひたすら走り続ける。
純心の元に帰るために。


ぶたれたり蹴られたりしてもいいから、
純心に会いたい、すごく会いたい。
ぶたれたり蹴られたりしてもいいから、
純心とずっと一緒にいたい。
犬女ちゃんはそう思っていた。






純心の匂いがする。


純心の匂いがだんだん強くなって来る。


後ちょっとだ。
後少し。


ひたすら走り続ける犬女ちゃん。


純心が名前を呼ぶ声が聞こえる。


名前を呼ぶ声がするほうに走り続ける。


山の茂みを抜けると純心の姿が。


『!』


純心も犬女ちゃんに気づき、
走ってこちらに向かって来る。




犬女ちゃんは、
嬉しくて、嬉しくて、
走っている勢いのまま純心に飛びついた。


飛びつかれた勢いで、
そのまま後ろに尻もちをついて、
大の字になって倒れ込む純心。


倒れている純心に抱きついている犬女ちゃん。
嬉しさのあまり、顔をぺろぺろ舐めまわしている。


純心は倒れたまま犬女ちゃんを抱きしめ、
泣いて謝った、今までのことを、すべてを。


「ごめんな、本当にごめんな…」


犬女ちゃんの頭を撫でながら、
何度も、何度も、泣きながら謝る純心。




泣いている純心の顔を、犬女ちゃんは、
その大きな瞳でじぃっと見つめている。


やがて純心の唇を、掌の肉球で、
軽くとんとん叩きはじめる犬女ちゃん。


純心におでこをぴったりくっつける。


そのまま、
純心の唇に
唇をかさねる。


「!」


どこでそんなことを覚えたんだ
と思う純心だったが、
以前、グロスを塗ったときに、
自分がしたことだったのを
思い出して可笑しくなる。


「ファーストキスを、奪われたな」
純心は泣きながら笑った。


純心は可笑しかった。
可笑しくて、可笑しくて、仕方なかったので、
犬女ちゃんを、もう一度抱きしめて、キスをした。






『犬女』


この世界でもっとも、自己犠牲を厭わず、
献身性を持った生き物だと言われている。


犬の忠誠と献身性、
人間女性の母性愛と情を
併せ持つからであろうか。


女神や天使が転生したものではないか
と唱える学者も一部にはいる。


また一説には、先史文明の旧人類が、
他者との関わりを失って、
寂しさの余り生み出した
人工生命体ではないかという意見もある。
そもそも先史文明の存在自体が
立証されてはいないが。


人間と同じ言葉を話せないからと言って、
犬女を自分達より下位の種族だと考えるのは、
人間の傲慢ではないのか、と言う学者もいる。




犬女の思考は単純。
だがそれ故にシンプルで強靭。
犬女ちゃんの 純粋な心ピュアハートの輝きは
色褪せることはない。









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