犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと走る女(2)

夏希が出場する
陸上競技大会は、
平日に行われた。


休日であれば、
自主錬に多少関わった犬女ちゃんを
なんとか応援に連れて行ってあげたいと、
純心は思っていたが、
学校の授業があり無理そうだった。


部活動なので、この場合、
夏希は公休扱いになる。


大会直前、犬女ちゃんとの自主練を終えた、
風呂上りの夏希に、純心はそう話した。


「じゃぁ、うちのお母さんに
連れて来てもらえばいいじゃん」


「私も練習に付き合ってもらった犬女ちゃんに
試合を観て欲しいしさ」


「それだと学校の生徒に、
夏希の家が犬女を飼ってると
勘違いされるんじゃないか?」
純心は夏希の家に
迷惑がかかるのではないかと
心配していた。


「お母さんは、犬女ちゃんは、
うちで暮していることにすればいいって、
言ってたぐらいだから、大丈夫でしょ」




犬女ちゃんは、夏希の母親に連れられて、
夏希の試合を観戦することになった。


夏希の母は、家で飼っている
小型犬も一緒に連れて来ていた。


また小型犬に会えて嬉しそうにする犬女ちゃん。
小型犬にすり寄って、すりすりしてじゃれている。
犬女ちゃんは、犬や人間に限らず、
小さい子や幼い子が大好きなようだ。
もしかしたら母性本能が強いのかもしれない。


夏希の母に連れられ大人しく、
座って試合を観戦している犬女ちゃん。




難なく短距離競技の予選を突破した夏希。
決勝では夏希母の応援にも力が入る。


スタート音と共に選手が飛び出す。
夏希と隣の選手がほとんど同じぐらいで、
トップ争いを繰り広げる。


それを見ていた犬女ちゃんは、
今までずっと大人しくしていたのに、
突然、大きな鳴き声で、ワォーンと遠吠えした。


それは競技妨害になるのではないかと
冷や冷やする程に、競技会場中に響き渡った。


応援のつもりだったのか、
一緒に走っているつもりで
走れと伝えたかったのか。


その甲斐あってか夏希は、
一位でゴールのテープを切った。


犬女ちゃんと夏希の母は、
抱き合って喜んだ。


走り終えて、夏希は
顔を紅潮させ、息を切らせていた。
汗が太陽の光で光って見える。
夏希母には、その娘の姿が
とても眩しく見えた。




夏希は犬女ちゃんを見つけると、
走って駆けよって来る。


一緒に自主錬に付き合ってくれた、
戦友である犬女ちゃんに
今の喜びを伝えたかったのだ。
お礼を言いたかったのだ。


「犬女ちゃん、応援に来てくれてたんだね。」
夏希は犬女ちゃんに抱き着き、頭を撫でた。


その感触は、少し強かったけど、
試合が終わったばかりの
今の夏希のそのままな気持ちのようで、
犬女ちゃんは嫌じゃなかった。


「犬女ちゃんが、
応援してくれた声聞こえたよ」
犬女ちゃんもまた、
その両腕で夏希に抱き着いた。


「あたし、頑張ったでしょ」
犬女ちゃんは夏希の言葉にワンと鳴いて応えた。


人間の言葉はわからないが、
夏希の気持ちが犬女ちゃんには
伝わったのかもしれない。
ねぎらったのかもしえないし、
褒めたのかもしれない。




それを見ていた涙脆い夏希の母は、
ハンカチで涙を拭いながら、
何かあったら犬女ちゃんを
うちで引き取ろうかしら、
などと本気で思っていた。




犬は群れで生活する動物である。
群れで飼われている犬を
ほとんど見たことがないため、
純心はそのことを忘れてしまっているが。


人間と暮らしている犬は、
家族が群れの仲間となる。


犬女ちゃんは、夏希を
群れの仲間だと認識していたし、
毎日一緒にはいないが、
家族の一員でもあると思っていた。

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