犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

純心と母(2)

話のきっかけは、夏希が言ったことを、
純心が話したことからだった。
母親は犬女ちゃんのことを『あの子』と呼び、
よく知っているようであった。


「夏希ちゃんの言う通りだよ」


「あんたとあの子は、
一緒に暮らしていたんだよ。
小さい頃からずっと一緒にね。」


「おばあちゃんが
あの子をもらって来たのは
あの子が赤ちゃんのときでね。
あんた達は、赤ちゃんの頃から、
兄弟同然に育って来たんだよ」


純心は驚いた。
あの犬女ちゃんと自分が、
そんな昔から一緒にいたなんて、
頭の中ですぐには結び付かなかった。




「死んだあんたの本当の父親、
あの人は若い頃から血の気が多い人でね。
かっとなってすぐに頭に血がのぼって、
喧嘩っぱやくて、瞬間湯沸かし器みたいな人だったよ。」


「あたしも若い頃は、
そんなところも男らしくて、
男気溢れててかっこいいなんて思ってて、
惹かれていたんだけどね」


「だけど、だんだんすぐに暴れて、
人を殴る蹴るするようになっていってね。」


「それでも最初はまだましだったんだよ。
それがどんどんエスカレートしていって、
ほぼ毎日暴れちまうようになっちまってね。」


「暴れ方もだんだんひどくなっていってね。
あたしも何度病院に担ぎ込まれたかわかったもんじゃないよ。
頭かち割られて血流すこともよくあったもんさ」


純心はなんとなくわかっていた。
自分がなぜ狂暴化したのか、
自己分析をしていたが、
思い当たる節はまったくなかった。
記憶にある範囲では、
大人しくて、人とうまく関われない性格だった。


人のせいにしてはいけないが、
自分の中にそうした要素があるなら、
それは遺伝ではないかと。




「それでも私は信じようとしたんだろうね。
いやそういう自分に酔っていたのかもしれないね。
悲劇のヒロインにでもなったつもりで、
あの人を支えられるのは自分だけだって」


純心は胸が苦しかった。
今自分を信じようとしてくれている人達を、
自分はこの先裏切らずにいられるのか。
純心にはまったく自信がなかった。
みんなの信じようとしてくれる気持ちを、
裏切ってしまったらどうしよう、
そう思うと重圧で胸が苦しくなって、
息がまともに出来なかった。


そんな純心を見て、母親は心配したが、
それでも純心は最後まで話を聞かなくてはならなかった。
本当の自分と向き合うために。




「あの人もさすがに
実の母親には手を出さなかったからね。
あんたはあの人が暴れ出すと、
おばあちゃんのところに行って
抱き着いてずっと泣いていたもんさ。」


「優しいおばあちゃんの記憶だけが、
あんたに残っているっていうのも、
そのせいだろうね、きっと」


いつも大好きだったおばあちゃんの
胸に甘えていた暖かい大切な思い出。
その裏にさえ容赦ない悲しい理由が隠されていた。


純心は胸が苦しくて、苦しくて、
どうにかなってしまいそうだった。

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